【短編】義妹にはめられた嘘つき姫は帝の陰を優しく照らす

 白百合による帝の暗殺未遂事件が起きてから数日後。
 牢に捕らえられた白百合の元に、帝がやってきた。

「お前に面会したい言う者を連れてきてやった」
「やっとあのお方が助けにいらっしゃったのね!」

 嬉々としていた白百合だが、帝が引き連れて来た複数の人物の姿を見て表情を引きつらせることになった。

「本当の先読みは輝夜だったんだな!?」
「ひっ!?」

 彼らは、白百合が先読み姫を騙って恩を着せた被害者でもあり、白百合のためにと輝夜を傷つけた加害者でもあった。
 それは一人や二人ではない。片手で数え切れないほどの人物が、憎しみの籠もった眼差しを白百合に向けている。

「清純ぶって、俺達を騙しやがって!」
「私達に命の恩人を甚振(いたぶ)らせて! この悪女め!」
「お前こそが、嘘つきだったんじゃないか!」

 白百合に騙された者達が、彼女の牢の前へと一斉に詰めかける。
 彼らはまだ木格子の向こう側にいるが、帝の命令ですぐにでも鍵が開ける状態にしてある。
 さすがの白百合も彼らの形相に一瞬怯んだものの、格子で守られていることに余裕を感じ、怒鳴り声を上げた。

「来ないで! 私を誰だと思っているの!? 帝の妃よ!」
「お前は妃ではない。正式な手順を踏んでいないからな」
「どうしてよ! まさか、輝夜のせいで暗殺犯にされたから!?」
「暗殺を企てたのはお前自身の意思だろう。輝夜は関係ない」
「そんなことないわ! 輝夜さえいなければ、先読みさえしなければ……私は妃になれたんだもの!!」
「ここまで話の通じない女だったとはな……。私が欲しいのは後にも先にも輝夜だけ。お前のような心根の卑しいな女、元から必要としていない。そう言えば分かるか?」
「な、なんですって?」
「先読み姫が欲しいと言えば、偽物のお前は必ず輝夜を連れてくると思ったからだ」
「なんで旭様が、輝夜なんかを欲しがるのよ! それに、輝夜が先読み出来ることを知っているのも……可笑しいわ!」
「お前が認めなくても、これからは真の先読み姫として名を馳せる彼女を、誰もが欲しがるだろう。最も、誰にも渡す気はないがな」

 不敵に笑う旭に、白百合の背筋がぞっとする。

「ま、まさか、あなた! 旭様の小間使いの……!」
「さて。私の意見を聞かぬお前との会話はここまでだ。お前と積もる話がある者はいくらでもいるからな。……鍵を開けろ」
「ははっ!」

 帝の命を受けた牢番が牢の扉を開け放つと、殺気立った被害者達が白百合の前に立ち塞がった。
 中には凶器となり得る刃物や鈍器を持っている者がいる。
 対話が出来そうにないのは明らかだが、白百合は生き延びるために後ずさりながら彼らを説得しようとする。

「ま、待って! あなたたち! あの男を信じちゃいけないわ! あの男は本当は帝じゃないの!」
「嘘をつけ!」
「そうだ! 先読みができるなんて嘘つきやがった嘘つきの言うことなんか、信じられるか!」

 被害者の一人が白百合に鉈を振りかざす。
 寸でのところで避けるものの、彼女はあっと言う間に囲まれてしまう。
 元より牢の中で、逃げることは叶わない。

「ヒッ! や、やめなさい! 私は帝の妃なのよ!」
「帝からお前は妃ではないというお墨付きがあったじゃないか」
「本当の命の恩人を俺達に傷つけさせた報いを受けさせてやるッ!」

 何人もの凶器が、白百合に迫り来る。

「こんなッ、私がこんな目に遭うのは、全部ぜんぶッ、輝夜のせいよォッ!! ギャアアアア!!」

 襲われた彼女は怯えるどころか、最後まで輝夜のせいにし続けている。
 白百合の絶叫を背後に、緋雨はそばに控えていた望月を連れて牢を出た。

「なんと悪鬼の如く醜悪な呪詛でしょう、恐ろしい。後で祓わねばなりませんね」
「結局、輝夜に対して少しも悪びれなかったな」
「……良いんですか? あなた様もあの悪女に直接報復したいでしょうに」
「他人を使って輝夜を傷つけた毒花に相応しい報いを与えてやったんだ。不満はあるが、これで構わない」
「被害者……いえ、加害者ですか。彼らは輝夜姫への謝罪も望んでいますが、もちろん……」
「何を仕出かすか解らぬ連中を、輝夜に会わせる訳ないだろう。恩人に見限られたと思いながら罪悪感を抱えて暮らせば良い」
「まあ随分な冷徹さを演じられることで」
「……このことは、輝夜には内密にしてくれ」
「承知しておりますよ、我が主」

 こうして、清純な先読み姫と名を馳せた白百合は、嘘つきで醜穢な毒花姫として蔑まれて命を散らした。
 それは、白百合によってはめられたままの輝夜が辿った未来だったかもしれない。
 長らく奪われていた名誉を取り戻せた輝夜は、旭に成り代わった緋雨と並び立つに相応しい立場を手に入れた。
 緋雨はすぐにでも輝夜を妃として受け入れるつもりでいる。
 彼女が妃となることに横槍を入れる者はいるだろうが、表立って反対されることはないだろう。

「私はもう輝夜が気にかけてくれた頃のような、か弱くて名もない人間じゃない。こんな私を知ったら、輝夜は幻滅するだろうか……」

 鬱々とした牢から退室した緋雨は、晴天を見上げて独り言ちた。