親愛なる嘘つきな君へ。

あれから数日経ったものの、特段先生から呼び出されることもなくいつも通りの日常が続いている。相も変わらず皆から空気として扱われ、一人きりで過ごす日常がこの日もただ通り過ぎていった。

夕暮れに染まった空をぼんやりと眺めながら家に帰りつき、何気なく真っ先にスマホを開く。通知に気がついて久々にSNSのアイコンをタップすると、あの日以降静かだったメッセージ欄に誰かから送られてきたリンクが表示されていた。
変な動画じゃないだろうな、と警戒しながらも念のためリンクを踏む。

“男子が女子に暴力を振るう瞬間”

そう題された動画には、俺がクラスメイトの肩を突き飛ばす瞬間が映っていた。途端に血の気が引いて、頭が真っ白になる。

でも、不幸中の幸いだったのはその動画のリンクを知っている人間だけが見ることのできる設定になっていたことだ。だけど、コメント機能はONにされているみたいだ。恐る恐るコメント欄を開いたものの、案外俺に対する批判は多くなかった。

“男子側もどうかと思うけど、これ撮って笑ってる他の生徒もヤバいだろ。普通この空気の中で動画回さんて”

“これ、最近うちらの中で話題になってるやつ?思ったより大したことないじゃん。おもんな”

“話してる内容的に男の方が被害者っぽくね?”

大半が面白がっていたり、動画の内容を真に受けていたりするものばかりだけど、中には真実を見抜いているコメントもある。しかしその類のコメントは投稿者が削除しているのかほとんど見当たらなかった。
おそらく投稿者の知り合いだけに拡散されたものだろうし、あくまで十数件のコメントだ。大丈夫、全世界に拡散されたわけじゃない。でも、もし誰かがこの動画を録画して大手の動画サイトにでも投稿したら俺はどうなる?

学校に来られなくなるかもしれない、家族に迷惑をかけるかもしれない。その時点で、俺の人生は終わりだ。
だけど、こんなくだらない動画誰が見るんだよ。たかが肩を突き飛ばしているだけの動画だ。どこにも話題になる要素なんてない。
でも、さっきの想像がもし現実になってしまったらどうすればいいんだろう。
今のこのネット世界、何がどんなきっかけで拡散されるかなんて全く予測がつかない。もし本当に何かの拍子に拡散されてしまったら?

冷静な気持ちと錯乱している自分が交錯してぐちゃぐちゃに混ざり合っている。
陽葵が死んだ時以来の本当の絶望を今、俺は味わっている。