文化祭が終わり、各部活動の三年生は引退を迎えた。
探偵研究部からは小川が、オカルト研究会からは高杉が抜け、部室には秋風のせいとも思えない、寂しさと気の抜けた空気が漂っていた。
探偵研究部は二年生の平屋が部長に、一年生の未知が副部長に。隣のオカルト研究会は、一年生の智子一人だけとなってしまった。
そうなると、おのずと自分たちの得意分野の活動がメインとなった。
平屋はタブレット、未知は蔵書の推理小説、智子は新作のパワーストーンのアクセサリー作りと、それぞれ会話も大してないまま、数日が過ぎていた。
そんなある日だ。
「探偵研究部、平屋桂さん、有栖川美知さん、オカルト研究会、時任智子さん、至急生徒会室へ集まってください」
すこし堅めの女子の声。
生徒会長に昇格した、成瀬今日子からの呼び出しだった。
生徒会室のドアを開けると、富谷マタロウは当然おらず、そこには鋭いおかっぱ頭の成瀬今日子会長がいた。
彼女は開口一番、
「これはどういうことかしら?」
と、平屋と智子がそれぞれ提出した「部活動活動報告」をバインダーに挟んで無表情に三人に見せる。
そこには、
『推理小説の熟読』
『パワーストーンブレスレット作り』
と同じ報告が数日続いていた。
平屋は口をとがらせながら異を唱える。
「え? 別におかしいことはないだろ。もともとうちの部は『フィクションの探偵もののトリックの検証・研究』する部なんだから。オカルト研究会だって、いままでの活動と一緒だけど」
成瀬は、その目を鋭く細めたと思いきや、すうっと息を吸い、いきなり叫んだ。
「最近の君たちはたるんでいる!」
その大声に平屋、未知、智子の三人は目を丸くする。
何って、これまで成瀬から四十デシベル(図書館相当)以上の声は聞いたことがなかった。
そのうえ、あの代名詞ともいえる無表情でマタロウの後ろに控えていた副会長はそこにおらず、瞳に炎を宿すように熱弁をふるう成瀬がそこにいたからだ。
「いいですか? この学校の部活動規定は、最低でも部員は三名! そして同好会も二名以上が規定です! もはやあなたたちはこの規定に反してる。
けれど、この間の文化祭の『七不思議スタンプラリー』は好評だったし、卒業生の未発表作品を見つけた功績に免じて、来年春に新入生が入るまでは、部活動は残して置く、【特例】なのよ。
あなたたちはこの崖っぷちがどういうことか分かってる?」
平屋は、
「だからって、もう学年の後半だし、今さら勧誘活動したって意味ないと思うけど」
未知と智子も、隣でうんうんと頷いている。
「そーゆーところ‥‥‥そーゆーところよ、今の君たちの残念なところは!」
わなわなと肩を震わせたかと思うと、
「いいこと!アンタたちがそんな体たらくだと、太陽みたいな笑顔であなたたちを必死にけん引し、その長身を生かして体を張ってあんたたちを指導し、後ろ髪惹かれる思いで泣く泣く卒部した先輩が、草葉の陰で泣くわよ!」
と指先をこちらに向ける。
(いや、草葉の陰って、死んでないし。っていうか、この熱量、何?)
あまりの暑苦しさに平屋が目線を外そうとすると、未知が首を傾げて尋ねた。
「今日子先輩、なにか雰囲気変わりました?」
すると成瀬は、待ってましたとばかりに胸を張った。
「よくぞ聞いてくれた! ……いや、聞いたわね! そう! 会長になったら……」
そう言うと、彼女は両手を広げ、オーバーなポーズを取る。
「会長になったら、今までの今日子じゃいけないって気づいたの。だって、相手にこちらの話を聞いてもらわなくっちゃいけないじゃない!
今まで、何であんなにマタロウ会長の口調が江戸時代なのか合点がいったわ! あんなふうに声を大にしなくちゃ、聞いてもらえないのよ!だから私も、恥ずかしながら、声帯の限界まで声を張り上げてるのよ」
ドドド、という効果音が聞こえてきそうな勢いで、漫画じみたポーズを取る。
しかし、その途端、「げっほ、げっほ」と咳き込んでいた。
――クラスでも、こんな成瀬の姿は見たことがない。
よっぽどの覚悟のキャラ変なのだろう。
奇しくも同じクラスの平屋は、同情を込めた目でふうっとため息をついた。
「成瀬も会長になって苦労してるんだね。ところで、僕たちを呼び出した理由は?」
成瀬はすっと真顔に戻り、鋭い眼差しを平屋に向けた。
「――あなたたちの数日間、この活動報告。これ、マンネリって言うんじゃない? つまり、魅力的な活動じゃないってことよ! そうしたら、どうなる? 平屋君、あなたなら、それがどういうことか、よくお分かりよね」
「ああ‥‥‥」
平屋は頷いた。
「来年の春、新入生が入ってこない。つまり、活動継続が不可能になるってことよ!」
成瀬は一年生二人に向かって言った。
「あ‥‥‥」
今気づいたように未知が声を上げた。
「そうなんだー」
のんびりとした智子。
その言葉にまたがっかりと成瀬は肩を落としつつ、叫んだ。
「あーー!なんだって、今の『探偵研究部』はこんなに平和ボケなの? たぎるようなパッションが感じられない! もーーーー! この依頼、どうしようかしら?」
会長机に置いてあった、クリアファイルを手に取り、うなだれる。
しかし、その『依頼』という言葉に、平屋と未知は即座に反応した。
「依頼? そんなのあるなら、もったいつけずにすぐ言ってよ」
「見せてください!」
三人は、成瀬に詰め寄った。
探偵研究部からは小川が、オカルト研究会からは高杉が抜け、部室には秋風のせいとも思えない、寂しさと気の抜けた空気が漂っていた。
探偵研究部は二年生の平屋が部長に、一年生の未知が副部長に。隣のオカルト研究会は、一年生の智子一人だけとなってしまった。
そうなると、おのずと自分たちの得意分野の活動がメインとなった。
平屋はタブレット、未知は蔵書の推理小説、智子は新作のパワーストーンのアクセサリー作りと、それぞれ会話も大してないまま、数日が過ぎていた。
そんなある日だ。
「探偵研究部、平屋桂さん、有栖川美知さん、オカルト研究会、時任智子さん、至急生徒会室へ集まってください」
すこし堅めの女子の声。
生徒会長に昇格した、成瀬今日子からの呼び出しだった。
生徒会室のドアを開けると、富谷マタロウは当然おらず、そこには鋭いおかっぱ頭の成瀬今日子会長がいた。
彼女は開口一番、
「これはどういうことかしら?」
と、平屋と智子がそれぞれ提出した「部活動活動報告」をバインダーに挟んで無表情に三人に見せる。
そこには、
『推理小説の熟読』
『パワーストーンブレスレット作り』
と同じ報告が数日続いていた。
平屋は口をとがらせながら異を唱える。
「え? 別におかしいことはないだろ。もともとうちの部は『フィクションの探偵もののトリックの検証・研究』する部なんだから。オカルト研究会だって、いままでの活動と一緒だけど」
成瀬は、その目を鋭く細めたと思いきや、すうっと息を吸い、いきなり叫んだ。
「最近の君たちはたるんでいる!」
その大声に平屋、未知、智子の三人は目を丸くする。
何って、これまで成瀬から四十デシベル(図書館相当)以上の声は聞いたことがなかった。
そのうえ、あの代名詞ともいえる無表情でマタロウの後ろに控えていた副会長はそこにおらず、瞳に炎を宿すように熱弁をふるう成瀬がそこにいたからだ。
「いいですか? この学校の部活動規定は、最低でも部員は三名! そして同好会も二名以上が規定です! もはやあなたたちはこの規定に反してる。
けれど、この間の文化祭の『七不思議スタンプラリー』は好評だったし、卒業生の未発表作品を見つけた功績に免じて、来年春に新入生が入るまでは、部活動は残して置く、【特例】なのよ。
あなたたちはこの崖っぷちがどういうことか分かってる?」
平屋は、
「だからって、もう学年の後半だし、今さら勧誘活動したって意味ないと思うけど」
未知と智子も、隣でうんうんと頷いている。
「そーゆーところ‥‥‥そーゆーところよ、今の君たちの残念なところは!」
わなわなと肩を震わせたかと思うと、
「いいこと!アンタたちがそんな体たらくだと、太陽みたいな笑顔であなたたちを必死にけん引し、その長身を生かして体を張ってあんたたちを指導し、後ろ髪惹かれる思いで泣く泣く卒部した先輩が、草葉の陰で泣くわよ!」
と指先をこちらに向ける。
(いや、草葉の陰って、死んでないし。っていうか、この熱量、何?)
あまりの暑苦しさに平屋が目線を外そうとすると、未知が首を傾げて尋ねた。
「今日子先輩、なにか雰囲気変わりました?」
すると成瀬は、待ってましたとばかりに胸を張った。
「よくぞ聞いてくれた! ……いや、聞いたわね! そう! 会長になったら……」
そう言うと、彼女は両手を広げ、オーバーなポーズを取る。
「会長になったら、今までの今日子じゃいけないって気づいたの。だって、相手にこちらの話を聞いてもらわなくっちゃいけないじゃない!
今まで、何であんなにマタロウ会長の口調が江戸時代なのか合点がいったわ! あんなふうに声を大にしなくちゃ、聞いてもらえないのよ!だから私も、恥ずかしながら、声帯の限界まで声を張り上げてるのよ」
ドドド、という効果音が聞こえてきそうな勢いで、漫画じみたポーズを取る。
しかし、その途端、「げっほ、げっほ」と咳き込んでいた。
――クラスでも、こんな成瀬の姿は見たことがない。
よっぽどの覚悟のキャラ変なのだろう。
奇しくも同じクラスの平屋は、同情を込めた目でふうっとため息をついた。
「成瀬も会長になって苦労してるんだね。ところで、僕たちを呼び出した理由は?」
成瀬はすっと真顔に戻り、鋭い眼差しを平屋に向けた。
「――あなたたちの数日間、この活動報告。これ、マンネリって言うんじゃない? つまり、魅力的な活動じゃないってことよ! そうしたら、どうなる? 平屋君、あなたなら、それがどういうことか、よくお分かりよね」
「ああ‥‥‥」
平屋は頷いた。
「来年の春、新入生が入ってこない。つまり、活動継続が不可能になるってことよ!」
成瀬は一年生二人に向かって言った。
「あ‥‥‥」
今気づいたように未知が声を上げた。
「そうなんだー」
のんびりとした智子。
その言葉にまたがっかりと成瀬は肩を落としつつ、叫んだ。
「あーー!なんだって、今の『探偵研究部』はこんなに平和ボケなの? たぎるようなパッションが感じられない! もーーーー! この依頼、どうしようかしら?」
会長机に置いてあった、クリアファイルを手に取り、うなだれる。
しかし、その『依頼』という言葉に、平屋と未知は即座に反応した。
「依頼? そんなのあるなら、もったいつけずにすぐ言ってよ」
「見せてください!」
三人は、成瀬に詰め寄った。



