【短編】義妹にはめられた嘘つき姫は帝の陰を優しく照らす

 雅な都の中央に立てられた皇居の一角で、彼(・)は自身と同じ豪奢な衣装を纏った青年が事切れている様子を呆然と眺めることしか出来なかった。

「旭(あさひ)様! しっかりなさってください!」
「っ! あ、ああ」

 年の頃は十八ほどだろう。衝撃のあまりに意識が飛びかけていた様子の旭と呼ばれた青年は、我に返って目の前にある死体の様子を観察する。
 苦しんで死んだのだろう。彼は口からは泡を吐き、恐ろしい形相で碧い瞳を見開いたまま息を引き取っている。
 側には転がっている湯飲みは、彼の手からこぼれ落ちたようだった。
 旭は湯飲みの匂いを嗅ぎ、残った茶を左手の人差し指に浸す。そして少量を口に含んだかと思うと、すぐに吐き出した。

「うっ……!」
「旭様!?」

 懐に隠し持っていた丸薬を飲み込んだ旭は、緋(・)色(・)の瞳が淀む顔をしかめて言った。

「……やはり毒だ」
「何をなさっているのですか!? このお方が亡くなられた程の毒なのですよ!?」
「少量だし、私は毒に慣れているから問題ない。彼は、慣らしていなかったからな……」
「慣れてる慣れてないの問題じゃないですよ! 今『うっ』って仰いましたよね!?」
「思ったより強かったんだ。それに念のため解毒剤も飲んだじゃないか」
「はあ!? 一度にお二人も亡くなられたら、俺の心臓が持ちそうにありません! 軽率な行動を反省なさってください!」
「す、すまない……」

 部屋の中にいるのは三人。
 旭、呪術師の青年、そして……毒によって骸と化した青年だけだ。

「まったく。一体、どこの手の者の仕業でしょう?」
「検討はつくが、証拠がない。相手の手の内を暴くまでは、また仕掛けてくるだろうな」
「旭様が生きていらっしゃる限り、ですか?」
「ああ」

 旭は眼下に横たわる青年を見下ろす。
 碧い瞳は未だ見開かれており、どこか旭を睨み付けているようでもあった。
 旭はしゃがみ込んで青年の瞳を手でそっと閉じると、死者を弔うために自らも目を閉じて手を合わせた。
 毒殺された人間を前に、思うことは多々あったのだろう。
 しばらく黙祷を続けていた旭は、ため息をつくと諦念したように呟いた。

「望月、力を借りたい」
「すべてを投げ捨てれば、あなた様はあなた様の思うがまま幸福であれたでしょうに。……今ならまだ、逃げられますよ?」
「それも良いかもしれないな……」

 彼は空を仰いで遠くを見つめる。まるでここにはない何かを切望する眼差しに、望月と呼ばれた呪術師は同情の籠もった視線を送る。

「……しかし、逃げたいだなんて泣き言を、言っていられなくなってしまったんだ」

 振り返って望月を真っ直ぐに見据える青年に、望月は静かに頷いた。

「あなたがそう決意したのであれば……」
「私は、犯人を見つけなければならない」
「承りました。先帝の血を継ぐ我が主のお望みのままに」

 望月と呼ばれた呪術師の青年が、旭の肩に優しく触れる。
 旭は立ち上がり、ゆっくりと目を開いた。

「そのためには……星宮家の先読み姫の力が必要だ」
「星宮家の……白百合姫ですか? 確かに先読みが当たると評判ですが、姫の予言で犯人を捕まえられるでしょうか」
「いいや。私に必要なのは……」

 旭は澄んだ碧(・)い(・)瞳を瞬かせて、悲しそうに微笑む。

「輝夜……嘘つき姫の方だ」