事件発生後。
今まで小間使いとして雑用を押しつけられていた輝夜だが、帝の庇護下に入ることになる。
突然良家の姫同然の好待遇を受けて戸惑った輝夜を説得したのは、「先読み姫を保護したい」と言う発言だった。
帝にそう言われてしまえば輝夜は断ることも出来ない。
彼女は緋雨のそばに居られることに嬉しさを感じつつも、先読み姫としてではないと彼のそばに居られないことに気付き、寂しさを感じていた。
そうして二週間経過した頃、輝夜の耳に白百合の訃報が届く。
牢屋から脱獄した白百合が逃亡中に野盗に殺されたらしいと聞かされ、輝夜は複雑な思いを抱える。
白百合との思い出は、どれも辛くて悲しく、やりきれない気持ちを思い起こす出来事ばかりだったが、それでも輝夜は彼女が死んで良かったとまでは思わなかった。
「先読みの力なんて存在しなければ、白百合はあんな風にならなかったのかもしれませんね……」
先読み姫を偽っただけでなく、帝の暗殺に協力した可能性があるとして、輝夜の義母と実父も罪を問われているらしい。
星宮家はどうなってしまうのだろうかと考えながら寂しそうに呟く輝夜に、白百合の末路を告げにやってきた緋雨が慰める。
「先読みの力を持っていても、輝夜は傲慢に振る舞わなかっただろう。元々の気質の問題だ」
「そう……ですか?」
苦笑しながら答える輝夜に、緋雨はどこか不機嫌そうに眉をひそめている。
もしかしたら無礼な発言をしてしまっただろうかと思った輝夜は、俯いた。
「あの、旭様……?」
「私に敬語を使うのはやめないか? せめて、二人の時くらいは……」
「えっと、私は白百合の小間使いなので……。恐れ多いです……」
「その白百合はもう居ないんだけどな」
「あ……。そうでした……」
「本当の先読み姫は輝夜だ」
「それは……はい……」
輝夜を虐げていた存在がいなくなったことで、彼女はようやく辛い柵から逃げ出せた。
しかし心は完全には解き放たれていないようで、彼女は時折自分が先読み姫に相応しいのかと不安に思うことがある。
「なんだか、夢みたいで……。実感がありません」
「じゃあ、夢から覚ましてあげようか?」
「え?」
突然耳元から聞こえてきた緋雨の声に、輝夜は彼の方へと振り返る。
思ったよりも間近に緋雨の顔があることに輝夜が驚きと同時に恥ずかしさを覚えているうちに、緋雨は輝夜の唇を優しく啄んだ。
「好きだよ、輝夜」
輝夜から唇を離した緋雨は、寂しそうに微笑む。よく見ると、緋雨の瞳の色が彼本来の鮮やかな緋色に戻っていた。
懐かしく愛おしい彩りを前に、輝夜は羞恥も忘れて思わず彼の瞳に魅入る。
「……ごめん、嫌だった?」
緋雨の寂しそうな声に我に返った輝夜は、俯きながらもしどろもどろになって返す。
「えと、その……あの……。びっくりしただけで……。でも、雑用ばかりしていた小汚い私なんか……好きになって貰う理由なんか……」
緋雨の態度は以前の様子そのままで、輝夜は自然と口調を戻していた。
「あるよ、好きになる理由」
「え、どんな?」
「知りたい?」
「う、うん。聞いても良い?」
頷いた緋雨は、自信なさげに落ち込む輝夜の手を握りしめて微笑む。
輝夜を慈しむように優しく触れる緋雨の手は、昔握手した時よりも大人の手をしていた。
「輝夜は、誰にもなれなかった僕に、生きる理由をくれた一番大切な人だから」
大人びた彼の微笑みに心を奪われた輝夜は、自然と自分の心の内を零す。
「私も……! ひさ……あなたが死んだと聞いた時は、本当に……」
「うん、ごめんね……」
次に輝夜が緋雨の瞳を見つめた時、彼の色は碧色に戻っていた。
近くに望月がいない今、瞳の色を容易く変える術はない。
「輝夜、僕の……」
輝夜が見た彼の本当の色は、彼女の内の願望が見せた光景だったのかもしれない。
「私の妃になってくれ」
輝夜は旭の皮を被った本当の緋雨を掬い出すように、彼の頬に触れて微笑む。
「はい! 私をお嫁さんにしてください……!」
「ああ。私の嘘を暴いて良い妃は、生涯において輝夜だけだ」
緋雨は輝夜を優しく、けれど深く抱きしめて呟いた。
~了~
今まで小間使いとして雑用を押しつけられていた輝夜だが、帝の庇護下に入ることになる。
突然良家の姫同然の好待遇を受けて戸惑った輝夜を説得したのは、「先読み姫を保護したい」と言う発言だった。
帝にそう言われてしまえば輝夜は断ることも出来ない。
彼女は緋雨のそばに居られることに嬉しさを感じつつも、先読み姫としてではないと彼のそばに居られないことに気付き、寂しさを感じていた。
そうして二週間経過した頃、輝夜の耳に白百合の訃報が届く。
牢屋から脱獄した白百合が逃亡中に野盗に殺されたらしいと聞かされ、輝夜は複雑な思いを抱える。
白百合との思い出は、どれも辛くて悲しく、やりきれない気持ちを思い起こす出来事ばかりだったが、それでも輝夜は彼女が死んで良かったとまでは思わなかった。
「先読みの力なんて存在しなければ、白百合はあんな風にならなかったのかもしれませんね……」
先読み姫を偽っただけでなく、帝の暗殺に協力した可能性があるとして、輝夜の義母と実父も罪を問われているらしい。
星宮家はどうなってしまうのだろうかと考えながら寂しそうに呟く輝夜に、白百合の末路を告げにやってきた緋雨が慰める。
「先読みの力を持っていても、輝夜は傲慢に振る舞わなかっただろう。元々の気質の問題だ」
「そう……ですか?」
苦笑しながら答える輝夜に、緋雨はどこか不機嫌そうに眉をひそめている。
もしかしたら無礼な発言をしてしまっただろうかと思った輝夜は、俯いた。
「あの、旭様……?」
「私に敬語を使うのはやめないか? せめて、二人の時くらいは……」
「えっと、私は白百合の小間使いなので……。恐れ多いです……」
「その白百合はもう居ないんだけどな」
「あ……。そうでした……」
「本当の先読み姫は輝夜だ」
「それは……はい……」
輝夜を虐げていた存在がいなくなったことで、彼女はようやく辛い柵から逃げ出せた。
しかし心は完全には解き放たれていないようで、彼女は時折自分が先読み姫に相応しいのかと不安に思うことがある。
「なんだか、夢みたいで……。実感がありません」
「じゃあ、夢から覚ましてあげようか?」
「え?」
突然耳元から聞こえてきた緋雨の声に、輝夜は彼の方へと振り返る。
思ったよりも間近に緋雨の顔があることに輝夜が驚きと同時に恥ずかしさを覚えているうちに、緋雨は輝夜の唇を優しく啄んだ。
「好きだよ、輝夜」
輝夜から唇を離した緋雨は、寂しそうに微笑む。よく見ると、緋雨の瞳の色が彼本来の鮮やかな緋色に戻っていた。
懐かしく愛おしい彩りを前に、輝夜は羞恥も忘れて思わず彼の瞳に魅入る。
「……ごめん、嫌だった?」
緋雨の寂しそうな声に我に返った輝夜は、俯きながらもしどろもどろになって返す。
「えと、その……あの……。びっくりしただけで……。でも、雑用ばかりしていた小汚い私なんか……好きになって貰う理由なんか……」
緋雨の態度は以前の様子そのままで、輝夜は自然と口調を戻していた。
「あるよ、好きになる理由」
「え、どんな?」
「知りたい?」
「う、うん。聞いても良い?」
頷いた緋雨は、自信なさげに落ち込む輝夜の手を握りしめて微笑む。
輝夜を慈しむように優しく触れる緋雨の手は、昔握手した時よりも大人の手をしていた。
「輝夜は、誰にもなれなかった僕に、生きる理由をくれた一番大切な人だから」
大人びた彼の微笑みに心を奪われた輝夜は、自然と自分の心の内を零す。
「私も……! ひさ……あなたが死んだと聞いた時は、本当に……」
「うん、ごめんね……」
次に輝夜が緋雨の瞳を見つめた時、彼の色は碧色に戻っていた。
近くに望月がいない今、瞳の色を容易く変える術はない。
「輝夜、僕の……」
輝夜が見た彼の本当の色は、彼女の内の願望が見せた光景だったのかもしれない。
「私の妃になってくれ」
輝夜は旭の皮を被った本当の緋雨を掬い出すように、彼の頬に触れて微笑む。
「はい! 私をお嫁さんにしてください……!」
「ああ。私の嘘を暴いて良い妃は、生涯において輝夜だけだ」
緋雨は輝夜を優しく、けれど深く抱きしめて呟いた。
~了~



