そして時は経ち、夏休みが明けて、実力考査が終わり、十月に入った頃。
いつも通りに登校した。
「おはよー、あやめ」
「おはよう、凛華」
いつも通りに笑みを浮かべて挨拶を交わし、私は自分の席に着く。
すると。
「あやめ、いる?」
教室の外から、ずっと考えていた人の声がした。
その声のした方を見ると、やはり。
「陸斗。どうしたの?さっき別れたばっかなのに」
ヘマをしないよう気をより一層引き締め、人と人の隙間をすり抜けて陸斗の元へ行くと、なぜか凛華と龍平もついてきた。
「二人は呼んでなかったんだけど」
「尊い二人の見習いです」
「見習いだ」
陸斗は「二人が良かったのに」と少し嫌そうな顔をしたが、しばらくしても二人が仁王立ちして動かないので、ため息を吐いて口を開いた。
「今確認したら今日は早帰りだし、折角だからデートしようと思ったんだけど。……ついてきたい?」
「もちろん」
「ダブルデートでいいだろ」
「あやめは?」
一気に全員の視線が私に向けられ、私は正直ドキッとしながら、「え、私は別にいいよ?陸斗がよければ」ととりあえず返した。
「やっぱりお手本だわ。相手を尊重して、喧嘩したことないでしょ?」
「えー、ま、そうだな。したことない。あやめが優しいから」
「私が優しいんじゃなくて陸斗が完璧に準備してくれるからだよ」
褒められれば褒められるほど醜い感情が出てきて、『やり直したい』と願ってしまう。けれど、陸斗から、今まで私と過ごした記憶が消えてしまう。それも嫌だった。
そんなこんなで、私は夏休みもぐるぐるぐるぐる考えて、今も決心がつかない。
何かあったら、魔法で巻き戻せばいい。それだけの話だから。
わがままだ。嘘をついて、相手を好きにさせて。貴重な青春を、今も奪っている。
足元に視線が行ってしまうのを、私は止められなかった。
◇◇◇
その日のデートは凛華と龍平も一緒で、いつもとはまた違う雰囲気で街を歩いた。しばらくしてから凛華と龍平、私と陸斗で別々の用事を済ませる流れになり、私は陸斗と手を繋いで商店街を歩く。やはり、陸斗の隣が一番安心するような気がした。
陸斗と付き合って、悩むようになったというのに。おかしな話だ。
「今頃あっちはバッティングセンターかぁ。どっちも野球部じゃないのに、なんで行きたいって思い立ったんだ?」
「ほんとだよ。ま、私たちもその間にたい焼き食べられたし、満足だよ」
この商店街は随分と古い歴史を持っており、その中でもたい焼きは創業当時から変わっておらず、絶品だと聞いていた。
……というのは建前で、本当は聞きたいことがあったのだ。
「ねぇ、陸斗。陸斗はどうして私に告白してくれたの?」
「え?なんだよいきなり」
凛華と龍平分のたい焼きが入った紙袋を持ち直しながら、陸斗は目を見張る。
「やっぱりあやめはモテてたから。誰かに奪われる前に、後悔しないように告白しようかなって」
恥ずかしそうに頬を掻きながら、陸斗はポツリと呟く。
「じゃあ、もしも陸斗が後悔する前に戻れる魔法を手に入れたら、どうする?嘘とかじゃなくて、本当の魔法」
「やっぱりあやめらしくないよ」
「心理テストです。だから気にしないで」
余裕ぶって笑って見せるけど、本当は今にも胸がはち裂けそうで、顔も引き攣っているか心配だった。
「魔法があったとしても、使わないなぁ。だって俺だけもらっちゃ不公平だし、なんかズルみたいで嫌だもん。魔法に頼らず、努力してなんとか乗り切るんだよ」
「……」
——やっぱり、そうなるよな。
一気に現実に戻ってきた感覚だった。
魔法に頼らず、努力してなんとか乗り切る。
……私だったら、現実から逃げたくなるな。今にも使いたいと思っているもん。
ただ、陸斗との思い出が歯止めをきかせていて。
陸斗はいいなぁ。思わず羨ましくなってしまう。
私が欲しかったものを全部持っていて、私はいらないものしか持っていない。
いつも通りに登校した。
「おはよー、あやめ」
「おはよう、凛華」
いつも通りに笑みを浮かべて挨拶を交わし、私は自分の席に着く。
すると。
「あやめ、いる?」
教室の外から、ずっと考えていた人の声がした。
その声のした方を見ると、やはり。
「陸斗。どうしたの?さっき別れたばっかなのに」
ヘマをしないよう気をより一層引き締め、人と人の隙間をすり抜けて陸斗の元へ行くと、なぜか凛華と龍平もついてきた。
「二人は呼んでなかったんだけど」
「尊い二人の見習いです」
「見習いだ」
陸斗は「二人が良かったのに」と少し嫌そうな顔をしたが、しばらくしても二人が仁王立ちして動かないので、ため息を吐いて口を開いた。
「今確認したら今日は早帰りだし、折角だからデートしようと思ったんだけど。……ついてきたい?」
「もちろん」
「ダブルデートでいいだろ」
「あやめは?」
一気に全員の視線が私に向けられ、私は正直ドキッとしながら、「え、私は別にいいよ?陸斗がよければ」ととりあえず返した。
「やっぱりお手本だわ。相手を尊重して、喧嘩したことないでしょ?」
「えー、ま、そうだな。したことない。あやめが優しいから」
「私が優しいんじゃなくて陸斗が完璧に準備してくれるからだよ」
褒められれば褒められるほど醜い感情が出てきて、『やり直したい』と願ってしまう。けれど、陸斗から、今まで私と過ごした記憶が消えてしまう。それも嫌だった。
そんなこんなで、私は夏休みもぐるぐるぐるぐる考えて、今も決心がつかない。
何かあったら、魔法で巻き戻せばいい。それだけの話だから。
わがままだ。嘘をついて、相手を好きにさせて。貴重な青春を、今も奪っている。
足元に視線が行ってしまうのを、私は止められなかった。
◇◇◇
その日のデートは凛華と龍平も一緒で、いつもとはまた違う雰囲気で街を歩いた。しばらくしてから凛華と龍平、私と陸斗で別々の用事を済ませる流れになり、私は陸斗と手を繋いで商店街を歩く。やはり、陸斗の隣が一番安心するような気がした。
陸斗と付き合って、悩むようになったというのに。おかしな話だ。
「今頃あっちはバッティングセンターかぁ。どっちも野球部じゃないのに、なんで行きたいって思い立ったんだ?」
「ほんとだよ。ま、私たちもその間にたい焼き食べられたし、満足だよ」
この商店街は随分と古い歴史を持っており、その中でもたい焼きは創業当時から変わっておらず、絶品だと聞いていた。
……というのは建前で、本当は聞きたいことがあったのだ。
「ねぇ、陸斗。陸斗はどうして私に告白してくれたの?」
「え?なんだよいきなり」
凛華と龍平分のたい焼きが入った紙袋を持ち直しながら、陸斗は目を見張る。
「やっぱりあやめはモテてたから。誰かに奪われる前に、後悔しないように告白しようかなって」
恥ずかしそうに頬を掻きながら、陸斗はポツリと呟く。
「じゃあ、もしも陸斗が後悔する前に戻れる魔法を手に入れたら、どうする?嘘とかじゃなくて、本当の魔法」
「やっぱりあやめらしくないよ」
「心理テストです。だから気にしないで」
余裕ぶって笑って見せるけど、本当は今にも胸がはち裂けそうで、顔も引き攣っているか心配だった。
「魔法があったとしても、使わないなぁ。だって俺だけもらっちゃ不公平だし、なんかズルみたいで嫌だもん。魔法に頼らず、努力してなんとか乗り切るんだよ」
「……」
——やっぱり、そうなるよな。
一気に現実に戻ってきた感覚だった。
魔法に頼らず、努力してなんとか乗り切る。
……私だったら、現実から逃げたくなるな。今にも使いたいと思っているもん。
ただ、陸斗との思い出が歯止めをきかせていて。
陸斗はいいなぁ。思わず羨ましくなってしまう。
私が欲しかったものを全部持っていて、私はいらないものしか持っていない。
