◇◇◇
そして一週間後。
「竹川美葉殿。あなたに、後宮に禁書を流通させた疑いがあります。何か心当たりは?」
京陽の最側近である蔵人頭の峰世様が、書状を手に私の御殿にやってきたのだ。
……そうなりますよね。
女房たちは熱くなっている。話が知らぬうちに公卿に漏れてしまっていないはずがない。
「峰世様!美葉様が、そんな……ありえませんわ!」
「秋月。申し訳ないが、後宮に禁書を流通させた記録が、藤道家から届いた。証拠がある以上……」
秋月と峰世様は、徐々に距離を縮めてきている。峰世様も秋月を大切にしてくださっているのか、秋月が絶望した表情をするのを見て、峰世様は苦虫を噛み潰したような顔をして俯いた。
「罪状が定かになるまで、出仕停止とのご命令です」
「……かしこまり、ました」
女房たちは唖然として、理解が追いついていないようだ。
「美葉様……そんなこと、ありませんわよね?峰世様だって、不審に思われていましたもの」
「私が書物を流通させたのは事実。だから……ん?」
そこで、引っかかる一本の糸を見つけた。
『禁書を後宮に流通させた罪』と、峰世様は言っていた。けれど残念ながら私は、禁書ではなく、正式に許可されている歴史物語を流通させたのであって、あっても『禁書を執筆した罪』だ。
「秋月、証拠は、藤道家から届いたのよね?」
「え、えぇ。雪子様が中心となって動いたそうです」
「……」
『……っ、なんで、あなたなのよ。陛下に釣り合う容姿じゃないのに。……皇后に相応しいのは、わたくしなのに』
雪子様が中心となっていたのであれば、雪子様は皇后最有力候補の悪事を暴き、皇帝陛下に貢献したことになる。
何より雪子様は私のことが大層憎いようでいらっしゃった。
……あぁ、これは嵌められたかもしれない。
きっと私の弱みを見つけたくて探っていたら、書物を流通させている記録を見つけたんだろう。
そして恋物語もこっそり混ぜてしまおうと考えたのかもしれない。
記録では、私が恋物語を流通させたことになっていたが、私にそんな記憶はない。
けれど訴えたって、証拠があれば何も効かないのだ。
——幽閉確定だ。紙も墨もない、冷宮という荒地に放り込まれる。
私は峰世様がお帰りになられてから、御帳台に座ってうずうずと考えていた。
女房たちは私のことを疑っていない。『絶対におかしい。藤道家の仕業だ』と思っているようだ。
でも冷宮に行けば、大体の女房には暇を出すことになるだろう。
「……一週間見ないうちに、随分と荒れ果てたものだ。いつもの凛々しい顔はどうした?」
頭から離れない人の声がしたけれど、うずくめた顔を上げることなんてできない。見てしまったら、堪えていたものが決壊してしまうから。
何より、ここにいるはずがない。
そう思っていても、なぜだか会いたくて。
無意識に顔を上げると、そこには……京陽の姿が見えた。
「……なんでここにいるの?私は罪人だよ」
「……そうかもしれないな」
京陽はゆっくりと、私の隣に座り、優しく私の肩を抱く。
「なに、してるの?私たちは、都合のいい関係だったんだから。もう私は都合がよくなんてない」
「……都合が欲しいならあるぞ。藤道家が皇家に貢献したから藤道家の女を皇后に立てるべきだと、藤道家の当主がうるさい」
「藤道家と繋がりが持ててよかったじゃない」
「……うるさいからお前の安心感が恋しくなった」
「はい?」
京陽が言っていることは……それはつまり——。
ありえない。ありえないのに。
……どこかに願ってしまっている、自分がいる。
「昔は心底嫌いで仕方がなかったが……そなたを必ず、冷宮に追いやらせはしない。なんとかしてみせるさ」
京陽はそう笑って、私の唇に優しく口付けた。
綺陽とは別人だと思っていたのは、紛れもない自分なのに。
不敵の笑みに、幼い頃に少しだけ見たあの綺陽の笑い方を感じてしまって。
……笑い方は……妙にかっこいいその背中は、昔から変わらない。
そして何より、こんなことで安心して、幼い頃の活力が蘇って。
——涙が溢れてしまう私は、本当に愚かだ。
◇◇◇
数日後。
私はなぜか清涼殿に呼ばれ、『親裁』という儀式に引き出された。まぁ、自分の犯した罪(虚偽)を皇帝陛下直々に裁いてもらう儀式だ。
なぜ親裁が行われることになったかは知らない。けれど、断罪される未来しか見えなかった。
『なんとかしてみせるさ』と笑った京陽のおかげか、私は恐怖は感じず、心を無にして挑むことができた。
「陛下!この者は後宮に禁書を持ち込んだのです!冷宮への幽閉が妥当です!そして我が美しき娘を、ぜひ皇后に!」
……っぐふ、じゃない。私は笑ってなどいない。
おそらく藤道家の当主は、京陽がどれだけ藤道家を嫌がっているか知らないらしい。
皇帝陛下は上座に座っており、私はその正面の、少し離れたところに平伏している。斜め後ろには明梨も。
右側には六大名家の当主を筆頭とする公卿の方々。なぜか端には雪子様が座っていらっしゃるが。
京陽が皇帝陛下として居るところは見たことがなかったが、上座に堂々と座る尊きお方は、御簾であまり見えないものの、ずっしりと佇んでいるように受け取れる。
「陛下、わたくしは後宮で禁書が流行してしまった際、美葉様の様子に違和感を抱き、躊躇いながらも調べさせていただいたのですわ。そして、見つけてしまったのです」
雪子様は扇子で顔の下半分を隠し、あくまで控えめな様子。……口元はおそらく緩んでいるんだろうな。
親裁という私のための儀式と思いきや、これは雪子様が皇后になるための土台なのではないかと思えてきた。普通に巻き込まないでほしい。
綺陽という少年に感じていた感情を、雪子様に出会って思い出した。深く調べもせず、軽率な行いをする。自分を中心に事が進んでいると思い込み、まさに人を怒らせる達人だ。
ついでに、綺陽同様に品のある名前をしていらっしゃる。
「証拠は十二分にございますわ。美葉様は後宮に禁書を持ち込んだのです!」
「もうおやめください!」
鋭い声が後ろから響き、この場にいる全員が、私の斜め後ろにいる明梨の方を向いた。
「女房という立場でありながら、この場の発言をお許しください」
御簾の向こうで京陽が、無言で頷いた。
「……後宮に禁書を流したのは、美葉様ではなく……わたくしにございます」
「……え?」
「……雪子様に病を患う母を盾にされ、わたくしは不甲斐ないばかりに、美葉様の名を使って、禁書を後宮に流しました。罪を問うというのならば、このわたくしで……美葉様は、関係ございません」
明梨はそこまで言い切って、ゆっくり顔を上げた。そして私の目を見て、涙を滲ませる。
……明梨のお母様は、病を患っていたの?
私はそんなこと、耳にしたこともない。隠されていたのか。
なんともいえない悔しさが胸に広がっていく。
明梨を信用して、私は不採用の原稿の処理や、出来上がった原本の管理を任せていた。もしかしたら、私が寝ている間にこっそり外に渡していたのかもしれない。
……明梨のせいではないのに。
全ての始まりである雪子様は『いうなと口止めしたのに!』という心の声が丸聞こえの真っ青な表情で固まっている。
「ですが、美葉様の御殿の厨子に、書物が見つかったと」
「あぁ、それはこれのことか」
御簾の奥からずっと口を挟まずに見守っていた京陽が、ようやく口を開いた。
そして側の峰世様に何やら指示し、私の手元にとある本がやってくる。
それは……。
歴史物語の、原本だった。
……ん、目を凝らしてみれば。
これ、私が話の運びがもっさりしすぎてむず痒くて、読み返して一瞬で捨てたはずの方の新しい巻だ……。
「私が“少し”調べてみれば、どうやら罪人扱いしていたのは、歴史物語の作者ではないか。……この本がなければやっていられなかった者は、この場にもいるだろう?これも新しい巻の原本というではないか」
「恐れ多くも陛下、これは新しい巻になり損ねた秘蔵の原本ですわ。私は捨てたはずなのですが」
……しまった。いつもの、女房や京陽の護衛がいる場合の口調で即答してしまった。
だが我が子とも言える最愛の物語の新しい巻の内容がありえないほど有耶無耶な人間は、絶対に許せない!
テキトーに確認して『これは最新の巻です』とか京陽に言っていたら、その人は私の歴史物語の写本を全部読ませて覚えさせて、いつか復讐してやる。
……まぁ、お偉いお方だったら、京陽に頼んで写本という贈り物を渡してもらおう。
けれど公卿たちは、キッパリと言い切ったので逆に信じてしまったらしい。
「私の息子は歴史物語がなければ、出仕できなかったぞ」
「竹川家の末裔の方だとは思ったが、まさか直系の娘の美葉様が作られたものだったとは」
一気に流れが変わり、藤道家の当主と雪子様は気まずさに必死に耐えて、私は罪人として引き出されたはずなのに、なぜか褒めちぎられている。
「……結末は下っただろう。……藤道よ。関係が薄れていたことも踏まえ、何もせぬなら皇后までは行かずとも、四夫人の座は与えたかもしれん。……それを潰したのは、他の誰でもないそなただ」
……あなた絶対、もしも何もしなくたって四夫人の座すら与えませんでしたよね?
言葉に出したらまた親裁にかけられるので、口はしっかり閉じておく。
「朝廷へ虚偽申告を行なったとして、藤道家に十年間の都からの放逐を言い渡す」
「……陛下!」
「これでも甘い方だ」
藤道家の当主はしばらくごちゃごちゃ言っていたが、皇帝たる京陽が微動だにしないのでやっと黙り込んだ。
まぁ藤道は武道の名家だ。国の守護を担う家だし、相当酷いことをしない限り取り潰されたりしないだろう。守護は都の外からでもできる。
ただ、雪子様にとっては都に立ち入れなくなるのは痛いと思う。都に立ち入ってはいけないので、どうせ後宮からは出ることになる。けれど都に拠点を置く方……例えば名家の当主や次期当主と結婚するのは難しくなるだろうな。
とはいえ、私が紙も墨もない冷宮に追いやれる可能性が消えたのは事実だ。
「これにて、親裁は終了とする」
私は御簾の奥にいる京陽の表情はわからない。
けれど、きっと笑ってくれている気がした。
そして一週間後。
「竹川美葉殿。あなたに、後宮に禁書を流通させた疑いがあります。何か心当たりは?」
京陽の最側近である蔵人頭の峰世様が、書状を手に私の御殿にやってきたのだ。
……そうなりますよね。
女房たちは熱くなっている。話が知らぬうちに公卿に漏れてしまっていないはずがない。
「峰世様!美葉様が、そんな……ありえませんわ!」
「秋月。申し訳ないが、後宮に禁書を流通させた記録が、藤道家から届いた。証拠がある以上……」
秋月と峰世様は、徐々に距離を縮めてきている。峰世様も秋月を大切にしてくださっているのか、秋月が絶望した表情をするのを見て、峰世様は苦虫を噛み潰したような顔をして俯いた。
「罪状が定かになるまで、出仕停止とのご命令です」
「……かしこまり、ました」
女房たちは唖然として、理解が追いついていないようだ。
「美葉様……そんなこと、ありませんわよね?峰世様だって、不審に思われていましたもの」
「私が書物を流通させたのは事実。だから……ん?」
そこで、引っかかる一本の糸を見つけた。
『禁書を後宮に流通させた罪』と、峰世様は言っていた。けれど残念ながら私は、禁書ではなく、正式に許可されている歴史物語を流通させたのであって、あっても『禁書を執筆した罪』だ。
「秋月、証拠は、藤道家から届いたのよね?」
「え、えぇ。雪子様が中心となって動いたそうです」
「……」
『……っ、なんで、あなたなのよ。陛下に釣り合う容姿じゃないのに。……皇后に相応しいのは、わたくしなのに』
雪子様が中心となっていたのであれば、雪子様は皇后最有力候補の悪事を暴き、皇帝陛下に貢献したことになる。
何より雪子様は私のことが大層憎いようでいらっしゃった。
……あぁ、これは嵌められたかもしれない。
きっと私の弱みを見つけたくて探っていたら、書物を流通させている記録を見つけたんだろう。
そして恋物語もこっそり混ぜてしまおうと考えたのかもしれない。
記録では、私が恋物語を流通させたことになっていたが、私にそんな記憶はない。
けれど訴えたって、証拠があれば何も効かないのだ。
——幽閉確定だ。紙も墨もない、冷宮という荒地に放り込まれる。
私は峰世様がお帰りになられてから、御帳台に座ってうずうずと考えていた。
女房たちは私のことを疑っていない。『絶対におかしい。藤道家の仕業だ』と思っているようだ。
でも冷宮に行けば、大体の女房には暇を出すことになるだろう。
「……一週間見ないうちに、随分と荒れ果てたものだ。いつもの凛々しい顔はどうした?」
頭から離れない人の声がしたけれど、うずくめた顔を上げることなんてできない。見てしまったら、堪えていたものが決壊してしまうから。
何より、ここにいるはずがない。
そう思っていても、なぜだか会いたくて。
無意識に顔を上げると、そこには……京陽の姿が見えた。
「……なんでここにいるの?私は罪人だよ」
「……そうかもしれないな」
京陽はゆっくりと、私の隣に座り、優しく私の肩を抱く。
「なに、してるの?私たちは、都合のいい関係だったんだから。もう私は都合がよくなんてない」
「……都合が欲しいならあるぞ。藤道家が皇家に貢献したから藤道家の女を皇后に立てるべきだと、藤道家の当主がうるさい」
「藤道家と繋がりが持ててよかったじゃない」
「……うるさいからお前の安心感が恋しくなった」
「はい?」
京陽が言っていることは……それはつまり——。
ありえない。ありえないのに。
……どこかに願ってしまっている、自分がいる。
「昔は心底嫌いで仕方がなかったが……そなたを必ず、冷宮に追いやらせはしない。なんとかしてみせるさ」
京陽はそう笑って、私の唇に優しく口付けた。
綺陽とは別人だと思っていたのは、紛れもない自分なのに。
不敵の笑みに、幼い頃に少しだけ見たあの綺陽の笑い方を感じてしまって。
……笑い方は……妙にかっこいいその背中は、昔から変わらない。
そして何より、こんなことで安心して、幼い頃の活力が蘇って。
——涙が溢れてしまう私は、本当に愚かだ。
◇◇◇
数日後。
私はなぜか清涼殿に呼ばれ、『親裁』という儀式に引き出された。まぁ、自分の犯した罪(虚偽)を皇帝陛下直々に裁いてもらう儀式だ。
なぜ親裁が行われることになったかは知らない。けれど、断罪される未来しか見えなかった。
『なんとかしてみせるさ』と笑った京陽のおかげか、私は恐怖は感じず、心を無にして挑むことができた。
「陛下!この者は後宮に禁書を持ち込んだのです!冷宮への幽閉が妥当です!そして我が美しき娘を、ぜひ皇后に!」
……っぐふ、じゃない。私は笑ってなどいない。
おそらく藤道家の当主は、京陽がどれだけ藤道家を嫌がっているか知らないらしい。
皇帝陛下は上座に座っており、私はその正面の、少し離れたところに平伏している。斜め後ろには明梨も。
右側には六大名家の当主を筆頭とする公卿の方々。なぜか端には雪子様が座っていらっしゃるが。
京陽が皇帝陛下として居るところは見たことがなかったが、上座に堂々と座る尊きお方は、御簾であまり見えないものの、ずっしりと佇んでいるように受け取れる。
「陛下、わたくしは後宮で禁書が流行してしまった際、美葉様の様子に違和感を抱き、躊躇いながらも調べさせていただいたのですわ。そして、見つけてしまったのです」
雪子様は扇子で顔の下半分を隠し、あくまで控えめな様子。……口元はおそらく緩んでいるんだろうな。
親裁という私のための儀式と思いきや、これは雪子様が皇后になるための土台なのではないかと思えてきた。普通に巻き込まないでほしい。
綺陽という少年に感じていた感情を、雪子様に出会って思い出した。深く調べもせず、軽率な行いをする。自分を中心に事が進んでいると思い込み、まさに人を怒らせる達人だ。
ついでに、綺陽同様に品のある名前をしていらっしゃる。
「証拠は十二分にございますわ。美葉様は後宮に禁書を持ち込んだのです!」
「もうおやめください!」
鋭い声が後ろから響き、この場にいる全員が、私の斜め後ろにいる明梨の方を向いた。
「女房という立場でありながら、この場の発言をお許しください」
御簾の向こうで京陽が、無言で頷いた。
「……後宮に禁書を流したのは、美葉様ではなく……わたくしにございます」
「……え?」
「……雪子様に病を患う母を盾にされ、わたくしは不甲斐ないばかりに、美葉様の名を使って、禁書を後宮に流しました。罪を問うというのならば、このわたくしで……美葉様は、関係ございません」
明梨はそこまで言い切って、ゆっくり顔を上げた。そして私の目を見て、涙を滲ませる。
……明梨のお母様は、病を患っていたの?
私はそんなこと、耳にしたこともない。隠されていたのか。
なんともいえない悔しさが胸に広がっていく。
明梨を信用して、私は不採用の原稿の処理や、出来上がった原本の管理を任せていた。もしかしたら、私が寝ている間にこっそり外に渡していたのかもしれない。
……明梨のせいではないのに。
全ての始まりである雪子様は『いうなと口止めしたのに!』という心の声が丸聞こえの真っ青な表情で固まっている。
「ですが、美葉様の御殿の厨子に、書物が見つかったと」
「あぁ、それはこれのことか」
御簾の奥からずっと口を挟まずに見守っていた京陽が、ようやく口を開いた。
そして側の峰世様に何やら指示し、私の手元にとある本がやってくる。
それは……。
歴史物語の、原本だった。
……ん、目を凝らしてみれば。
これ、私が話の運びがもっさりしすぎてむず痒くて、読み返して一瞬で捨てたはずの方の新しい巻だ……。
「私が“少し”調べてみれば、どうやら罪人扱いしていたのは、歴史物語の作者ではないか。……この本がなければやっていられなかった者は、この場にもいるだろう?これも新しい巻の原本というではないか」
「恐れ多くも陛下、これは新しい巻になり損ねた秘蔵の原本ですわ。私は捨てたはずなのですが」
……しまった。いつもの、女房や京陽の護衛がいる場合の口調で即答してしまった。
だが我が子とも言える最愛の物語の新しい巻の内容がありえないほど有耶無耶な人間は、絶対に許せない!
テキトーに確認して『これは最新の巻です』とか京陽に言っていたら、その人は私の歴史物語の写本を全部読ませて覚えさせて、いつか復讐してやる。
……まぁ、お偉いお方だったら、京陽に頼んで写本という贈り物を渡してもらおう。
けれど公卿たちは、キッパリと言い切ったので逆に信じてしまったらしい。
「私の息子は歴史物語がなければ、出仕できなかったぞ」
「竹川家の末裔の方だとは思ったが、まさか直系の娘の美葉様が作られたものだったとは」
一気に流れが変わり、藤道家の当主と雪子様は気まずさに必死に耐えて、私は罪人として引き出されたはずなのに、なぜか褒めちぎられている。
「……結末は下っただろう。……藤道よ。関係が薄れていたことも踏まえ、何もせぬなら皇后までは行かずとも、四夫人の座は与えたかもしれん。……それを潰したのは、他の誰でもないそなただ」
……あなた絶対、もしも何もしなくたって四夫人の座すら与えませんでしたよね?
言葉に出したらまた親裁にかけられるので、口はしっかり閉じておく。
「朝廷へ虚偽申告を行なったとして、藤道家に十年間の都からの放逐を言い渡す」
「……陛下!」
「これでも甘い方だ」
藤道家の当主はしばらくごちゃごちゃ言っていたが、皇帝たる京陽が微動だにしないのでやっと黙り込んだ。
まぁ藤道は武道の名家だ。国の守護を担う家だし、相当酷いことをしない限り取り潰されたりしないだろう。守護は都の外からでもできる。
ただ、雪子様にとっては都に立ち入れなくなるのは痛いと思う。都に立ち入ってはいけないので、どうせ後宮からは出ることになる。けれど都に拠点を置く方……例えば名家の当主や次期当主と結婚するのは難しくなるだろうな。
とはいえ、私が紙も墨もない冷宮に追いやれる可能性が消えたのは事実だ。
「これにて、親裁は終了とする」
私は御簾の奥にいる京陽の表情はわからない。
けれど、きっと笑ってくれている気がした。


