月鏡の花嫁―凛々しい夫の素顔は、甘えたがりな年下皇子でした―

 月人は四人きょうだいの末っ子にして、月鏡の後継者。
 妻の琴子も、初めは不思議でならなかった。
 なぜ、第三皇子が後継者なのか――と。
 

「月人、あなたが後継者の理由って……?」
 琴子は思いきって訊ねてみた。
 言いたくないのかもしれない――その可能性もあることを想定しながら。

「僕しか、いなかったから」
「え、確か……四人きょうだいのはずじゃ――」
「そうだよね。それだけ兄姉がいて、何故僕なんだって思うよね」
 どこか憂いを帯びた表情を浮かべる月人。
「あ、言いたくないならいいの」
「ううん。いずれ、ちゃんと話さなきゃと思っていたから」
 月人は、琴子にその理由を打ち明けることにした。
 自身の過去と、向き合うためにも。

「あ、やっぱり僕の口から言うよりも――これ、読んでくれる?」
「これは……?」
「僕がまとめた、『兄姉(きょうだい)図鑑』」
「え……図鑑?」
「こうでもしないと、やってられなくて」
 琴子は、月人のハンドメイドと思われる図鑑のページを開く。

 まず、月人のきょうだい構成――。

【第一皇子・月影(つきかげ)。三十歳】
 二十五歳から放浪の旅に出て音信不通となっている。神官としての力は最強クラスだが、面倒くさがりで後継者としての自覚もなく、これまでも何度か勝手に家を空けて旅に出たりと、自由奔放に生きている。装束は普段から着崩しており、一国の主にして父でもある大神官の月光(げっこう)が頭を悩ませる異端児。

【第二皇子・月政(つきまさ)。二十七歳】
 二十一歳の時に隣国の皇女のところに婿入りすることが決まり、両親の離婚から半年後に隣国へ旅立った。やや気弱な性格だが、守護能力に長けており、結界を張ったり、攻撃を跳ね返すなど、防御力は最強クラス。

【第一皇女・月奈(つきな)。二十五歳】
 十九歳の時、両親が離婚する三か月ほど前に、かつて城下町で出会った一般庶民の男性と駆け落ち婚した。男性とは、内緒で城を抜け出した際に知り合った。
 五歳の娘と四歳の息子も神官の能力を持っているが、一般社会では使わないように、月奈が子どもたちの能力を制御している。
 月奈自身の霊力は兄弟の中では弱いものの、治癒、制御、沈静化に長け、相手の力を無効化する術にも優れている。

 そして、著者プロフィール。

【第三皇子・月人(つきと)。四人きょうだいの末っ子。二十二歳】
 兄や姉のように突出した能力こそないものの、結界、浄化、封印、治癒、制御――あらゆる神官の力を高水準で扱える万能型。
 やる気のない第一皇子と、一般家庭に駆け落ち同然で嫁いだ姉、破天荒な元皇妃である母を持つ。唯一、苦労を分かち合ってくれた第二皇子が隣国に婿入りしてからは、父に代わって祭事や政務を担い、十八歳の時に神鏡・月鏡を継承し、後継者となった。

「これ、月人が作ったの?」
「うん」
「何か、ゲームの攻略本並みに分厚いんだけど」
「続きは、時間あるときに見て。多分、話すと……一日じゃ足りないから」
「わ、わかった」
「それに――冷静に話せる自信がない」
「……」
 琴子は、これまでの月人の表情と言動で、何となく悟った。
 彼は、自分が思っている以上に苦労人である――と。

 自由奔放な長兄と、自分の道を選んで城を離れた姉。そして、家族に振り回されながらも、自分を支えてくれた次兄。三人の兄姉の姿を見て育った月人は、いつしか『自分だけはしっかりしなければ』と思うようになっていた。
 そして、月人がそうならざるを得ない出来事が起こったのは――月人が十六歳の時だった。