◇◇◇
「美葉様、最近後宮で流行している書物をお知りですか?」
「……流行しているものなんてあるの?」
「ええ。……しかしそれが、知られるとまずい男女の物語でして」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、秋月が教えてくれた噂。
……背中を、冷たい汗が流れる。
私は決して恋物語を、後宮に流していない。そもそもあの恋物語は、そんなに広範囲に出回っていないはず。なぜなら上流階級では風紀を乱すからと禁止されていて、けれど書物は高いので貴族でないと手に入れられないからだ。
「その書物、持っているかしら」
「えぇ、皆で読み合っていますから。今はわたくしの手元にございますわ!」
そうして秋月は局から、その例の書物を持ってきてくれたのだが……。
……やって、しまった!!
見覚えのある題名の、見覚えのある内容の写本である。読み古されたのか、すっかりボロボロだ。
その日の夜、明梨だけを呼びつけて相談してみたが。
「なぜここにあれがあるの?私、後宮に流した覚えはないわ!」
「……まぁまぁ美葉様、落ち着いてくださいまし。落ち着かなければ何も始まりません」
「でも、知られてしまったら冷宮に幽閉よ!私の場合、恐らく紙も筆も墨ももらえないわ!」
「それは……そうですね。申し訳ありません」
明梨は私を落ち着かせようとしてくれているが、絶対に落ち着けない。
だって、知られたら冷宮に幽閉なんだから。永遠に、死ぬまで冷宮で過ごすことになる。
お父様は絶対助けてくれないのは当たり前として。京陽だって、私の元を訪れているのはきっと都合がいいからで、皇帝という立場がある。
後宮で禁止されている書物が流行していると公卿の誰かが知ってしまったら、まず、後宮に書物を流している人、それからその書物を書いた人も疑われる。
私のように書物を書いた人が正体を隠している場合、写本を回した伝手を辿って暴かれるのだ。
まず妃がそれを書いている時点で終わり。冷宮幽閉確定。
ちなみに、私は後宮に書物を流しているが、それは歴史物語である。
心臓が高鳴って、落ち着けなくて、その夜はしばらく寝付けなかった。
「美葉様、最近後宮で流行している書物をお知りですか?」
「……流行しているものなんてあるの?」
「ええ。……しかしそれが、知られるとまずい男女の物語でして」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、秋月が教えてくれた噂。
……背中を、冷たい汗が流れる。
私は決して恋物語を、後宮に流していない。そもそもあの恋物語は、そんなに広範囲に出回っていないはず。なぜなら上流階級では風紀を乱すからと禁止されていて、けれど書物は高いので貴族でないと手に入れられないからだ。
「その書物、持っているかしら」
「えぇ、皆で読み合っていますから。今はわたくしの手元にございますわ!」
そうして秋月は局から、その例の書物を持ってきてくれたのだが……。
……やって、しまった!!
見覚えのある題名の、見覚えのある内容の写本である。読み古されたのか、すっかりボロボロだ。
その日の夜、明梨だけを呼びつけて相談してみたが。
「なぜここにあれがあるの?私、後宮に流した覚えはないわ!」
「……まぁまぁ美葉様、落ち着いてくださいまし。落ち着かなければ何も始まりません」
「でも、知られてしまったら冷宮に幽閉よ!私の場合、恐らく紙も筆も墨ももらえないわ!」
「それは……そうですね。申し訳ありません」
明梨は私を落ち着かせようとしてくれているが、絶対に落ち着けない。
だって、知られたら冷宮に幽閉なんだから。永遠に、死ぬまで冷宮で過ごすことになる。
お父様は絶対助けてくれないのは当たり前として。京陽だって、私の元を訪れているのはきっと都合がいいからで、皇帝という立場がある。
後宮で禁止されている書物が流行していると公卿の誰かが知ってしまったら、まず、後宮に書物を流している人、それからその書物を書いた人も疑われる。
私のように書物を書いた人が正体を隠している場合、写本を回した伝手を辿って暴かれるのだ。
まず妃がそれを書いている時点で終わり。冷宮幽閉確定。
ちなみに、私は後宮に書物を流しているが、それは歴史物語である。
心臓が高鳴って、落ち着けなくて、その夜はしばらく寝付けなかった。


