探偵研究部――カケラノセカイ―― エピソード0・小川歩の事件簿/第五話 プロファイリング

 狭間も、笠置も、玉田も言葉を失った。

「え……、どうして?」

 と、狭間が言えば。

「いたんですよ!
 三毛猫の『メス』だけど!
 商店街の肉屋の入り口に【迷子の猫】ポスターが貼られていたんです!

 三丁目、青い首輪、日向ぼっこしてる公園。

 先輩の友達が探していた猫って、こいつですよね」

(そうだ、この一年生を何とかつなぎとめたくて、とっさに友達の猫のことを話したんだった)

「そう。……この子、クラスメートの猫の、『ちゃむ』ちゃん……」

 狭間が震える手で、その猫の背をそっと撫でる。青い首輪の鈴が、チリンと鳴った。
「おかえり」
 狭間が小さく呟くと、猫は、甘えるように首をかしげる。
 
 その猫の姿を見て、嬉しそうに小川は、白い歯を見せてにっこりと笑った。

「任務、完了っすね」

 その言葉に、三人は一瞬、言葉に詰まった。そして、同時に同じことを考えていた。

(――こいつ)

 なんで、ずっと、見切りをつけずにこの部室にいるのか不思議だった。
 でも、それは、先輩三人の顔を立てるためでも、まして探偵ごっこが楽しかったわけでもなかった。
 
 ただ、家から離れて困っている迷子の三毛猫と、どこかで悲しんでいる飼い主を、相手の立場になって想像していたからなんだ。
 
 それは、『プロファイリング』だ。

(こいつは‥‥‥、こいつは、天性の探偵だ!)

 泥だらけの顔をシャツの襟で拭っている小川の姿に、なぜか急に恥ずかしくなり、玉田は頭を掻き、笠置は額に手を当て、そして狭間は唇を尖らし頬を抑えた。
 そして、笠置と玉田に背を押された狭間が、意を決して、小川に向けて右手を差し出した。

 その声は、演技がかってはいなかった。

「小川歩君、改めて頼みたい。君にはぜひこの部に入ってもらいたい」

 小川の方は、差し出された狭間の手をみて、黒目を大きく見開き、顔を上げ、先輩三人を眺めた。

 三毛猫が
「にゃあん」
 と声を上げる。
 
 小川は、つられるように猫みたいに目を細めてから、ちょっと意地悪っぽく、

「えー、どうしようかな。
 ちょっと待ってくださいね。サッカー部も捨てがたいんで」

 と言った瞬間だ。

 抱えていた猫が、不意に小川の口元をぺろりと舐めた。

 驚いて固まったその姿に、

「いけずは言うなって」

 と先輩三人は笑った。

 そうして、部活動本登録の日に、小川歩は探偵研究部に入部した――



 エピソード0:小川歩の事件簿・了