僕だけに聴こえる星の歌

 俺たちが挨拶を交わし終わり、部長が口を開いた。

「じゃあ、藤堂課長。社内の案内をお願いしますね」
 
「ええ! 俺っすか? 若い人同士のほうが気ぃ使わなくていいんじゃないかなぁ」
「そんなことないです!」
 
 俺は咄嗟にそう言って、自分でも驚いた。

「……そう? じゃあ、行こっか」
 ナオヤ……いや、藤堂さんは柔らかな笑みを浮かべ、前を歩き始めた。
 
 ナオヤは、メジャーデビューしたバンドのボーカルで、知名度もそれなりにあった。
 俺は中学生の頃にバンドを知り、ファンになった。初めてライブに行ったのは十五歳。その翌月にバンドは突然、解散した。理由も明かされないままだった。あれから、もう十年以上が経つ。
 
 それからは、曲を聴いたりライブ映像を見たりすることしかできなかった。

 そんな憧れの人が、今、目の前を歩きながら、社内を案内してくれている。
 
 心臓がやたらとうるさくて、指先まで赤く染まってるみたいだった。

「そんな広くないから、あっという間に終わっちゃったね」
「……あ、はい、ありがとうございました」
「それで、同じ部署の人たちと話してたんだけど……今日さ、白石くんさえよければ、歓迎会でもどうかなって」

 飲み会は好きじゃない。
 でも、俺は藤堂さんを知る機会を一度でも逃したくないと思った。

「ぜひ、お願いします」
「おー、よかったよかった。そんなに長くはならないと思うから、安心して」

 藤堂さんの言葉の端々に、さりげない気遣いが感じられた。
 前の会社では、若手は奴隷のようだった。そんな扱いに慣れていたからか、自分だけ特別に優しくされているような勘違いをしてしまいそうになる。

 オフィスに戻ると、同じ部署の人たちが手分けして業務を教えてくれた。
 部署内で誰かが不在のときでもカバーできるように、定期的にジョブローテーションをしているそうだ。だからか、子育て中の社員も多く、俺の部署には和やかな雰囲気が流れていた。

 こういうの、なんかいいなと思った。

 あっという間に午後六時、終業時間になった。他の部署の人たちが、「お疲れ様でしたー」と次々に帰っていく。
 
 え?
 六時ぴったりに、そんなにみんな帰るの?
 一社しか知らない俺にとっては、カルチャーショックだった。

「今日、白石くんの歓迎会に行ける人は、六時半にお店集合です! 早く上がって、各自向かってね」と部長がみんなに声をかけた。

 配属された部署は、俺を含めて十二人。小さなお子さんがいらっしゃる女性社員二人を除いて、全員参加するそうだ。

 歓迎会の店は、駅前の焼き鳥屋だった。個室が予約されているらしい。

 迷うことなく、藤堂さんの横を陣取った。

「どこ座ってもいいんだよ?」
「いや、俺はここで」

 近くにいてほしかった。
 近くで、声を聞きたかった。