袖の露 ―泣かない陰陽師と、腹ペコ泣き女―

 その夜、私は泣き女衆の家の寝床で、ひさしぶりに、深い眠りに落ちかけていた。
 かぐやが、足もとで丸くなっている。腹はいっぱいで、体はくたくたで、まぶたが重い。
 戸口の開く音がして、時雨が帰ってきた。ずいぶん遅くまでねばっていたらしい。土間で草鞋を脱ぐ音、竈の火を確かめる音、それから、寝床の私をのぞきこむ気配。
 叔母の大きな手が、私の額にかかった髪を、そっと払った。ふだんは数珠ばかり弾いている、かさついた指だった。
「……よく、帰ってきたね」
 聞いたことのないような、やわらかな声だった。
 うとうとしていると、縁側のほうから、また時雨の声が聞こえた。誰に聞かせるでもない、ひとりごとだった。
「――十年前の、あの葬儀も」
 数珠の珠が、ひとつ、ぱちりと鳴った。
「月のない夜だったねえ」
 ……どういう意味だろう。
 考えようとしたけれど、まぶたの重さには勝てなかった。
 私は、芋粥の夢に落ちていった。