◇◇◇
「美葉様!もう本当にあの日は、わたくしはらわたが煮えくり返りそうでしたわ!」
「そうです!普通は主人同士は言葉は交わさず、代理でわたくし達が……」
「まぁまぁ落ち着いて。別に私は気にしていないし」
雪子様と直接お会いしてから、三ヶ月が経った。
……が。
未だに女房たちの怒りは収まらない。私が口を挟んでも『美葉様は純粋なお方!純粋なお方にあんなことを!』と火に油を注ぐだけだった。
日に日に京陽の訪ねてくる頻度と時間は増すばかりで、疲労も溜まってきたし。
「……今日は寝たいわ」
「美葉様。そのようなことを仰ってはなりませんよ」
「むぅー……」
御帳台付近には、私が書いた物語の原稿がばら撒かれている。
皇后なんて、注目を浴びるし、世継ぎやらなんやらで面倒に決まっている。そして一番怖いのは物語を書く時間がなくなることだ。
「……今日も、片付けはやっておきますから。お眠りください」
「ありがとう、明梨」
明梨は私が疲れた時には、こうして後片付けを担ってくれる。自分が始めておいて、自分で終わらせないのは不甲斐ないと思うけれど、意識が飛びかけの私にとっては、ただ、『良い人に出会えたなぁ』という幸せし感じなかった。
翌日。
日が昇って間もない早朝に、京陽が訪ねてきた。
昨日は早めに眠りにつけたので案外、体は重くない。
「今日は少し顔色が良いのだな」
「えぇ。昨夜は心地よく微睡めましたの。野原を走り回る夢が浮かんできましたわ。はしたないですが」
「……本当はお堅くないのだな」
「幼少期から真っ青な大空が本の次に好きでしたので」
「……そうか」
京陽の表情が和らいだ気がした。
最近は京陽に本当の昔のことを話すこともある。女房たちの前なので話せる限りだが。
すると、京陽は妙に改まって、すっと私との距離を縮める。
「私はそなたのことは、昔とは別人として扱っている。そなただってそうだろう?」
「そうですね。今は一生かけて尽くすお方ですもの」
……残念ながら、この前私が『後宮から出してほしい』と言ったら即却下された。再会した頃は様子を見てからと言っていたのに。
『友に等しい本と空は、どこにだって存在するだろう』
その時少し焦っていたように見えたのは、私がいなくなれば他の女性の元を訪れなければならなくなるからに違いない。
「その、だな。……別人として扱っていると、昔は納得できなかった部分も、その、そなたの長所なのだと、お、思い直したというか」
「まぁ、陛下。光栄ですわ」
はっきり何を仰っているのかわからないけれど、とりあえず扇子で口元を隠して、控えめに笑っておく。
「……はっきり言った方がいいのか?だから、私はそなたが——」
しかしちょうど良いところで、遠くから数人分の足音が聞こえてきた。その音を察知して、京陽は渋々、「話の続きはまた、いつかする」と去っていった。
恐らく何か、急用でもできたのだろう。お忙しい身の上なので仕方がない。


