帰り道は、夕暮れだった。
芋粥でふくれたお腹を抱えて、私は内裏の門を出た。昴と猛が、両脇を歩いている。時雨は、褒美の残りの話をつけてくると言って、まだ内裏に残っていた。たぶん、芋粥のかわりに何かもらえないか、ねばっているのだ。
足もとには、白い猫が一匹ついてきていた。かぐやだ。梅壺には、もう主はいない。どうやら私のことを、飯をくれる人だと思っているらしい。間違ってはいない。
西の空が、茜色に染まりはじめていた。内裏の甍が夕日を受けて、ほんのりと金色に光っている。大路を吹き抜ける風が、少しだけ夏の匂いを運んでくる。
ぐう、と、腹が鳴った。あれだけ食べたのに。
隣で、昴が、無言で袖に手を入れた。出てきたのは、葉にくるまれた餅だった。
椿餅。
泣いて、泣いて、泣き終えて、腹が鳴って、隣の男の子が、袖から椿餅を出す。
――あれ?
ひと口かじった。葉の青い香りと、ほのかな甘さが、じんわりと沁みていく。
懐かしい味。
泣くな、と言った、あの声。
そして、まったく同じ流れで、いま私の手の中にある椿餅。
記憶の底で、何かが、ぱちりと音を立ててはまった。
棺にすがって泣きじゃくる男の子。涙でぐしゃぐしゃの顔。おずおずと袖に手を入れて、差し出された、ひとつの椿餅。
私は、ゆっくりと、隣の白玉を見上げた。
「……あの泣き虫、あんた?」
昴は、前を向いたまま答えなかった。
「え、待って。ってことは何。私に泣き虫って言われたのを根に持って、泣かなくなったわけ?」
昴の足が、ほんの少しだけ乱れた。
「執念深っ」
昴は、長い、長い息をついた。
「……そういうことにしておけ」
その横顔が、夕日の中で、なぜだか少し赤く見えた。たぶん、夕焼けのせいだ。
後ろで、猛が胸を押さえていた。
「やっぱり腹が減ってるのか、俺は」
さっき、芋粥の鍋の底を、指でぬぐってなめていたくせに。
芋粥でふくれたお腹を抱えて、私は内裏の門を出た。昴と猛が、両脇を歩いている。時雨は、褒美の残りの話をつけてくると言って、まだ内裏に残っていた。たぶん、芋粥のかわりに何かもらえないか、ねばっているのだ。
足もとには、白い猫が一匹ついてきていた。かぐやだ。梅壺には、もう主はいない。どうやら私のことを、飯をくれる人だと思っているらしい。間違ってはいない。
西の空が、茜色に染まりはじめていた。内裏の甍が夕日を受けて、ほんのりと金色に光っている。大路を吹き抜ける風が、少しだけ夏の匂いを運んでくる。
ぐう、と、腹が鳴った。あれだけ食べたのに。
隣で、昴が、無言で袖に手を入れた。出てきたのは、葉にくるまれた餅だった。
椿餅。
泣いて、泣いて、泣き終えて、腹が鳴って、隣の男の子が、袖から椿餅を出す。
――あれ?
ひと口かじった。葉の青い香りと、ほのかな甘さが、じんわりと沁みていく。
懐かしい味。
泣くな、と言った、あの声。
そして、まったく同じ流れで、いま私の手の中にある椿餅。
記憶の底で、何かが、ぱちりと音を立ててはまった。
棺にすがって泣きじゃくる男の子。涙でぐしゃぐしゃの顔。おずおずと袖に手を入れて、差し出された、ひとつの椿餅。
私は、ゆっくりと、隣の白玉を見上げた。
「……あの泣き虫、あんた?」
昴は、前を向いたまま答えなかった。
「え、待って。ってことは何。私に泣き虫って言われたのを根に持って、泣かなくなったわけ?」
昴の足が、ほんの少しだけ乱れた。
「執念深っ」
昴は、長い、長い息をついた。
「……そういうことにしておけ」
その横顔が、夕日の中で、なぜだか少し赤く見えた。たぶん、夕焼けのせいだ。
後ろで、猛が胸を押さえていた。
「やっぱり腹が減ってるのか、俺は」
さっき、芋粥の鍋の底を、指でぬぐってなめていたくせに。
