狭間も、笠置も、玉田も言葉を失った。
「え……、どうして?」
と、狭間が言えば。
「いたんですよ!
三毛猫の『メス』だけど!
商店街の肉屋の入り口に【迷子の猫】ポスターが貼られていたんです!
三丁目、青い首輪、日向ぼっこしてる公園。
先輩の友達が探していた猫って、こいつですよね」
(そうだ、この一年生を何とかつなぎとめたくて、とっさに友達の猫のことを話したんだった)
「そう。……この子、クラスメートの猫の、『ちゃむ』ちゃん……」
狭間が震える手で、その猫の背をそっと撫でる。青い首輪の鈴が、チリンと鳴った。
「おかえり」
狭間が小さく呟くと、猫は、甘えるように首をかしげる。
その猫の姿を見て、嬉しそうに小川は、白い歯を見せてにっこりと笑った。
「任務、完了っすね」
その言葉に、三人は一瞬、言葉に詰まった。そして、同時に同じことを考えていた。
(――こいつ)
なんで、ずっと、見切りをつけずにこの部室にいるのか不思議だった。
でも、それは、先輩三人の顔を立てるためでも、まして探偵ごっこが楽しかったわけでもなかった。
ただ、家から離れて困っている迷子の三毛猫と、どこかで悲しんでいる飼い主を、相手の立場になって想像していたからなんだ。
それは、『プロファイリング』だ。
(こいつは‥‥‥、こいつは、天性の探偵だ!)
泥だらけの顔をシャツの襟で拭っている小川の姿に、なぜか急に恥ずかしくなり、玉田は頭を掻き、笠置は額に手を当て、そして狭間は唇を尖らし頬を抑えた。
そして、笠置と玉田に背を押された狭間が、意を決して、小川に向けて右手を差し出した。
その声は、演技がかってはいなかった。
「小川歩君、改めて頼みたい。君にはぜひこの部に入ってもらいたい」
小川の方は、差し出された狭間の手をみて、黒目を大きく見開き、顔を上げ、先輩三人を眺めた。
三毛猫が
「にゃあん」
と声を上げる。
小川は、つられるように猫みたいに目を細めてから、ちょっと意地悪っぽく、
「えー、どうしようかな。
ちょっと待ってくださいね。サッカー部も捨てがたいんで」
と言った瞬間だ。
抱えていた猫が、不意に小川の口元をぺろりと舐めた。
驚いて固まったその姿に、
「いけずは言うなって」
と先輩三人は笑った。
そうして、部活動本登録の日に、小川歩は探偵研究部に入部した――
エピソード0:小川歩の事件簿・了
「え……、どうして?」
と、狭間が言えば。
「いたんですよ!
三毛猫の『メス』だけど!
商店街の肉屋の入り口に【迷子の猫】ポスターが貼られていたんです!
三丁目、青い首輪、日向ぼっこしてる公園。
先輩の友達が探していた猫って、こいつですよね」
(そうだ、この一年生を何とかつなぎとめたくて、とっさに友達の猫のことを話したんだった)
「そう。……この子、クラスメートの猫の、『ちゃむ』ちゃん……」
狭間が震える手で、その猫の背をそっと撫でる。青い首輪の鈴が、チリンと鳴った。
「おかえり」
狭間が小さく呟くと、猫は、甘えるように首をかしげる。
その猫の姿を見て、嬉しそうに小川は、白い歯を見せてにっこりと笑った。
「任務、完了っすね」
その言葉に、三人は一瞬、言葉に詰まった。そして、同時に同じことを考えていた。
(――こいつ)
なんで、ずっと、見切りをつけずにこの部室にいるのか不思議だった。
でも、それは、先輩三人の顔を立てるためでも、まして探偵ごっこが楽しかったわけでもなかった。
ただ、家から離れて困っている迷子の三毛猫と、どこかで悲しんでいる飼い主を、相手の立場になって想像していたからなんだ。
それは、『プロファイリング』だ。
(こいつは‥‥‥、こいつは、天性の探偵だ!)
泥だらけの顔をシャツの襟で拭っている小川の姿に、なぜか急に恥ずかしくなり、玉田は頭を掻き、笠置は額に手を当て、そして狭間は唇を尖らし頬を抑えた。
そして、笠置と玉田に背を押された狭間が、意を決して、小川に向けて右手を差し出した。
その声は、演技がかってはいなかった。
「小川歩君、改めて頼みたい。君にはぜひこの部に入ってもらいたい」
小川の方は、差し出された狭間の手をみて、黒目を大きく見開き、顔を上げ、先輩三人を眺めた。
三毛猫が
「にゃあん」
と声を上げる。
小川は、つられるように猫みたいに目を細めてから、ちょっと意地悪っぽく、
「えー、どうしようかな。
ちょっと待ってくださいね。サッカー部も捨てがたいんで」
と言った瞬間だ。
抱えていた猫が、不意に小川の口元をぺろりと舐めた。
驚いて固まったその姿に、
「いけずは言うなって」
と先輩三人は笑った。
そうして、部活動本登録の日に、小川歩は探偵研究部に入部した――
エピソード0:小川歩の事件簿・了



