まずは盗撮されていた動画をどうにか削除させることから始めないといけない。あの後、当然投稿した奴に直接連絡をとって削除するよう頼みこんでみたけど、“無理”とたった一言で一蹴されてしまった。そうとなれば、他の方法を敢行するしかない。
あれからありとあらゆる方法に思考を巡らせてみた結果、ひとまず主犯格の奴と何かしらの関係性を構築して、そいつを通じて削除してもらうのが最も得策だろう、という選択肢に至った。学校や陽葵の両親に話すのが多分一番合理的なのは分かっている。
それでも、陽葵を死に追い詰めた要因の一つは俺なのだから、俺の手で片付けなければいけないと思ったのだ。だって、俺は陽葵が死ぬ少し前にあんなことを口走ってしまったのだから。
「とりあえず、いつものアカから連絡とってみるか」
まず、SNSを開いて自分のメインアカウントのフォロー欄から主犯格の奴と交流がありそうな人間を探した。そこからしばらくその人のフォロー欄をしらみつぶしにスクロールしていると、ようやく主犯格らしき奴のアカウントを見つけることに成功した。
とにかく会う約束さえ取り付けられればそれでよかったから、適当な文章を送信して返事を待つ。
その後、10分もしないうちにそいつからの返信が来た。汗の滲む手でメッセージを開くと、そこには“おっけーその日空いてるからいいよ”という端的な言葉があった。
ひとまず第一関門は突破だ。体中の力が抜けて、手に滲んでいた汗が温度を失っていく感覚がした。
そして数日後、ついにその約束の日が来た。
時間通りに喫茶店に到着し店に入ったものの、まだあいつは来ていないようだった。先に席に着き、しばらく待った末にようやくそいつは姿を現した。20分以上連絡もなしに遅れていたから、もう今日は来ないんじゃないかと少し焦っていた俺は不本意ながらも胸を撫で下ろす。
「やっほー、黒糸の方が早かったんだね。うち、遅刻癖あるから全然もっと遅く来てくれてもよかったのに」
遅刻してるんだからまず謝れよ、と至極真っ当な気持ちが心に浮かぶ。でも、それを口にすることはしなかった。今日は円滑な会話を交わして動画を削除させる第一歩を踏むのが目的だ。下手に相手を苛立たせるわけにはいかない。
「あ、というか今日はうちら二人だけなんだね。てっきり他の子たちも来ると思ってた」
「それはごめん。何人か呼ぼうとしたんだけどさ、全員なんか微妙に予定が合わなかったみたいで」
これは真っ赤な嘘だ。端から誰も誘う気なんてない。今回は本音で語り合うのが目的なんだから、他の誰かを呼んだらまさに本末転倒だ。
「ふーん、そうなんだ。まぁいいや、なんか頼もうよ」
飲み物なんか頼んだらこいつの頭にぶちまけてしまいそうで本当は何も注文したくなかったけど、この店はドリンク+フード、もしくはデザートを一人につき一セットは頼まないといけない決まりらしい。ややあってメニュー表に目を通して吟味した末に、俺はプリンとメロンソーダ、あいつはホットケーキとカフェラテを注文した。
本題に入るまでの会話はおそらく中々続かないだろうと踏んでいたけど、案外滞りなく話は進んでいった。
「てか、結構黒糸って話してたら面白いね。男子とばっかりじゃなくて、もっと女子とも話せばいいのに」
テーブルに頬杖をついたこいつは、軽薄な笑みを口角に浮かべながら適当な言葉を並べる。
「そしたら彼女の一人くらいすぐできるんじゃない?他の連中はしょっちゅう付き合って別れてを繰り返してるよ。黒糸もそろそろそういうステップ踏むべきだと思う」
「俺はそういうのはまだいいんだよ。恋愛とか、よく分かんねぇし」
「嘘つかないでよ。あ、なんだっけ。水瀬といい感じの仲だったんだっけ?」
陽葵の名字が突然話の中に出てきたのに驚いて、俺は目を見開いた。でもその口調は陽葵を侮蔑するような薄ら笑いを含んでいて、明るい話題として名字を出したわけではないことはすぐに感じ取れた。目の前にいるこいつは俺の心の底で湧き上がっている怒りには気がついていないらしく、そのままの口調で話を続ける。
「でも残念だね。あっけなく死んじゃってさ~自殺だったんでしょ?笑っちゃうよね、あいついっつも笑ってたのに急にそんなことするとかさ」
思わず握りこぶしに力が入るのが分かった。殴ることは誓ってしないけど、いつそうなってもおかしくないほど、俺は憎しみに自分を支配されている。
「なんだよ、その言い方。陽葵のこといじめてたくせに、陽葵が死んだ後も笑いものにするのか?性根が腐りきってんな」
そこで俺の真意に勘づいたのか、こいつは“なるほどね”と呟いた。しまった、と思ったもののもう遅い。こうなったら徹底的にいじめのことについて問い詰めてやる。
「あ、今日なんで急に遊びに誘ってきたのか分かっちゃった。水瀬のことで問い詰めたかったんでしょ?あとはあの動画の件かな?」
「あぁそうだよ。今日はそのためにお前を呼び出した。今更逃げようとしても無駄だからな」
「え~こわ。ま、でもいいよ。どうせ逃げたところであんたは追いかけまわしてくるだろうし、今日は色々話してあげる」
こいつはわざとらしく怯えたような仕草をしながらそう言った。話してあげる、という口ぶりがやけに高圧的なのが引っ掛かったけど、今はそんな些末なことを気にしている暇はない。
「本題だけど、お前はなんで陽葵をいじめてたんだ?あいつをいじめる理由なんかないはずだろ」
「そのいじめって言い方やめてくれないかな。ただ私たちはちょっとからかってただけなんだけど」
「お前らがやってたのは間違いなく嫌がらせの類だろ。陽葵が人の言葉とかその場の状況を理解するのが苦手だからって散々やってたよな」
陽葵が受けていた嫌がらせの数々が脳裏を過った。皮肉を使えば陽葵には伝わらないと踏んで目の前で堂々と悪口を吐いたり、その日必要な教科書をどこかに隠したり、あれを嫌がらせと言わずしてなんと表現すればいいのだろう。
「じゃあなに、証拠でもあんの?証拠があるならさっさと警察にでも突き出せば?」
「そんな言い分通用しねぇからな。校内でのいじめなんか証拠を撮れるわけないだろうが。うちの学校、スマホの持ち込み禁止なの知ってるよな?」
「言い分が通用しないのはそっちでしょ。証拠もないのに言いがかりをつけられてるうちらの方が被害者なんですけど」
「なんで、そんなことが言えるんだよ。陽葵が、どれだけお前らのせいで苦しんでたか…………!」
俺は心から溢れ出しそうなやるせなさに襲われるまま、テーブルに握りこぶしを押しつけた。力の逃げ場がなくなった手は微かに震えている。
「じゃあ、なんで黒糸が助けなかったの?うちらが水瀬に色々してたの近くで見てたよね。助けなかったあんたに責任がないって言えるのかな」
「それ、は…………」
事実でしかないその言葉を前に、口をつぐむしかなかった。そんなの、俺が一番よく理解してる。でも、それでいじめていた連中の罪が消えるわけじゃない。
それを声にするために口を開こうとした瞬間、そいつは俺の言葉を遮るようにして捨て台詞を吐いた。
「ってことで、うちはもう行くね。もう金輪際この話してこないで、気分悪くなるから」
勢いよく立ち上がったそいつは、踵を鳴らしながら颯爽と店から出ていった。その後ろ姿は妙に威風堂々としている。
「ちょっと待てって、まだ動画の話が…………!」
あいつの背中に向かって叫んだものの、もう遅い。店の外まで追いかけることも考えたけど、すでに注文している状態で勝手に店を出ることは良心が邪魔してできなかった。
その直後に、店員がテーブルにスイーツとドリンクを運んできた。俺一人のテーブルには湯気を纏ったカフェラテとホットケーキ、メロンソーダとプリンがそれぞれただ置かれている。“これ、一人でどうしろって言うんだよ”とか“てか、あいつ代金も払わずに出て行きやがったな”とか色んな感情が頭の中をぐるぐると巡った。
でも、心の中枢にある気持ちはただ一つ。あいつらへの激しい憎しみだ。
あれからありとあらゆる方法に思考を巡らせてみた結果、ひとまず主犯格の奴と何かしらの関係性を構築して、そいつを通じて削除してもらうのが最も得策だろう、という選択肢に至った。学校や陽葵の両親に話すのが多分一番合理的なのは分かっている。
それでも、陽葵を死に追い詰めた要因の一つは俺なのだから、俺の手で片付けなければいけないと思ったのだ。だって、俺は陽葵が死ぬ少し前にあんなことを口走ってしまったのだから。
「とりあえず、いつものアカから連絡とってみるか」
まず、SNSを開いて自分のメインアカウントのフォロー欄から主犯格の奴と交流がありそうな人間を探した。そこからしばらくその人のフォロー欄をしらみつぶしにスクロールしていると、ようやく主犯格らしき奴のアカウントを見つけることに成功した。
とにかく会う約束さえ取り付けられればそれでよかったから、適当な文章を送信して返事を待つ。
その後、10分もしないうちにそいつからの返信が来た。汗の滲む手でメッセージを開くと、そこには“おっけーその日空いてるからいいよ”という端的な言葉があった。
ひとまず第一関門は突破だ。体中の力が抜けて、手に滲んでいた汗が温度を失っていく感覚がした。
そして数日後、ついにその約束の日が来た。
時間通りに喫茶店に到着し店に入ったものの、まだあいつは来ていないようだった。先に席に着き、しばらく待った末にようやくそいつは姿を現した。20分以上連絡もなしに遅れていたから、もう今日は来ないんじゃないかと少し焦っていた俺は不本意ながらも胸を撫で下ろす。
「やっほー、黒糸の方が早かったんだね。うち、遅刻癖あるから全然もっと遅く来てくれてもよかったのに」
遅刻してるんだからまず謝れよ、と至極真っ当な気持ちが心に浮かぶ。でも、それを口にすることはしなかった。今日は円滑な会話を交わして動画を削除させる第一歩を踏むのが目的だ。下手に相手を苛立たせるわけにはいかない。
「あ、というか今日はうちら二人だけなんだね。てっきり他の子たちも来ると思ってた」
「それはごめん。何人か呼ぼうとしたんだけどさ、全員なんか微妙に予定が合わなかったみたいで」
これは真っ赤な嘘だ。端から誰も誘う気なんてない。今回は本音で語り合うのが目的なんだから、他の誰かを呼んだらまさに本末転倒だ。
「ふーん、そうなんだ。まぁいいや、なんか頼もうよ」
飲み物なんか頼んだらこいつの頭にぶちまけてしまいそうで本当は何も注文したくなかったけど、この店はドリンク+フード、もしくはデザートを一人につき一セットは頼まないといけない決まりらしい。ややあってメニュー表に目を通して吟味した末に、俺はプリンとメロンソーダ、あいつはホットケーキとカフェラテを注文した。
本題に入るまでの会話はおそらく中々続かないだろうと踏んでいたけど、案外滞りなく話は進んでいった。
「てか、結構黒糸って話してたら面白いね。男子とばっかりじゃなくて、もっと女子とも話せばいいのに」
テーブルに頬杖をついたこいつは、軽薄な笑みを口角に浮かべながら適当な言葉を並べる。
「そしたら彼女の一人くらいすぐできるんじゃない?他の連中はしょっちゅう付き合って別れてを繰り返してるよ。黒糸もそろそろそういうステップ踏むべきだと思う」
「俺はそういうのはまだいいんだよ。恋愛とか、よく分かんねぇし」
「嘘つかないでよ。あ、なんだっけ。水瀬といい感じの仲だったんだっけ?」
陽葵の名字が突然話の中に出てきたのに驚いて、俺は目を見開いた。でもその口調は陽葵を侮蔑するような薄ら笑いを含んでいて、明るい話題として名字を出したわけではないことはすぐに感じ取れた。目の前にいるこいつは俺の心の底で湧き上がっている怒りには気がついていないらしく、そのままの口調で話を続ける。
「でも残念だね。あっけなく死んじゃってさ~自殺だったんでしょ?笑っちゃうよね、あいついっつも笑ってたのに急にそんなことするとかさ」
思わず握りこぶしに力が入るのが分かった。殴ることは誓ってしないけど、いつそうなってもおかしくないほど、俺は憎しみに自分を支配されている。
「なんだよ、その言い方。陽葵のこといじめてたくせに、陽葵が死んだ後も笑いものにするのか?性根が腐りきってんな」
そこで俺の真意に勘づいたのか、こいつは“なるほどね”と呟いた。しまった、と思ったもののもう遅い。こうなったら徹底的にいじめのことについて問い詰めてやる。
「あ、今日なんで急に遊びに誘ってきたのか分かっちゃった。水瀬のことで問い詰めたかったんでしょ?あとはあの動画の件かな?」
「あぁそうだよ。今日はそのためにお前を呼び出した。今更逃げようとしても無駄だからな」
「え~こわ。ま、でもいいよ。どうせ逃げたところであんたは追いかけまわしてくるだろうし、今日は色々話してあげる」
こいつはわざとらしく怯えたような仕草をしながらそう言った。話してあげる、という口ぶりがやけに高圧的なのが引っ掛かったけど、今はそんな些末なことを気にしている暇はない。
「本題だけど、お前はなんで陽葵をいじめてたんだ?あいつをいじめる理由なんかないはずだろ」
「そのいじめって言い方やめてくれないかな。ただ私たちはちょっとからかってただけなんだけど」
「お前らがやってたのは間違いなく嫌がらせの類だろ。陽葵が人の言葉とかその場の状況を理解するのが苦手だからって散々やってたよな」
陽葵が受けていた嫌がらせの数々が脳裏を過った。皮肉を使えば陽葵には伝わらないと踏んで目の前で堂々と悪口を吐いたり、その日必要な教科書をどこかに隠したり、あれを嫌がらせと言わずしてなんと表現すればいいのだろう。
「じゃあなに、証拠でもあんの?証拠があるならさっさと警察にでも突き出せば?」
「そんな言い分通用しねぇからな。校内でのいじめなんか証拠を撮れるわけないだろうが。うちの学校、スマホの持ち込み禁止なの知ってるよな?」
「言い分が通用しないのはそっちでしょ。証拠もないのに言いがかりをつけられてるうちらの方が被害者なんですけど」
「なんで、そんなことが言えるんだよ。陽葵が、どれだけお前らのせいで苦しんでたか…………!」
俺は心から溢れ出しそうなやるせなさに襲われるまま、テーブルに握りこぶしを押しつけた。力の逃げ場がなくなった手は微かに震えている。
「じゃあ、なんで黒糸が助けなかったの?うちらが水瀬に色々してたの近くで見てたよね。助けなかったあんたに責任がないって言えるのかな」
「それ、は…………」
事実でしかないその言葉を前に、口をつぐむしかなかった。そんなの、俺が一番よく理解してる。でも、それでいじめていた連中の罪が消えるわけじゃない。
それを声にするために口を開こうとした瞬間、そいつは俺の言葉を遮るようにして捨て台詞を吐いた。
「ってことで、うちはもう行くね。もう金輪際この話してこないで、気分悪くなるから」
勢いよく立ち上がったそいつは、踵を鳴らしながら颯爽と店から出ていった。その後ろ姿は妙に威風堂々としている。
「ちょっと待てって、まだ動画の話が…………!」
あいつの背中に向かって叫んだものの、もう遅い。店の外まで追いかけることも考えたけど、すでに注文している状態で勝手に店を出ることは良心が邪魔してできなかった。
その直後に、店員がテーブルにスイーツとドリンクを運んできた。俺一人のテーブルには湯気を纏ったカフェラテとホットケーキ、メロンソーダとプリンがそれぞれただ置かれている。“これ、一人でどうしろって言うんだよ”とか“てか、あいつ代金も払わずに出て行きやがったな”とか色んな感情が頭の中をぐるぐると巡った。
でも、心の中枢にある気持ちはただ一つ。あいつらへの激しい憎しみだ。

