俺は美樹本の後を追いかけていた。
何故か、美樹本の後を追いながら新藤のことを思い出していた。
昨日の美術部でのこと――。
俺は新藤の絵を見た後、彼女が帰った時に忘れていったスケッチブックを見つけた。
悪いとは思ったが、開いてしまった。
蛇の絵。
蛇柄の図案。
蛇をモチーフにしたイラスト。
その「蛇」という存在が、妙に引っかかっていた。
そうこうしているうちに、美樹本に追いついた。
廊下の角を曲がる美樹本。
その時、俺は見てしまった。
美樹本の、泣いているような歪んだ顔を。
さっきまで明るく笑っていた。
俺に弁当を渡し、嫌味じみたジョークを飛ばしていた美樹本。
先程までとは想像も出来ない、真逆の表情。
おい。
今ならまだ通り過ぎればいいだけだぞ。
ああいう感じに関わったら面倒になるぞ。
大体、そんな奴じゃないだろ俺は。
俺の中でもう一人の俺が警鐘を鳴らす。
それでも。
俺は廊下の角を曲がり、美樹本を呼び止めた。
「美樹本!」
「昨日の弁当箱、洗って持ってきた」
「ありがとうな」
「……先生……」
美樹本は慌てて表情を取り繕った。
「……わざわざ追いかけて持ってきてくれたんだ」
「でも、また教室に戻るのに」
美樹本は笑っていた。
だが、その目には涙が滲んでいた。
「弁当のお礼に、コーヒーでも奢らせてくれるか」
そう言って俺は、美樹本と一緒に購買部でコーヒー牛乳を買った。
「あそこで飲むか」
校庭の端にあるベンチを指差す。
美樹本は黙って頷いた。
ベンチに座り、しばらく沈黙が続く。
「……先生、新藤さん気にかけてるよね」
「……この前、いじめがあるのか聞いたよね」
美樹本は静かに話し始めた。
俺は黙って聞いていた。
「私ね、年下に気になる子がいたの」
「四つ下の男の子」
……。
「その子ね、毎週公園のゴミ捨て場で雑誌を拾うの」
「週刊誌とか、漫画とか」
楽しそうに美樹本は話す。
「拾った雑誌を最初から最後まで読むの」
「普通は立ち読みでも、気になる所だけ読むよね」
その顔を見ながら、俺はただ聞いていた。
「でね、読み終わったらまた捨てるんだろうなって思ってたの」
「でも、その子はそれを持って、ある所へ行ったの」
少し空気が変わった。
そう感じていた。


