俺は、つい呟いてしまったことを後悔した。
美樹本の表情が固まり、目が泳いでいる。
さっきまでの彼女ではない。
「……先生、何のこと……?」
「い、いや、深い意味じゃないんだ」
「何ていうか……教育実習のマニュアルに、校内のいじめや暴力を見逃さないってあるだろ?」
「ごめんな。俺、変な言い方というか、どストレートに聞いちゃって」
慌てて取り繕う。
「ふふっ、やっぱり先生変わってる!」
良かった。
美樹本は元の調子に戻っていた。
しかし、今の反応……。
あからさまに何かあるよな。
……。
そして放課後。
あの暗い娘――
新藤 朱里(しんどう あかり)は美術部だった。
昨日は部活に出ていなかったそうだが……。
教室で見ていても、誰とも話す気配がない。
時折、周囲を気にする様子は見せる。
だが、自分から話しかけることもなければ、誰かが話しかけることもない。
彼女の描いている絵を覗き込む。
「……!」
なんと言うか、独特だった。
白と黒を捏ね上げながら、それでも黒く塗り潰されそうな感覚。
素人の俺が見ても異質に思う。
彼女は終始そんな感じのまま部活を終え、
気が付けば、いつの間にかいなくなっていた。
顧問の先生も特に気にしている様子はない。
そして次の日。
いつものように新藤は一人だった。
でも、何で俺は彼女がそんなに気になるんだ?
そんな人間じゃないだろ、俺は。
昼休み。
「先生、お昼またコンビニ弁当?」
いつものように美樹本が絡んでくる。
「仕方ないだろ。作れもしないんだから」
そう答えながら、自分の発言にわずかな違和感を覚えていた。
「じゃあ、これあげる」
「感謝してね!」
そう言って、美樹本は弁当を差し出した。
「ヒュー! 先生やる~!」
それを見ていた他の生徒たちが冷やかす。
「違うだろ……」
思わず苦笑する。
そして、その次の朝、
あることが起こるんだ。


