「小間使いの娘、輝夜はいるか!!」
白百合の部屋に複数の兵がやって来たかと思うと、彼らは揃って輝夜を探し始めた。
「は、はい、ここにいますが……」
「帝暗殺の犯人としてお前を捕らえる!」
「え!?」
しゃがみ込んで荷物を整理していた輝夜に向かって兵が襲いかかろうとする。
「控えろ!」
しかし、隣に立っていた緋雨が声高に制したことで、彼らは立ち止まった。
「え!? み、帝!?」
「亡くなられたのではないのですか!?」
「この通り、帝は生きておられますが……どうしてそんな誤解が……?」
輝夜の困惑する向かい側では、帝の姿を見留めた兵達もまた動揺していた。
「誰だ。そのような発言をした無礼者は!!」
「ひっ……! も、申し訳ありません……!」
緋雨の怒声に、兵達は怯える。
旭が亡くなったのだと兵達が思っていたのは、誰かの密告のせいだろう。
最も疑わしいのは白百合だ。茶筒の中身の茶葉は毒なのかもしれない。
その証拠に、兵の後ろから白百合が顔を覗かせ様子を伺っていた。
「え……なんで生きて……?」
帝の無事を確認した白百合は、輝夜が指示に従わなかったことを理解したのだろう。彼女は憎しみのこもった瞳を輝夜に向ける。
緋雨はそんな白百合の視線から輝夜を守るように、白百合の前に立ち塞がった。
「何故だと? お前は私が生きていると不都合なのか?」
白百合の不用意な発言に、兵達は帝の逆鱗に触れまいと、一斉に白百合の前から退いて緋雨に向かって跪いた。
遮る者がいなくなったことで、白百合は真っ向から帝に睨まれることになり、狼狽え始める。
「いっ、いえ! そ、そう、視たのです! 旭様がそこの輝夜に殺される未来を! ですから、どうして生きているのかと申しま……あっ!!」
「それは嘘つき姫の嘘ではなかったか?」
以前、同じ未来を予言した輝夜が旭に罰せられたことを思い出したのだろう。
白百合は慌てて手で自らの口を塞いだが、手遅れだ。
帝が一歩足を踏み出すと、白百合は震えた。
かつての輝夜と同じ道を辿ることになると思った白百合は、誰かに助けを求めようと周囲を見回す。
しかし、誰もが帝に頭を垂れており、彼女は真っ青な顔で帝の様子を伺って弁明するしかなかった。
「そ、その時はそうでした! ですが、真の先読みである私が新たに視たのです!」
「では問おう。死因は?」
「それは……」
白百合が脇目で自分を見ていることに気付いた輝夜は、彼女が助けを求めていることを悟った。
(暗殺犯に仕立てようとした相手に、助けを求めるなんて……)
輝夜には白百合の考えが理解出来ず、内心ため息をつく。
もっとも、自分だけの幸福のために他人を容易に陥れようとするくらいなら、彼女の考えなど分からない方が良いのかもしれない。
輝夜は苦悩しながら定めた決意から目を背けぬようにと、白百合の顔を見つめる。
取り繕い余裕もないのか、追い詰められつつある白百合の表情は他人になすり付けることに必死で歪んでいる。
おぞましさを感じる白百合の形相から眼を背けるように、輝夜は自分の前に立つ緋雨の手を見つめた。
緋雨の手には茶筒が握りしめられており、輝夜の視線に気付いた白百合は彼が手にする茶筒を指差す。
「あれです! あの茶筒に毒茶が入っているんです!」
「可笑しいな。これはお前の荷物の中から見つかった物だが?」
ぎょっとした白百合は、輝夜をまたもや睨み付ける。
「ど、どうしてよ!? それは輝夜が持っていた物でしょう!?」
そこで彼女はようやく、輝夜が白百合の荷物の前にしゃがみ込んでいたことに気付いた。
「いいえ。私の物ではありません」
「お前は、このような贅沢な茶筒を小間使いの娘が持てると思っているのか?」
緋雨が豪華な細工を見せびらかすように茶筒を掲げて白百合をあざ笑うと、頭を上げて茶筒を眺めた兵達がざわめき始めた。
「確かに、あまりにも豪華な茶筒じゃないか」
「し、しかしそれが白百合様の物とは限らないんじゃ……」
「そうよ! 先読み姫の私を羨む誰かから受け取って、私に罪をなすりつけようとしたんだわ!」
「彼女は誰かと接触していたか?」
緋雨が近くの兵に問いかけると、彼は近くの者と目線を合わせてから首を振った。
「わ、我々はこの辺りの警備を担当しておりましたが、確かにその小間使いは白百合様や帝の関係者以外との接触はありませんでした」
「だろうな。この中ではこのような品物を入手出来る伝手があるのは、白百合くらいなものだ」
「確かに白百合様はここのところ外出されていた様子……」
「先ほどもお戻りになられてから、我々を呼び止められました」
兵の言葉に頷くと、帝はその場にいる誰もが驚く発言を口にする。
「そもそもお前は先読み姫などではない。本当の先読みはこの娘、輝夜なのだからな」
「え……?」
「はァッ!?」
驚いたのは、何も知らなかった兵や、真実を暴露された白百合だけではない。
輝夜もまた、呆然とした眼差しを緋雨に向けていた。
「先を視た輝夜は、お前が私の命を狙っていることを伝えてくれた。最近身近に暗殺があったばかりだからな。念には念をと、荷物を改めさせていたのだ」
「輝夜ぁッ!! 先読みは私に言いなさいって、言ったじゃない!!」
帝から本当の先読み姫を暴露された白百合は、憎しみの籠もった表情を輝夜に向ける。
「わ、私は……」
「あなた、私を……星宮を裏切って、あなただけ幸せになろうって魂胆ね!? 嘘つきで無能な輝夜なんか、幸せになる価値なんてないのよ!」
「私だけが幸せになろうとしたんじゃなくて……。守りたい人を守ろうとしただけで……」
「ふん、綺麗事なんか言って、本当は打算で助けたんでしょう!?」
輝夜は震えながらも白百合に立ち向かうが、義妹は話を聞こうともしない。
一方的に輝夜を悪者扱いする白百合に、緋雨は輝夜を庇った。
「本当の無能はお前だ。白百合は星宮の血を継いでいないだろう。決して星宮の先読みになれないというのに、お前は高望みしすぎたな」
「血筋とかそんなこと関係ないわ! だって今まで星宮を盛り立てていたのは、私達よ! 輝夜なんかじゃない! 輝夜じゃ星宮を没落させるだけだわ!」
「星宮を乗っ取り、その血を途絶えさせようとした癖に、良く言う」
緋雨はため息をつくと、兵に向かって手を振った。
「もう良い。暗殺犯の見苦しい言い訳など聞きたくない。早く連れて行け」
「はっ!」
「離しなさい! 私は帝の妃なのよ!」
「その帝を暗殺しようとしたのはお前だろう! ほら、さっさと歩け!」
「輝夜、助けなさいよ!!」
「……私には帝を殺そうとした人を助けられる権力なんてないよ。……それに私はもう、白百合の良いなりになるのはやめるって決めたの……」
真っ直ぐに白百合を見返す輝夜に、これまで見たことのないほどに強い意思を感じた彼女はたじろぐ。
「なっ……!?」
「本当に守りたい人のために……これからは、私は私の意思で先読みを使う……!」
輝夜が自らに立てた誓いを口にしたことで、自分よりも立場が下だと思っていた輝夜が、最後の最後で自分に牙を向いたことが許せなかったのだろう。
白百合は醜悪な顔を輝夜に向けて罵り声を上げた。
「絶対に許さないわ! 地獄に落ちろ! 小汚い小間使いがッ!!」
輝夜の耳に醜い呪詛が入らぬように、緋雨がそっと彼女の耳を塞いで、兵達に顎で指示を出した。
白百合の声は輝夜に届かなくとも、表情は雄弁に彼女の憎しみを物語っている。
暗殺を企てておきながらも自分が悪いと思っていない白百合の態度に、輝夜は複雑な心境で彼女の後ろ姿を見送った。
白百合の部屋に複数の兵がやって来たかと思うと、彼らは揃って輝夜を探し始めた。
「は、はい、ここにいますが……」
「帝暗殺の犯人としてお前を捕らえる!」
「え!?」
しゃがみ込んで荷物を整理していた輝夜に向かって兵が襲いかかろうとする。
「控えろ!」
しかし、隣に立っていた緋雨が声高に制したことで、彼らは立ち止まった。
「え!? み、帝!?」
「亡くなられたのではないのですか!?」
「この通り、帝は生きておられますが……どうしてそんな誤解が……?」
輝夜の困惑する向かい側では、帝の姿を見留めた兵達もまた動揺していた。
「誰だ。そのような発言をした無礼者は!!」
「ひっ……! も、申し訳ありません……!」
緋雨の怒声に、兵達は怯える。
旭が亡くなったのだと兵達が思っていたのは、誰かの密告のせいだろう。
最も疑わしいのは白百合だ。茶筒の中身の茶葉は毒なのかもしれない。
その証拠に、兵の後ろから白百合が顔を覗かせ様子を伺っていた。
「え……なんで生きて……?」
帝の無事を確認した白百合は、輝夜が指示に従わなかったことを理解したのだろう。彼女は憎しみのこもった瞳を輝夜に向ける。
緋雨はそんな白百合の視線から輝夜を守るように、白百合の前に立ち塞がった。
「何故だと? お前は私が生きていると不都合なのか?」
白百合の不用意な発言に、兵達は帝の逆鱗に触れまいと、一斉に白百合の前から退いて緋雨に向かって跪いた。
遮る者がいなくなったことで、白百合は真っ向から帝に睨まれることになり、狼狽え始める。
「いっ、いえ! そ、そう、視たのです! 旭様がそこの輝夜に殺される未来を! ですから、どうして生きているのかと申しま……あっ!!」
「それは嘘つき姫の嘘ではなかったか?」
以前、同じ未来を予言した輝夜が旭に罰せられたことを思い出したのだろう。
白百合は慌てて手で自らの口を塞いだが、手遅れだ。
帝が一歩足を踏み出すと、白百合は震えた。
かつての輝夜と同じ道を辿ることになると思った白百合は、誰かに助けを求めようと周囲を見回す。
しかし、誰もが帝に頭を垂れており、彼女は真っ青な顔で帝の様子を伺って弁明するしかなかった。
「そ、その時はそうでした! ですが、真の先読みである私が新たに視たのです!」
「では問おう。死因は?」
「それは……」
白百合が脇目で自分を見ていることに気付いた輝夜は、彼女が助けを求めていることを悟った。
(暗殺犯に仕立てようとした相手に、助けを求めるなんて……)
輝夜には白百合の考えが理解出来ず、内心ため息をつく。
もっとも、自分だけの幸福のために他人を容易に陥れようとするくらいなら、彼女の考えなど分からない方が良いのかもしれない。
輝夜は苦悩しながら定めた決意から目を背けぬようにと、白百合の顔を見つめる。
取り繕い余裕もないのか、追い詰められつつある白百合の表情は他人になすり付けることに必死で歪んでいる。
おぞましさを感じる白百合の形相から眼を背けるように、輝夜は自分の前に立つ緋雨の手を見つめた。
緋雨の手には茶筒が握りしめられており、輝夜の視線に気付いた白百合は彼が手にする茶筒を指差す。
「あれです! あの茶筒に毒茶が入っているんです!」
「可笑しいな。これはお前の荷物の中から見つかった物だが?」
ぎょっとした白百合は、輝夜をまたもや睨み付ける。
「ど、どうしてよ!? それは輝夜が持っていた物でしょう!?」
そこで彼女はようやく、輝夜が白百合の荷物の前にしゃがみ込んでいたことに気付いた。
「いいえ。私の物ではありません」
「お前は、このような贅沢な茶筒を小間使いの娘が持てると思っているのか?」
緋雨が豪華な細工を見せびらかすように茶筒を掲げて白百合をあざ笑うと、頭を上げて茶筒を眺めた兵達がざわめき始めた。
「確かに、あまりにも豪華な茶筒じゃないか」
「し、しかしそれが白百合様の物とは限らないんじゃ……」
「そうよ! 先読み姫の私を羨む誰かから受け取って、私に罪をなすりつけようとしたんだわ!」
「彼女は誰かと接触していたか?」
緋雨が近くの兵に問いかけると、彼は近くの者と目線を合わせてから首を振った。
「わ、我々はこの辺りの警備を担当しておりましたが、確かにその小間使いは白百合様や帝の関係者以外との接触はありませんでした」
「だろうな。この中ではこのような品物を入手出来る伝手があるのは、白百合くらいなものだ」
「確かに白百合様はここのところ外出されていた様子……」
「先ほどもお戻りになられてから、我々を呼び止められました」
兵の言葉に頷くと、帝はその場にいる誰もが驚く発言を口にする。
「そもそもお前は先読み姫などではない。本当の先読みはこの娘、輝夜なのだからな」
「え……?」
「はァッ!?」
驚いたのは、何も知らなかった兵や、真実を暴露された白百合だけではない。
輝夜もまた、呆然とした眼差しを緋雨に向けていた。
「先を視た輝夜は、お前が私の命を狙っていることを伝えてくれた。最近身近に暗殺があったばかりだからな。念には念をと、荷物を改めさせていたのだ」
「輝夜ぁッ!! 先読みは私に言いなさいって、言ったじゃない!!」
帝から本当の先読み姫を暴露された白百合は、憎しみの籠もった表情を輝夜に向ける。
「わ、私は……」
「あなた、私を……星宮を裏切って、あなただけ幸せになろうって魂胆ね!? 嘘つきで無能な輝夜なんか、幸せになる価値なんてないのよ!」
「私だけが幸せになろうとしたんじゃなくて……。守りたい人を守ろうとしただけで……」
「ふん、綺麗事なんか言って、本当は打算で助けたんでしょう!?」
輝夜は震えながらも白百合に立ち向かうが、義妹は話を聞こうともしない。
一方的に輝夜を悪者扱いする白百合に、緋雨は輝夜を庇った。
「本当の無能はお前だ。白百合は星宮の血を継いでいないだろう。決して星宮の先読みになれないというのに、お前は高望みしすぎたな」
「血筋とかそんなこと関係ないわ! だって今まで星宮を盛り立てていたのは、私達よ! 輝夜なんかじゃない! 輝夜じゃ星宮を没落させるだけだわ!」
「星宮を乗っ取り、その血を途絶えさせようとした癖に、良く言う」
緋雨はため息をつくと、兵に向かって手を振った。
「もう良い。暗殺犯の見苦しい言い訳など聞きたくない。早く連れて行け」
「はっ!」
「離しなさい! 私は帝の妃なのよ!」
「その帝を暗殺しようとしたのはお前だろう! ほら、さっさと歩け!」
「輝夜、助けなさいよ!!」
「……私には帝を殺そうとした人を助けられる権力なんてないよ。……それに私はもう、白百合の良いなりになるのはやめるって決めたの……」
真っ直ぐに白百合を見返す輝夜に、これまで見たことのないほどに強い意思を感じた彼女はたじろぐ。
「なっ……!?」
「本当に守りたい人のために……これからは、私は私の意思で先読みを使う……!」
輝夜が自らに立てた誓いを口にしたことで、自分よりも立場が下だと思っていた輝夜が、最後の最後で自分に牙を向いたことが許せなかったのだろう。
白百合は醜悪な顔を輝夜に向けて罵り声を上げた。
「絶対に許さないわ! 地獄に落ちろ! 小汚い小間使いがッ!!」
輝夜の耳に醜い呪詛が入らぬように、緋雨がそっと彼女の耳を塞いで、兵達に顎で指示を出した。
白百合の声は輝夜に届かなくとも、表情は雄弁に彼女の憎しみを物語っている。
暗殺を企てておきながらも自分が悪いと思っていない白百合の態度に、輝夜は複雑な心境で彼女の後ろ姿を見送った。



