17歳の私────三木ミキは学校で孤立している。あえてね。
自ら選んでのことである。人間関係こそがストレスの根源だからだ。ゆえに、賢い選択をしているという自負はある。いや、あった。今日の四時間目のホームルームまでは。
文化祭まであと二週間。クラスの出し物や係決めが着々と進む中、最大のイベントである「ミスコン」のクラス代表を決める時間になった。
うちの高校のミスコンは、各クラスから一名の代表を推薦する決まりになっている。だが、このミスコン。本来なら“男子”が出場するのが伝統。つまり女装コンテストなのだが……。
「はいはーい、私、ミキちゃんがいいと思いまーす」
手を挙げたのは、クラスの中心グループ────いわゆる一軍女子のリーダー格だった。
教室の空気が、一瞬で凍りついた。いや、凍りついたのは私だけだ。
容姿に自信なんて欠片もない。前髪は目にかかるくらい長くしているし、肌だって綺麗じゃない。目立たないように、息を潜めて生きてきた私が、ミスコンの代表?
というか一応、女なのだが?
「そーなったら、うちのクラスだけじゃね? 女子選ぶの」
「アリじゃない? 新しいジャンル開拓ってことで」
悪意に乗っかる声。冗談だと思って笑う声。そして、関わり合いになりたくなくて目を逸らす大多数の無言。
それは、集団投票という形をとった、公開いじめだった。私をステージに上げて、全校生徒の笑いものにするための残酷なショーの幕開け。
担任の教師は、教室の歪な空気に気づかないふりをして私を見た。
「みんなこう言ってるけど、三木もいいんだね?」
断りたかった。嫌です、と言いたかった。けれど、一軍女子たちの冷ややかな視線が一斉に私に突き刺さっているのを感じて、喉がカラカラに干からびた。
ここで逆らえば、どうなるだろう。きっと、タダじゃ済まないだろう。
「……はい」
恐怖に負けた私は、小さくうなずいてしまった。周囲には、私が了承したという形だけが残った。
*
「あの……やっぱりミスコン、辞退させてほしくて……」
昼休み。おにぎりを胃に流し込んだ私は、意を決して一軍女子のリーダーに話しかけた。
教室の隅でスマホをいじっていた彼女たちは、ニヤニヤと笑いながら私を見る。
「えー、ミキちゃんせっかく選ばれたのに? まあ、どうしてもって言うなら、推薦引っ込めてあげてもいいけど」
「ほんとに?」
「うん、いいよ。じゃあ代わりにさ」
リーダーが、意地悪な目を細めた。
「佐山サトコのパンツ撮ってきて」
「……え?」
「あの生意気なビッチギャル。お高く止まってて目障りなんだよね。だからさ、あいつのパンツ姿の写真、クラスのグループチャットにアップしてよ。そしたら、ミスコンの件はなしにしてあげる」
断るべきだ。そんな卑劣なこと、できるわけがない。
けれど、私の口から出たのは、自分を守るための最低な返答だった。
「……わかった。やってみる」
佐山サトコ。別のクラスの、あの派手な美少女……それだけだ。私は、彼女のことを何も知らない。
ただ、彼女は綺麗で、どこか近寄りがたいオーラを放っていて、一軍女子たちに何を言われても平気な顔をしているように見えた。
あの人なら、少しくらい傷つけても大丈夫なんじゃないか。パンツの写真を撮られたくらいで、彼女の堂々とした態度は揺るがないんじゃないか。
そんな浅ましい思い込みが、私の罪悪感にフタをした。
私が全校生徒の前で公開処刑される地獄に比べれば、安いもんだ。
彼女が放課後、いつも一人で体育館へ向かうことは知っていた。居場所のない私もどこか安住の地を探して学校を彷徨いたことがあるから。
放課後のチャイムが鳴る。
私はポケットの中でスマホをきつく握りしめ、足早に教室を抜け出した。
向かう先は、夕陽が差し込む無人の体育館。
そこで私は、彼女に声をかけるのだ。
────えと……ごめんなさい、急に呼び出してしまって。



