魔法の花が教えてくれたこと

私は決意を固め、放課後に近所のあの公園に向かった。もしかしたらあの少女がいるかもしれないと思ったが、そんなことはなく。
 長い階段を途中でふらつきながらも、手すりにしがみついて必死に上り、やっと小さなスペースにたどり着いた。

 そして、リュックからアヤメの花を取り出し、その花びらを震えながらもつまむ。

 この花びらをちぎれば、全部元通り。今もなお、しょっちゅうポケットでブルブルと震えるスマホだって、すぐに静まる。


 不思議と、目を瞑っていて。何も変わった感じはなかったけれど、きっと花びらをちぎって目を開ければ見える景色が変わっている。

『あやめ、好きだよ』

 なぜか瞼の裏には、こちらに微笑んでいる陸斗が浮かんでいた。

 ——なんで、こんなに陸斗ばかり思い浮かぶんだろうなぁ。

 勝手に告白を受けていて、勝手に別れたくないと願ってしまったんだ。

 あぁ、そうか。

 
 好きだよ。私も、きっとずっとずっと好きだった。

 叶わない恋になってしまうけれど、これからも。


 涙が自然と溢れてきて、ポタリと花弁に一滴の雫が落ちる。

 そして、思いっきり花びらをちぎった。

 ゆっくりと目を開ける。
 すると。

 ……え?


 目の前の景色は、変わらなかった。さっきと全く。

 手元を見てみれば、しっかり花びらはちぎれている。けれどスマホを見たら、日付はそのまま変わっていなかった。

 嘘。って言うこと?

 そんな。
 だってあの子は、魔法の花って。

 ……騙されたのか。

 期待して、裏切られて、そしてまた、命綱もあっけなく切れたのだ。


 気がつけば私は手すりに手を置き、遥か遠くを眺めていた。

 ……あの先に行けたら、楽になれるのかな。

 とにかく楽になりたいと、今はそれだけを願っていた。
 届きもしない空に手を伸ばしてしまう。

 体が勝手に前に傾く。

「あやめっ!」

 ふいに後ろから抱きつかれて、そのまま私は後ろにもつれ込んでいた。背中には、温かいクッションがある。

「……ねぇ、あやめ。さっき、何してたの?」

 それは、ずっと聞きたくて、でも二度と聞けないと思っていた声だった。

 私は慌てて起き上がると、クッションになってくれていた陸斗もゆっくり起き上がる。

「……なんで、ここにいるの。私のこと、嫌いなんじゃないの?」
 絶望をあえて表に出しながら、私はきゅっと拳を握りしめて言った。

「あやめ、あやめは裏でコソコソ笑ってなんか、いないよね?」
「……え?」
「ごめん、あやめ。俺はあやめがここに来てるの、よく見かけてた」

 言っている意味がわからなかった。だってここは、ほとんどが知らない秘密基地のような場所だ。

「まだ、俺がなんであやめが好きになったか話してなかっただろ?あれは、あやめがここでコツコツ努力してるところ見てて。……本音を隠してたのは、知らなかったけど」

 陸斗は私の涙をそっと拭い、優しく手を包み込んでくれる。

 いつもと変わらない、あの温もりが、私の心までも包み込む。

「好きだよ。俺は、優しくて謙虚な天使みたいなあやめじゃなくて、努力を惜しまないあやめが好きだったのに……」
「でも私は、汚いよ。コメント欄にあったあれは言い過ぎだけど、実際に弱虫で、すぐ泣いて、本当に陸斗の思ってるような人間じゃない!」
「それなら俺だってそうだろ⁉︎ 」

 いきなり陸斗が声を荒げて、私は思わず口を噤んだ。