ジュエリーアイスがとけるまで

 一月の北海道は、寒さが尋常じゃない。今日もちらちらと雪が降っている。先月、車のタイヤをスタッドレスに交換しておいてよかったと思った。
 陶芸教室に通ってなかったら、きっと休みの日は家から出ずにダラダラ過ごしていたんだろうな。そんなことを考えながら、雪が少し溶けて濡れた道路を慎重に走る。

 一月二日の早朝、約束したジュエリーアイスが見られる海岸へと向かう。海岸までは片道三時間半かかる。暗く、まだ人通りの少ない駅前で先生を拾った。防寒着でもこもこになった姿がゆるキャラみたいで、思わず顔が綻んだ。

「あけましておめでとう、晶くん」
「あけましておめでとうございます」
「朝早くから車出してくれて、ありがとね」
「いえ、じゃあ行きましょうか」
「うん」
 先生はくしゃっと笑った。
 
 俺たちは途中のコンビニでお菓子を何種類か買い、再び車を走らせた。

 道中、お互いの話をたくさんした。
 仕事のことや北海道に来てからのこと。先生が最近取り組んでいる作品や、飼い猫のかんたのこと。
 ときどき会話が途切れても、不思議と気まずくはなかった。運転をしている俺の口に、たまにお菓子を放り込んでくれる。そのタイミングが絶妙だった。「運転、代ろうか?」と声をかけてくれるタイミングも。

 窓の外の景色が、少しずつ変わっていく。

 先生と二人でこんな遠くまで出かける日が来るなんて、思ってもいなかった。

 海岸までは、まだ時間がある。
 もう少し、この時間が続けばいいと思った。
 
「箸置きさ、なんで飾ってるの?」
「なんか使うの勿体なくて……宝石みたいで」
「あはは! そういうことか! 翡翠みたいでしょ。あれね、ロシアンブルーの目をイメージしてみましたぁ」
「ああ、そういうことだったんですね。……そういえば、ロシアンブルーの性格調べたんですよ」
「うん」
「一つ以外は当てはまっててびっくりしました。俺じゃんって」
「その一つって何だったの?」
「……『特定の人に愛着を示す』」
「なるほどー。晶くんはあんまり人に執着しないタイプなの?」
「そう……でした。でも、今は変わったかもしれないです」

 先生は何も言わずに前を見ていた。俺の次の言葉を待っていてくれているような気がした。俺はそっと息を吸い込み、ずっと胸につかえていた思いを吐き出した。
 
「俺、嫌だったんです……桜木先生が他の人褒めたの」
「うん」
「それに、先生にあんな言い方をしたのも……俺の勝手なのに……」
「嬉しいよ、僕は」
「え?」
「晶くんがそんな感情を出してくれた相手が僕で、嬉しいです」

 先生の言葉は、いつだって温かくて寛容だ。
 だから、余計に困る。
 こんなことを言っても、先生はきっと困った顔をしない。俺の勝手な感情さえ、受け止めてくれる。
 ……そんな先生だから、好きになったんだろうか。
 
「……桜木先生は、誰にでもそうなんですか」
「え?」
「そうやって、受け止めてくれるんですか」

 自分でも、何を確かめたいのか分からなかった。
 運転中に聞くことじゃなかったかもしれない。そう思った俺はさっきの質問を取り消そうと、「いや、あの、違くて……」と言いかけた。赤信号で車を止めると、先生は俺の方を向いた。

「僕は、晶くんだから、全部受け止めたいと思ってる」