観望会が終わると、俺たちは一緒に駅へ向かった。五月の夜はまだ肌寒い。
「藤堂さん、こういうのよく参加されるんですか?」
「たまになー。星見たくなるときあるんだよ。白石は?」
「俺は星を見たの、すごく久しぶりでした。大学は天文サークルに入ってたんですけど。新卒からはずっと余裕なくて……」
「でも、また見たいと思えたんだ? よかったじゃん」
藤堂さんは本当に優しい話し方をする人だ。細かく聞かれてるわけじゃないのに、こちらからいろいろ話したくなる。自分を見せても、拒絶しないでいてくれるだろうという安心感があった。
「藤堂さん。ふたりのときだけ、下の名前で呼んでもいいですか」
「いいよ。白石がそうしたいなら」
ほら、受け入れてくれた。
会社では『藤堂さん』、ふたりでいるときは『直哉さん』。俺だけの特別ができたみたいで、嬉しかった。
駅に着き、改札を抜けたあと、直哉さんが手を上げて「じゃ、また会社でな」と言った。ホームに向かう階段を降りようとした背中に、咄嗟に声をかけた。
「あの! また星、見に行きましょう!」
「おう。行こうな」
直哉さんは手を振って去っていった。
誰かと一緒に星を見たいなんて、初めて思った。そんな自分の気持ちを大事にしたかったし、直哉さんに伝えたかった。
この日をきっかけに、直哉さんとは会社でも距離が縮まった気がする。……いや、直哉さんは変わってない。俺が自分の気持ちに素直になり始めたからかもしれない。
ファンだからとか、歌で救ってくれたからとか、それ以上の気持ちを持っていることに気づくまで、時間はかからなかった。
隣の席の直哉さんとは、仕事のことはもちろん、今日の昼に何食べるかとか、『昨日の星見た?』とか他愛もない雑談もするようになっていた。前の会社はフリーアドレスが自由で気に入っていたけど、直哉さんの隣にいられるなら固定席も全然悪くない。
「課長と白石くんって急に仲良くなりましたよね? まぁ、課長の不動の相棒は俺っすけどねー」
山口さんが直哉さんに書類を渡しながらそう言った。
直哉さんは『はいはい、早く行け』と軽く流して笑っていたけど、俺は正直、面白くなかった。
直哉さんは俺に顔を寄せ、小さな声で話しかけてきた。
「お前、なにムッとしてんだよー」
「……してません」
「そう? 仲良しって言われたの、やだったか?」
「……違います、それは嬉しいけど……」
周りからも親しく見えるのはすごく嬉しかった。でも、山口さんが直哉さんの『相棒』だと思えるくらい親しいことが嫌だった。
——俺だけにしてほしいのに。
「じゃあ、なんだよー」
「……分かりません! 藤堂さん、昼飯行きましょう」
俺たちは会社の近くの定食屋に来た。
まさかこのあと、直哉さんから大事な話を聞くことになるなんて、思いもしなかった。
「藤堂さん、こういうのよく参加されるんですか?」
「たまになー。星見たくなるときあるんだよ。白石は?」
「俺は星を見たの、すごく久しぶりでした。大学は天文サークルに入ってたんですけど。新卒からはずっと余裕なくて……」
「でも、また見たいと思えたんだ? よかったじゃん」
藤堂さんは本当に優しい話し方をする人だ。細かく聞かれてるわけじゃないのに、こちらからいろいろ話したくなる。自分を見せても、拒絶しないでいてくれるだろうという安心感があった。
「藤堂さん。ふたりのときだけ、下の名前で呼んでもいいですか」
「いいよ。白石がそうしたいなら」
ほら、受け入れてくれた。
会社では『藤堂さん』、ふたりでいるときは『直哉さん』。俺だけの特別ができたみたいで、嬉しかった。
駅に着き、改札を抜けたあと、直哉さんが手を上げて「じゃ、また会社でな」と言った。ホームに向かう階段を降りようとした背中に、咄嗟に声をかけた。
「あの! また星、見に行きましょう!」
「おう。行こうな」
直哉さんは手を振って去っていった。
誰かと一緒に星を見たいなんて、初めて思った。そんな自分の気持ちを大事にしたかったし、直哉さんに伝えたかった。
この日をきっかけに、直哉さんとは会社でも距離が縮まった気がする。……いや、直哉さんは変わってない。俺が自分の気持ちに素直になり始めたからかもしれない。
ファンだからとか、歌で救ってくれたからとか、それ以上の気持ちを持っていることに気づくまで、時間はかからなかった。
隣の席の直哉さんとは、仕事のことはもちろん、今日の昼に何食べるかとか、『昨日の星見た?』とか他愛もない雑談もするようになっていた。前の会社はフリーアドレスが自由で気に入っていたけど、直哉さんの隣にいられるなら固定席も全然悪くない。
「課長と白石くんって急に仲良くなりましたよね? まぁ、課長の不動の相棒は俺っすけどねー」
山口さんが直哉さんに書類を渡しながらそう言った。
直哉さんは『はいはい、早く行け』と軽く流して笑っていたけど、俺は正直、面白くなかった。
直哉さんは俺に顔を寄せ、小さな声で話しかけてきた。
「お前、なにムッとしてんだよー」
「……してません」
「そう? 仲良しって言われたの、やだったか?」
「……違います、それは嬉しいけど……」
周りからも親しく見えるのはすごく嬉しかった。でも、山口さんが直哉さんの『相棒』だと思えるくらい親しいことが嫌だった。
——俺だけにしてほしいのに。
「じゃあ、なんだよー」
「……分かりません! 藤堂さん、昼飯行きましょう」
俺たちは会社の近くの定食屋に来た。
まさかこのあと、直哉さんから大事な話を聞くことになるなんて、思いもしなかった。



