探偵研究部――カケラノセカイ―― エピソード0・小川歩の事件簿/第五話 プロファイリング

 三人は二年生で、女子が狭間(はざま)先輩、男子の大柄の方が笠置(かさおき)先輩、小柄のほうが玉田(たまだ)先輩という。

 先輩方三人に半ば強引に、勧められるままに連れてこられた褪せた赤いトタン屋根の部室は、これまた所狭しとモノが散乱しており、小川に「この部はろくなもんじゃないぞ」と直感させた。

「やっぱりオレ、帰ります!」

 むんず、と笠置が抱えているリュックを奪い返し、踵を返す。

「あー! まってまってまって!」

 狭間に呼び止められる。

「うん。危険に対する直感も素晴らしい! 探偵の素質あるよー!」

 上級生三人に背中を押され、流れるように部室の中央の机まで案内される。
 小川は、警戒心いっぱいに荷物をがっちり抱えたまま、仕方なしにパイプ椅子に座る。

「誘拐したわけじゃないんだから、安心して」

 ニコニコと愛想笑いする三人。

(いや、拉致に近いです)

 小川は言葉に出さず口を結んだ。
 そんな不信感に満ちた小川の様子を見た狭間は、とつぜん演劇のような身振り手振りを始めた。

「実はさあ、困ってるんだよ。未解決事件があって……」

「……」

 胡散臭そうに小川は見る。

「友達の――猫ちゃん? が行方不明でさあ。探してほしいって……」

 笠置と玉田は、狭間の演技を盛り立てるように、

「心配だよな」
「早く探してあげたい……」

 と胸に手を合わせ、心なしか目元も潤ませてる。
 その姿を見ながら、猛烈に小川の心は醒めた。

(そもそも目を合わせないぞ、この人たち。怪しい)

 小川はもうこの部屋から出たくて仕方がなかった。

「そういうのは、学校じゃなく、町内会とか地域のほうに聞けばよくないですか?」

 そう言い放って、椅子から立ち上がろうとすれば、三人は焦ったように、

「まってまってまって!」

 とまた座らせられる。

「まあ、ちょっと変わった毛色で、なんと『三毛猫の、オス』なんだ」

 玉田が細いその目をさらに細めて言う。

「え?」

 思わず小川は聞き返した。

(聞いたことある。三毛猫のオスの産まれる確率は、千に一つ、万に一つくらいだったような……?)

「めずらしいでしょう。普通はメスなんだけどね」

 狭間がふふふと含み笑いを隠すように言う。

「もしかしたら、高値で取引するための誘拐? いや誘猫拐かも? みたいな」

 笠置がくるくると推理でもするようにその場を歩く。

「助けてくれないかなあー、三人だと手も足りなくて。少しでもいいんで!」

 三人が声をそろえて、手を合わせて懇願する。

「はあ……」

 根負けしたように小川は頷いた。

 *****

 そうして、小川は三人の先輩方に調査という名目で、学校周りに連れていかれた。
 途中、走りこんでいる青いユニフォームのサッカー部とすれ違う。
 仮入部中の体操着の一年生も混ざっており、

「あ……」

 と思わず羨望のまなざしを向けると、

「こっちこっち」

 とすぐさま先輩方に手を引かれる。

 そうして、日が傾くまで探した挙句、結局手がかりのないまま、部室へ戻ってきた。
 先輩たちは、パイプ椅子に座りながら、息をついていた。

「うえー。歩いた歩いた……」

 へばっている三人を尻目に、息も上げることもなく立ったまんまの小川は、机の上に無造作に置いてある『部誌』というノートを手に取った。
 その『部誌』には、探偵の極意、と書かれている。
 おもわず、その文字に吸い込まれるように読み始めたときだ。

『ピンポンパンポーン』

 と職員室からの校内放送が流れ始めた。

『四時半となりました。仮入部中の一年生は、部活動終了の時間です。帰宅してください。なお、二年生、三年生は五時半部活終了、六時完全下校となります――』

 小川は、パタンと『部誌』を閉じ、

「それじゃ、先輩たち、さようなら」

 と、あっさりと部室を後にした。