ジュエリーアイスがとけるまで

「なんで、そんなこと聞くんですか」
「最近、なんか冷たく感じて。もしかしたら、僕のこと嫌いなのかなって思ってた」
「……そんなことない……です」

 申し訳なくなって、俺は歯切れ悪く否定した。でも、実際、棘のある言葉を選んで先生にぶつけていたし、あえて冷たい態度をとっている自覚があった。先生は気づいていないと思っていたけど、気にしていたんだな……。子供みたいな自分が恥ずかしい。

 先生は「……ほんと?」と目を丸くした。俺はその顔を見て、さらに誤解を解きたくなった。
 
「嫌だったら、ご飯の誘い断ってますし、散歩なんて論外です」
 優しく言いたかったのに、気持ちが先走って、思った以上に強い口調になってしまった。また、自分の都合を押し付けてしまったな……。
 
 でも、先生は「はー、よかったぁ」と白い息を吐いた。ベンチに背中を預け、足を伸ばす。
 少しの間を置いて、先生がまた口を開いた。

「辞めちゃったらどうしようって思ってた」
「え? 俺が、教室を?」
「うん」
「……でも、前に『辞めても陶芸のこと思い出してくれたら十分』って言ってましたよね」
「晶くんには、そう思えなかった」

 ……何それ。
 試すつもりだった。この人たらしは次にどんな言葉で惑わせてくるのかって。
 
「想像したんですか、俺が辞めたらって」
「うん、辞めてほしくないって思った」

 先生のその駆け引きのない言葉に、俺の心の角が削られていくような、不思議な感覚を覚えた。
 
「……今日、なんか違いますよね。誘い方とか」
「晶くんの前では空気になりたくなくて」
「空気……?」
「僕、けっこう人の顔色うかがっちゃうんだよね」
「……そうなんですか?」
「うん。今話しかけていいかなとか、これ言ったら困らせるかなとか。考えてるうちに、話すタイミングなくなっちゃったりして」
「……意外です」
「ニコニコしてるだけで終わっちゃうことも多いんだよね」
 先生は少し悲しそうに笑った。
 
 輪の中心にいるようなタイプかと思ってた。……何も知らないのに、表面的な部分だけで決めつけてたんだな。これ以上、自分の先入観だけでこの人を判断するのはやめようと思った。
 もっと、ちゃんと知りたい。そして、俺のことも知ってほしい。俺の目で見たものと、先生の言葉で語られたものだけを信じたい。

「でも、晶くんには僕を知ってほしくて」
「えっ……」
「だから、ちょっと勇気出してみました」

 俺もそう思ってました、とは言えなかった。
 冷たい指先が、じんっと温まる。
 
 何も言えなくなっている俺を見て、先生は口を開く。

「ピザ屋でした約束、覚えてる?」
「ジュエリーアイス……ですよね。覚えてます」
「来週の土曜空いてる?」
「はい」
「見に行こう」

 先生はそう言って、目の前の景色に視線を向けた。

「見れたらいいな〜」
「もし見れなくても、また次行けばいいじゃないですか」
「優しいね、ありがとう」

 優しくなんてない。先生が見たかった景色を前に、喜んでる顔が見たかっただけ。

 好きな人の喜んでる顔を見たい。それってこんな自然なことだったんだ。