カースト上位のイケメンくんが、平凡な僕の癖全開マルシェにご来店です

「えっ」

思わず声が漏れ出てきた。
どうして一軍グループの寡黙ポジ――高見沢惟知がこのマルシェにいるの?
っ、そんなことはどうでもいい!
僕............学校生活終わったくない???
なんとか泳ぐ眼球を飼い慣らせないか、深呼吸を落とす。

「い、いらっしゃいませ」
「......花ノ木だよな?」
「............はい」

バレてる。
だよね。普通に顔が僕だよね。
横に伸びる華やかな目尻が、僕を見つめて逃さない。
檻に入れられた獲物みたいな緊張感が僕を全方位から縛ってくる。
このまま明日には校内で、『インキャぼっちが可愛いぬいぐるみ作って売ってたんだけど』って笑いの的にされて、半永久的に卒業するまで弄られるんだ。
最悪の場合、同窓会まで引っ張られ、笑いを取れることもなく、中途半端な過去の話題として消化される。
そこまで過ぎって全身に鳥肌が立ち上がった。

「あー......新作ってこの列?」
「っ、はひ!!」

風にゆすられても動じない強い低音が、僕の心臓を逆撫でする。
いやいや!今は恐怖心よりも接客しなきゃ。
高見沢くんが指を指しているところは確かに新作棚。
僕は首がもげそうな勢いで頷く。
高見沢くんは、そんな僕に大人っぽく伏せ目がちに笑って見せた。
へ......一軍ってすごい。
一瞬で背後に薔薇を背負うことが出来るんだ。
才能の一種なのだろう。
当の本人は、人類に自分のカッコ良さが原因で倒れてしまう人がいることは気にしていなさそうだ。
今も見上げるほど大きな身体を縮めて商品棚を見てくれている。
そして思いの外真剣に作品を吟味してくれる高見沢くんに、僕の心臓はドキリとときめいている。
恋とかではなく、ヤンキーに傘を分けてもらった捨て猫側の気分で。
僕の愛おしい子供たち(作品)を、きっと好みでもないのにここまで大切に見てくれるんだ。
一軍って理由だけで毎日ちょっと怖がっててごめんね。
顔を上げた高見沢くんとバッチリ視線が絡み合った。

(やばっ、ずっと見てたのバレたかな......)

向こうから逸らしてくれる気配はなく、場をもたせる為にかけていた丸メガネをクイッと微調整する。
その間も視線の圧が揺らぐことはない。
一応ワンオペ接客なんだし、話さないとだよね。
勇気を振り絞って、声帯にほんの少しの通り道を作った。

「お迎えしたい子はいた......?」
「え、あー」
「やっぱり高見沢くんみたいなかっこいい人は、こんな可愛いの趣味じゃないよねぇ。今日はどうしてここに来たの?」
「......この新作のクマ買いに来た」
「へ......」

首元を手でさすりながらどこか遠くを見つめる高見沢くんは、見たことないくらい耳を真っ赤に染めていた。
僕の、作品目当てだったの......?
頭の中が真っ白になった。
今自分がどこにいるのかも飛んでいったくらい。
それと同時に、身体の内側がじわっと熱くなる。
自然サウナみたいだ。
さっきまでの、一軍だからとか、学校でとか、今ばかりはどうでもいい。
嬉しい。
心の内側から溢れ出る高揚感にまみれた声が、なんのストッパーのなしに飛び出す。

「決めつけてごめんね......!嬉しい!新作思ってたよりも売れてっちゃったから、残っててよかった」
「実はブース見たとき焦った」
「あはは!どの子気に入ってくれてたの?」
「こいつ」

そう言って高見沢くんが手にしたのは、ピンクの体に赤い大きなリボンの付いた、十センチほどのキーホルダーだった。
新作の中で一番ラブリーな子。
比較的落ち着いた色合いが多い中で、少しだけ僕の好みを詰め込んでみた子。
想定していた通り、中々売れなくて寂しそうに座っていた子。
高見沢くんが付けてくれると、いい差し色になるかも。
丁寧に受け取って梱包をする。
視線を感じて顔を上げるけれど、すぐに真っ赤な顔をして逸らされる。
......もしかしたら、この趣味を知られたくなかったのかもしれない。
この子たちを編んだ僕でさえ、お母さん以外には知られたくない趣味だ。
お金を受け取って、ピンクの紙袋を手渡す。
紙袋の中心部分には、透明のフィルムシートで中が見えるようになっている。
可愛く商品が外側から見える仕様までもを、大切に見てくれてる高見沢くん。

(話せる同士が出来たと思ったけど......)

お互い住む世界が違うから。
これからも、その安全地帯のままでいようね。

「お買い上げありがとうございます!今日のことはお互い無かったことにしよう!」
「は、」
「僕はこの可愛い趣味がバレたくない気持ちわかる!だから、高見沢くんの事も学校でバラさないし、僕のことも見逃して」
「............了解」
「うんっ!その子きっと愛されるね!嬉しい!じゃあね!」

手を振ると、猫背をもっと丸めてパコリと挨拶してくれた。
胸に小さなほこりが入った寂しい気分だけれど、高見沢くんの手の中で揺れ動くピンクのクマさんを見ていると、不思議と落ち着いてくる。
趣味を分かち合うことより、作品が愛されることの方がよっぽど胸が高鳴る。

「......僕の、本当に編みたかったデザインを愛してくれる人いたんだ」

この暖かい気持ちを胸から取り出して、保管しておきたいくらい。
そのくらい、もっとわかりやすかったらなんだろう。
あ、涙が出そうなくらい、受け入れられた気がした。