〇國衛商会・倉庫(数か月後・昼)
英国やオランダから届いた木箱。櫻子が本を一冊ずつ取り出し、帳面に書きつけていく。
茂文「オランダ語の本まで、本当に売れるのか?」
櫻子「私なら全部欲しいです」
茂文「お前を基準にするな」
櫻子「この前は、当たってるっておっしゃいました」
茂文「……今回も当たったら考える」
真壁が封筒を持って入ってくる。
真壁「欧州使節団の歓迎会の招待状です。今回は櫻子さんのお名前も入っています。國衛商会の通訳として」
櫻子が封筒を受け取る。自分の名前が印字された招待状(アップ)。
〇モンタージュ(歓迎会までの数日)
閉店後のミモザ。使節団の名簿、各国の新聞、関税の資料を広げる櫻子。
オランダ人の常連客に会話の相手を頼み、船便・関税・商談の言い回しを何度も練習する櫻子。
櫻子が読み上げ、茂文が質問を投げ、櫻子が即答する。
茂文「オランダの使節の顧問は」
櫻子「ファン・デル・ベルク氏。元大臣。ジャワの砂糖と茶に詳しい方です」
茂文「よし」
櫻子(今度は、ちゃんと話に入ってみせる)
〇國衛商会の自動車・車内(歓迎会当日・夕方)
落ち着いた紺の洋装の櫻子。膝の上には書き込みだらけの単語帳。
櫻子「今度は壁の花になりませんから」
茂文がふっと笑う。
茂文「期待してる」
〇ホテル・大広間(夜)
各国の旗が飾られた広間。前回の夜会よりさらに華やか(大ゴマ)。
櫻子は茂文の半歩後ろで、紳士たちとの会話を自然に通訳していく。関税の話にも、ためらわずに言葉を返す。
遠くから、白鷺男爵と麗子がその様子を見ている。
〇同・広間の隅(続き)
白髪の老紳士が、日本の役人たちに囲まれて困り顔。役人たちは英語で話しかけるが、老紳士はぎこちなく首を振るばかり。
役人「ですから、お席は、あちらで……」
老紳士《すまない、英語は……少ししか》
櫻子が気づき、すっと近づく。
櫻子《何かお困りでしょうか》(オランダ語)
老紳士の顔が、ぱっと明るくなる。
老紳士《オランダ語!ここで聞けるとは》
そこへ、見覚えのある英国人。第3話の商人ブラウン。
ブラウン《閣下!ジャワ糖の件で、ぜひお話を》
老紳士は困ったように櫻子を見る。櫻子は頷き、二人の間に立つ。
オランダ語から英語へ。英語からオランダ語へ。櫻子を挟んで、言葉が途切れずに行き交う(二種類の文字のフキダシが櫻子を中心に流れる見開き)。
ブラウン《昨年のスラバヤ積みの値は――》
櫻子《据え置きでした。ジャワ糖全体は一割二分安でしたが》
老紳士とブラウンが同時に櫻子を見る。
櫻子が読み、茂文が一度で覚えた記事の数字。
少し離れた場所で、茂文が腕を組んで見ている。口元が誇らしげに緩んでいる。
真壁(隣で)「若旦那、顔が緩んでいます」
茂文「緩んでない」
話がまとまり、ブラウンが上機嫌で去っていく。茂文が櫻子のそばへ来る。
茂文「……お前、そんなことまでできたのか」
櫻子「お二人の言葉がわかるので、伝えているだけですけど」
けろりとした顔。茂文が思わず笑う。
〇同(続き)
老紳士が櫻子に向き直る。
老紳士《お嬢さん、オランダへ来たことは?》
櫻子《ありません。全部、横浜の港で覚えました》
老紳士《ほう》
櫻子《でも、いつか留学してみたいんです。言葉だけじゃなく、その言葉で書かれたものを、ちゃんと学びたくて》
老紳士はじっと櫻子を見つめ、深く頷く。
その背後で、真壁が青ざめた顔で茂文に耳打ちする。
真壁「若旦那。あの方、ファン・デル・ベルク氏ご本人です。オランダの元大臣で、今回の使節団の顧問の」
茂文「……名簿で読み上げさせた、あの?」
真壁「はい。櫻子さんは、気づいていないようです」
〇同・ホテルの玄関(夜更け)
帰り際。老紳士が櫻子を呼び止め、一枚の名刺を差し出す。
老紳士《本当に学びたいのなら、私に手紙を書きなさい》
櫻子《……え?》
老紳士《君には、外の世界を見る価値がある》
名刺を見下ろす櫻子。そこに刻まれた名前に、ようやく気づく。名簿で何度も読み上げた名前。
櫻子(この方が……ファン・デル・ベルク閣下……!?)
言葉を失う櫻子(大ゴマ)。
その少し後ろで、茂文が櫻子を見ている。嬉しそうで、どこか寂しそうな表情(ラストの一コマ)。
英国やオランダから届いた木箱。櫻子が本を一冊ずつ取り出し、帳面に書きつけていく。
茂文「オランダ語の本まで、本当に売れるのか?」
櫻子「私なら全部欲しいです」
茂文「お前を基準にするな」
櫻子「この前は、当たってるっておっしゃいました」
茂文「……今回も当たったら考える」
真壁が封筒を持って入ってくる。
真壁「欧州使節団の歓迎会の招待状です。今回は櫻子さんのお名前も入っています。國衛商会の通訳として」
櫻子が封筒を受け取る。自分の名前が印字された招待状(アップ)。
〇モンタージュ(歓迎会までの数日)
閉店後のミモザ。使節団の名簿、各国の新聞、関税の資料を広げる櫻子。
オランダ人の常連客に会話の相手を頼み、船便・関税・商談の言い回しを何度も練習する櫻子。
櫻子が読み上げ、茂文が質問を投げ、櫻子が即答する。
茂文「オランダの使節の顧問は」
櫻子「ファン・デル・ベルク氏。元大臣。ジャワの砂糖と茶に詳しい方です」
茂文「よし」
櫻子(今度は、ちゃんと話に入ってみせる)
〇國衛商会の自動車・車内(歓迎会当日・夕方)
落ち着いた紺の洋装の櫻子。膝の上には書き込みだらけの単語帳。
櫻子「今度は壁の花になりませんから」
茂文がふっと笑う。
茂文「期待してる」
〇ホテル・大広間(夜)
各国の旗が飾られた広間。前回の夜会よりさらに華やか(大ゴマ)。
櫻子は茂文の半歩後ろで、紳士たちとの会話を自然に通訳していく。関税の話にも、ためらわずに言葉を返す。
遠くから、白鷺男爵と麗子がその様子を見ている。
〇同・広間の隅(続き)
白髪の老紳士が、日本の役人たちに囲まれて困り顔。役人たちは英語で話しかけるが、老紳士はぎこちなく首を振るばかり。
役人「ですから、お席は、あちらで……」
老紳士《すまない、英語は……少ししか》
櫻子が気づき、すっと近づく。
櫻子《何かお困りでしょうか》(オランダ語)
老紳士の顔が、ぱっと明るくなる。
老紳士《オランダ語!ここで聞けるとは》
そこへ、見覚えのある英国人。第3話の商人ブラウン。
ブラウン《閣下!ジャワ糖の件で、ぜひお話を》
老紳士は困ったように櫻子を見る。櫻子は頷き、二人の間に立つ。
オランダ語から英語へ。英語からオランダ語へ。櫻子を挟んで、言葉が途切れずに行き交う(二種類の文字のフキダシが櫻子を中心に流れる見開き)。
ブラウン《昨年のスラバヤ積みの値は――》
櫻子《据え置きでした。ジャワ糖全体は一割二分安でしたが》
老紳士とブラウンが同時に櫻子を見る。
櫻子が読み、茂文が一度で覚えた記事の数字。
少し離れた場所で、茂文が腕を組んで見ている。口元が誇らしげに緩んでいる。
真壁(隣で)「若旦那、顔が緩んでいます」
茂文「緩んでない」
話がまとまり、ブラウンが上機嫌で去っていく。茂文が櫻子のそばへ来る。
茂文「……お前、そんなことまでできたのか」
櫻子「お二人の言葉がわかるので、伝えているだけですけど」
けろりとした顔。茂文が思わず笑う。
〇同(続き)
老紳士が櫻子に向き直る。
老紳士《お嬢さん、オランダへ来たことは?》
櫻子《ありません。全部、横浜の港で覚えました》
老紳士《ほう》
櫻子《でも、いつか留学してみたいんです。言葉だけじゃなく、その言葉で書かれたものを、ちゃんと学びたくて》
老紳士はじっと櫻子を見つめ、深く頷く。
その背後で、真壁が青ざめた顔で茂文に耳打ちする。
真壁「若旦那。あの方、ファン・デル・ベルク氏ご本人です。オランダの元大臣で、今回の使節団の顧問の」
茂文「……名簿で読み上げさせた、あの?」
真壁「はい。櫻子さんは、気づいていないようです」
〇同・ホテルの玄関(夜更け)
帰り際。老紳士が櫻子を呼び止め、一枚の名刺を差し出す。
老紳士《本当に学びたいのなら、私に手紙を書きなさい》
櫻子《……え?》
老紳士《君には、外の世界を見る価値がある》
名刺を見下ろす櫻子。そこに刻まれた名前に、ようやく気づく。名簿で何度も読み上げた名前。
櫻子(この方が……ファン・デル・ベルク閣下……!?)
言葉を失う櫻子(大ゴマ)。
その少し後ろで、茂文が櫻子を見ている。嬉しそうで、どこか寂しそうな表情(ラストの一コマ)。



