翌日の夕方、私は一度、泣き女衆の家に戻った。時雨の顔を見ておきたかった。
竈の前に、時雨が立っていた。
鍋から、湯気が立っている。台の上には、炊きたての白い飯と、焼いた鯛と、芋の煮物と、蜜をからめた揚げ菓子までが並んでいた。どれも、泣き女衆の家では、正月にしかお目にかかれないものばかりだ。
「……誰か、死んだの?」
「縁起でもないことを言うんじゃないよ」
時雨は、鍋をかき回しながら言った。
「腹いっぱい食べていきな。腹が減ってると、向こうに持っていかれやすいからね」
私は、黙って箸を取った。
時雨は、私が食べるのを、向かいに座ってじっと見ていた。いつもなら、ぱちり、ぱちりと鳴っている数珠の音が、今日は一度も聞こえない。今月の稼ぎを数えるかわりに、叔母は、私の箸の動きを数えているようだった。
縁側の向こうで、日が暮れていく。月の出る気配のない、薄墨色の空だった。
「月のない夜は、ろくなことがないよ」
ぽつりと言って、時雨は私の顔をじっと見た。数珠を握る手が、いつになく白い。
「いいかい、露。何度でも言うよ。自分の涙だけは、流すんじゃない」
竈の前に、時雨が立っていた。
鍋から、湯気が立っている。台の上には、炊きたての白い飯と、焼いた鯛と、芋の煮物と、蜜をからめた揚げ菓子までが並んでいた。どれも、泣き女衆の家では、正月にしかお目にかかれないものばかりだ。
「……誰か、死んだの?」
「縁起でもないことを言うんじゃないよ」
時雨は、鍋をかき回しながら言った。
「腹いっぱい食べていきな。腹が減ってると、向こうに持っていかれやすいからね」
私は、黙って箸を取った。
時雨は、私が食べるのを、向かいに座ってじっと見ていた。いつもなら、ぱちり、ぱちりと鳴っている数珠の音が、今日は一度も聞こえない。今月の稼ぎを数えるかわりに、叔母は、私の箸の動きを数えているようだった。
縁側の向こうで、日が暮れていく。月の出る気配のない、薄墨色の空だった。
「月のない夜は、ろくなことがないよ」
ぽつりと言って、時雨は私の顔をじっと見た。数珠を握る手が、いつになく白い。
「いいかい、露。何度でも言うよ。自分の涙だけは、流すんじゃない」
