三人は二年生で、女子が狭間(はざま)先輩、男子の大柄の方が笠置(かさおき)先輩、小柄のほうが玉田(たまだ)先輩という。
先輩方三人に半ば強引に、勧められるままに連れてこられた褪せた赤いトタン屋根の部室は、これまた所狭しとモノが散乱しており、小川に「この部はろくなもんじゃないぞ」と直感させた。
「やっぱりオレ、帰ります!」
むんず、と笠置が抱えているリュックを奪い返し、踵を返す。
「あー! まってまってまって!」
狭間に呼び止められる。
「うん。危険に対する直感も素晴らしい! 探偵の素質あるよー!」
上級生三人に背中を押され、流れるように部室の中央の机まで案内される。
小川は、警戒心いっぱいに荷物をがっちり抱えたまま、仕方なしにパイプ椅子に座る。
「誘拐したわけじゃないんだから、安心して」
ニコニコと愛想笑いする三人。
(いや、拉致に近いです)
小川は言葉に出さず口を結んだ。
そんな不信感に満ちた小川の様子を見た狭間は、とつぜん演劇のような身振り手振りを始めた。
「実はさあ、困ってるんだよ。未解決事件があって……」
「……」
胡散臭そうに小川は見る。
「友達の――猫ちゃん? が行方不明でさあ。探してほしいって……」
笠置と玉田は、狭間の演技を盛り立てるように、
「心配だよな」
「早く探してあげたい……」
と胸に手を合わせ、心なしか目元も潤ませてる。
その姿を見ながら、猛烈に小川の心は醒めた。
(そもそも目を合わせないぞ、この人たち。怪しい)
小川はもうこの部屋から出たくて仕方がなかった。
「そういうのは、学校じゃなく、町内会とか地域のほうに聞けばよくないですか?」
そう言い放って、椅子から立ち上がろうとすれば、三人は焦ったように、
「まってまってまって!」
とまた座らせられる。
「まあ、ちょっと変わった毛色で、なんと『三毛猫の、オス』なんだ」
玉田が細いその目をさらに細めて言う。
「え?」
思わず小川は聞き返した。
(聞いたことある。三毛猫のオスの産まれる確率は、千に一つ、万に一つくらいだったような……?)
「めずらしいでしょう。普通はメスなんだけどね」
狭間がふふふと含み笑いを隠すように言う。
「もしかしたら、高値で取引するための誘拐? いや誘猫拐かも? みたいな」
笠置がくるくると推理でもするようにその場を歩く。
「助けてくれないかなあー、三人だと手も足りなくて。少しでもいいんで!」
三人が声をそろえて、手を合わせて懇願する。
「はあ……」
根負けしたように小川は頷いた。
*****
そうして、小川は三人の先輩方に調査という名目で、学校周りに連れていかれた。
途中、走りこんでいる青いユニフォームのサッカー部とすれ違う。
仮入部中の体操着の一年生も混ざっており、
「あ……」
と思わず羨望のまなざしを向けると、
「こっちこっち」
とすぐさま先輩方に手を引かれる。
そうして、日が傾くまで探した挙句、結局手がかりのないまま、部室へ戻ってきた。
先輩たちは、パイプ椅子に座りながら、息をついていた。
「うえー。歩いた歩いた……」
へばっている三人を尻目に、息も上げることもなく立ったまんまの小川は、机の上に無造作に置いてある『部誌』というノートを手に取った。
その『部誌』には、探偵の極意、と書かれている。
おもわず、その文字に吸い込まれるように読み始めたときだ。
『ピンポンパンポーン』
と職員室からの校内放送が流れ始めた。
『四時半となりました。仮入部中の一年生は、部活動終了の時間です。帰宅してください。なお、二年生、三年生は五時半部活終了、六時完全下校となります――』
小川は、パタンと『部誌』を閉じ、
「それじゃ、先輩たち、さようなら」
と、あっさりと部室を後にした。
先輩方三人に半ば強引に、勧められるままに連れてこられた褪せた赤いトタン屋根の部室は、これまた所狭しとモノが散乱しており、小川に「この部はろくなもんじゃないぞ」と直感させた。
「やっぱりオレ、帰ります!」
むんず、と笠置が抱えているリュックを奪い返し、踵を返す。
「あー! まってまってまって!」
狭間に呼び止められる。
「うん。危険に対する直感も素晴らしい! 探偵の素質あるよー!」
上級生三人に背中を押され、流れるように部室の中央の机まで案内される。
小川は、警戒心いっぱいに荷物をがっちり抱えたまま、仕方なしにパイプ椅子に座る。
「誘拐したわけじゃないんだから、安心して」
ニコニコと愛想笑いする三人。
(いや、拉致に近いです)
小川は言葉に出さず口を結んだ。
そんな不信感に満ちた小川の様子を見た狭間は、とつぜん演劇のような身振り手振りを始めた。
「実はさあ、困ってるんだよ。未解決事件があって……」
「……」
胡散臭そうに小川は見る。
「友達の――猫ちゃん? が行方不明でさあ。探してほしいって……」
笠置と玉田は、狭間の演技を盛り立てるように、
「心配だよな」
「早く探してあげたい……」
と胸に手を合わせ、心なしか目元も潤ませてる。
その姿を見ながら、猛烈に小川の心は醒めた。
(そもそも目を合わせないぞ、この人たち。怪しい)
小川はもうこの部屋から出たくて仕方がなかった。
「そういうのは、学校じゃなく、町内会とか地域のほうに聞けばよくないですか?」
そう言い放って、椅子から立ち上がろうとすれば、三人は焦ったように、
「まってまってまって!」
とまた座らせられる。
「まあ、ちょっと変わった毛色で、なんと『三毛猫の、オス』なんだ」
玉田が細いその目をさらに細めて言う。
「え?」
思わず小川は聞き返した。
(聞いたことある。三毛猫のオスの産まれる確率は、千に一つ、万に一つくらいだったような……?)
「めずらしいでしょう。普通はメスなんだけどね」
狭間がふふふと含み笑いを隠すように言う。
「もしかしたら、高値で取引するための誘拐? いや誘猫拐かも? みたいな」
笠置がくるくると推理でもするようにその場を歩く。
「助けてくれないかなあー、三人だと手も足りなくて。少しでもいいんで!」
三人が声をそろえて、手を合わせて懇願する。
「はあ……」
根負けしたように小川は頷いた。
*****
そうして、小川は三人の先輩方に調査という名目で、学校周りに連れていかれた。
途中、走りこんでいる青いユニフォームのサッカー部とすれ違う。
仮入部中の体操着の一年生も混ざっており、
「あ……」
と思わず羨望のまなざしを向けると、
「こっちこっち」
とすぐさま先輩方に手を引かれる。
そうして、日が傾くまで探した挙句、結局手がかりのないまま、部室へ戻ってきた。
先輩たちは、パイプ椅子に座りながら、息をついていた。
「うえー。歩いた歩いた……」
へばっている三人を尻目に、息も上げることもなく立ったまんまの小川は、机の上に無造作に置いてある『部誌』というノートを手に取った。
その『部誌』には、探偵の極意、と書かれている。
おもわず、その文字に吸い込まれるように読み始めたときだ。
『ピンポンパンポーン』
と職員室からの校内放送が流れ始めた。
『四時半となりました。仮入部中の一年生は、部活動終了の時間です。帰宅してください。なお、二年生、三年生は五時半部活終了、六時完全下校となります――』
小川は、パタンと『部誌』を閉じ、
「それじゃ、先輩たち、さようなら」
と、あっさりと部室を後にした。



