陶芸教室の扉の横に、先週俺が書いたブラックボードの看板が出ていた。俺の書いた文字に、先生が書いたぶきっちょな日付。全体的に見ると悪くないなと思った。
少し眺めたあと、戸を開けると中には女性が椅子に座っていた。四十代ぐらいかな?
俺に気づくと、すっと立ち上がり、「あら、おはようございます!」と言った。
「あ、おはようございます……」と俺が返すと、
奥から先生が出てきて、「晶くん、おはよう〜! ……あ、今日から一緒にレッスンする、幸恵(ゆきえ)さんです」と、紹介した。
今週の水曜日に体験レッスンを受け、そのまま入会したそうだ。
幸恵さんは、「幸恵です〜。今日からよろしくお願いしますね」とにっこり笑った。
丸みのある柔らかな顔立ちに、親しみやすい笑顔。上品だけど気取ったところがなく、そこにいるだけで場の空気を和ませるような人だった。
挨拶を交わしただけなのに、一緒に通うのが幸恵さんでよかったと思った。
この日の作業が終わると、先生が温かいお茶を出してくれた。それを飲みながら、三人で話した。
幸恵さんは、中学生になったばかりの娘さんと旦那さんの三人で暮らしているそうだ。娘さんが中学生になって少し手が離れたこともあり、念願だった習い事として陶芸を始めたらしい。
その話を聞きながら、自分の母親のことを思い出していた。俺は昔から繊細で、二歳下の弟は自由奔放なタイプだった。幼い頃はそんな弟と喧嘩ばかりしていたし、趣味も習い事もまるで正反対だった。母さん、大変だっただろうと思う。……今ごろはゆっくりできてるかな。連絡してみよっかな。
そんなことを考えている間も、先生と幸恵さんは二人で話し続けていたようで、幸恵さんは頬に手を当てて、「もう〜、若い二人と話してたら若返っちゃうわ〜」と笑った。
「幸恵さんは十分若いですよ! ね?」と先生が俺に振る。
「あ、はい、そう思います」と俺が返すと、
「あら、そう? 二人とも喜ばせ上手ね〜」
と言いながら、幸恵さんは俺たち二人の肩をバシッと叩いた。
先生は「いて〜」と笑ったあと、
「……このあと、お二人時間あります? よかったらご飯でもいきましょうよ」と誘った。
俺たちは三人で近くの定食屋に行くことになった。
先生は二つのメニュー表を俺たちに一つずつ差し出した。
俺が「桜木先生、先にどうぞ」と渡そうとすると、「僕、すぐ決められるから大丈夫だよ」と笑った。
幸恵さんは俺にもたくさん話を振ってくれて、仕事の話なんかも興味深そうに聞いてくれた。文房具が好きらしく、文具博などにも足を運ぶそうだ。ついつい散財してしまうんだ、と楽しそうに話していた。話題を丁寧に拾い、自然に会話を広げてくれる。そんな気遣いが心に響いた。
すると、先生が思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、水曜日に幸恵さんともう一人体験に来られた方がいて……すっごいセンス良くてびっくりしたな〜。ね? 幸恵さん」
……センスいいって何。なんかイラっとした。
幸恵さんが俺の顔をちらっと見て、慌てたように答えた。
「……うん? そ、そうだったかしら? 私、自分のことに必死で……。ご飯冷めちゃうから、早く食べよ食べよ」
先生は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、「そうっすね!」と言って、唐揚げを頬張った。
少し眺めたあと、戸を開けると中には女性が椅子に座っていた。四十代ぐらいかな?
俺に気づくと、すっと立ち上がり、「あら、おはようございます!」と言った。
「あ、おはようございます……」と俺が返すと、
奥から先生が出てきて、「晶くん、おはよう〜! ……あ、今日から一緒にレッスンする、幸恵(ゆきえ)さんです」と、紹介した。
今週の水曜日に体験レッスンを受け、そのまま入会したそうだ。
幸恵さんは、「幸恵です〜。今日からよろしくお願いしますね」とにっこり笑った。
丸みのある柔らかな顔立ちに、親しみやすい笑顔。上品だけど気取ったところがなく、そこにいるだけで場の空気を和ませるような人だった。
挨拶を交わしただけなのに、一緒に通うのが幸恵さんでよかったと思った。
この日の作業が終わると、先生が温かいお茶を出してくれた。それを飲みながら、三人で話した。
幸恵さんは、中学生になったばかりの娘さんと旦那さんの三人で暮らしているそうだ。娘さんが中学生になって少し手が離れたこともあり、念願だった習い事として陶芸を始めたらしい。
その話を聞きながら、自分の母親のことを思い出していた。俺は昔から繊細で、二歳下の弟は自由奔放なタイプだった。幼い頃はそんな弟と喧嘩ばかりしていたし、趣味も習い事もまるで正反対だった。母さん、大変だっただろうと思う。……今ごろはゆっくりできてるかな。連絡してみよっかな。
そんなことを考えている間も、先生と幸恵さんは二人で話し続けていたようで、幸恵さんは頬に手を当てて、「もう〜、若い二人と話してたら若返っちゃうわ〜」と笑った。
「幸恵さんは十分若いですよ! ね?」と先生が俺に振る。
「あ、はい、そう思います」と俺が返すと、
「あら、そう? 二人とも喜ばせ上手ね〜」
と言いながら、幸恵さんは俺たち二人の肩をバシッと叩いた。
先生は「いて〜」と笑ったあと、
「……このあと、お二人時間あります? よかったらご飯でもいきましょうよ」と誘った。
俺たちは三人で近くの定食屋に行くことになった。
先生は二つのメニュー表を俺たちに一つずつ差し出した。
俺が「桜木先生、先にどうぞ」と渡そうとすると、「僕、すぐ決められるから大丈夫だよ」と笑った。
幸恵さんは俺にもたくさん話を振ってくれて、仕事の話なんかも興味深そうに聞いてくれた。文房具が好きらしく、文具博などにも足を運ぶそうだ。ついつい散財してしまうんだ、と楽しそうに話していた。話題を丁寧に拾い、自然に会話を広げてくれる。そんな気遣いが心に響いた。
すると、先生が思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、水曜日に幸恵さんともう一人体験に来られた方がいて……すっごいセンス良くてびっくりしたな〜。ね? 幸恵さん」
……センスいいって何。なんかイラっとした。
幸恵さんが俺の顔をちらっと見て、慌てたように答えた。
「……うん? そ、そうだったかしら? 私、自分のことに必死で……。ご飯冷めちゃうから、早く食べよ食べよ」
先生は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、「そうっすね!」と言って、唐揚げを頬張った。


