窓を開けると、スッキリとした風が肌をくすぐった。
明るくなった外では、ランニング中の人や、お散歩中のワンちゃんが気持ち良さそうに過ごしている。
その様子を眺める私はというと、憂鬱な気持ちが体の九割を占めていて、気持ちがいいとは真逆のところにいる。
理由は、部屋に逃げてから、まだ一度もお母さんに会っていないから。
気まずいな......
今までの努力なんて水の泡で、昨日は泣くわ、怒鳴るわ、最悪だった。
目が覚めてすぐにSNSを開いたけれど、リスナーはみんなグッズを買った報告で溢れ返っていた。
「グッズ欲しいけど......説得のしようがない」
ブチ切れたあとだし。
理性を保とうとしたけどダメだった。
私にとっては人生をかけたい存在だけど、お母さんにはそれが伝わらない。
解決策が湧かない悩みが頭の中にぐるぐると渦巻き、唸っているとお腹が鳴った。
あー、リビングに行かなきゃいけない。
逃げ続けられるなんて思ってないけど、出来るなら今はお母さんに会いたくない。
重い足取りでベッドから抜け出し、リビングに続く廊下を進む。
「あら、おはよう」
私よりも先に声を上げたお母さんが、顔を逸らしながらキッチンへと消えていった。
私もキッチンに行きたいんだけど......
肩を少し狭くしながらキッチンに踏み入れ、冷蔵庫を開ける。
「おはよう」
「朝ごはん食べるの?」
「うん」
「サンドイッチ作ったんだけど、食べる?」
「あ、ありがとう」
私の大好物である卵とハムのサンドイッチが、ラップに包まれて置かれていた。
ダイニングテーブルに座りサンドイッチを口に入れると、お母さんが前の席に腰を下ろした。
マグカップを握りしめながら、何か言いたげに口をモゴモゴさせている。
推し活に対する事だろうか。
何を言われてもいいように、心の中で決意を固めた。
怒らない。傷つかない。
お母さんが話し始めるまで大人しくサンドイッチを食した。
「昨日のことだけど......」
「っ、うん」
「お母さんが間違ってたわ。無駄使いなんて言って傷つけたわね。ごめんね」
思っていた言葉じゃなくて、思わずお母さんを見つめる。
きっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているだろう。
呆気にとられ言葉が出なかったが、何か言わないとと焦り、気がついた時にはサンドイッチをテーブルに置いていた。
「う、ううん。私も大きな声出してごめんなさい」
「いいのよ......だけど、本当にそんな大金を費やして後悔はないのね?」
「ない。私は遊星に凄く楽しませてもらってるから、喜んで欲しい」
「そう......」
お母さんはスマホを私に手渡した。
受け取ってから顔を見ると、穏やかに眉を垂れさせて私を見つめている。
「買うものカートに入れたら持ってきて」
そう言いソファに移動したお母さんは、朝のテレビ番組を視聴し始めた。
え、グッズ買ってもいいってこと......?
ぽっかり空いた穴が埋まっていく感覚に幸福感が高まっているはずなのに、鼻先がじんわり熱くなっていく。
眉間にどんどんシワがよっていく感覚を掴み取ると、目から涙が溢れ出した。
昨日の苦しかった涙じゃない。
嬉しい。
肯定されたみたいで、好きでいていいって言われたみたいで、抱えきれない嬉しさが溢れ出てる。
贅沢な涙だ。
鼻声になることも恐れず、お母さんの後ろ姿を見つける。
「架純先輩とグッズの交換しようねって約束してて、また呼んでもいい......?」
お母さんは振り向こうとはせず、少しだけ俯いたあと、軽く息を吐いた。
「お菓子用意しないとね」
私の目からはもっともっと涙が溢れた。
※
「「せーのっ!!!!」」
「あ!!!遊星!!!!」
「あ、翔馬シークレットです!!!!」
「へ、え?!?!?!?」
ハロウィングッズが届いた一月下旬。
そう。年を跨いだ。
何がハロウィングッズだと言いたくなったリスナーは何万人といただろうけど、みんな大人しくグッズが届くことを心待ちにしていた。
その間に届いたグッズは三弾分くらいあり、改めて受注生産は発送に時間がかかるなぁと思ったりもする。
届くまでの数ヶ月の間も、架純先輩とランダムグッズの交換はしていて、二人して潤ってWinWinの関係を築いている。
今は、念願のハロウィングッズを開封中だ。
トレカが全二十種類ということもあり、お互い百枚買った。
「架純先輩どうぞ〜」
「ありがたやーありがたやー。よっしゃ!待ってろよ!!遊星のシークレット〜!」
気合いを入れた架純先輩が、目を閉じて遊星のシークレットが入っているであろう未開封のトレカを選んでいる。
その姿を真似て、私も自分の未開封トレカを選ぶ。
――コンコン
「美優〜、お菓子持ってきたわよ」
「ありがとう!え、ケーキ!?」
「そう〜お母さんが食べたかったのよ」
優しく微笑みながらリビングへ戻っていくお母さんの背を見届け、部屋に入る。
トレカ開封が再び始まったけれど、垂れ流しされた遊星と翔馬のコラボ雑談配信が終わりに差し掛かっていた。
「そろそろ終わりますかっ!」
「そだな〜。あ、遊星さ、あの告知しなくていいの?」
「お〜???しちゃいます〜???」
私と架純先輩が手を止めて配信に釘付けになった。
「実は〜〜〜!!!!!俺たちのガチャガチャが全国に登場しまーす!!!!」
コメント欄がざわつくとの同じで、私たちの叫び声も響き渡った。
架純先輩は、もうシフトの確認をしている。
私もファイルを取り出してまたコツコツ貯めた貯金額を確認する。
【六万円】
思う存分ガチャガチャ出来るな。
「美優ちゃん一緒にガチャしに行こうね!!!」
「もちろんです!!!!」
やっぱり――彼に出会ってから、過去最大級に人生が楽しい!!!
完
明るくなった外では、ランニング中の人や、お散歩中のワンちゃんが気持ち良さそうに過ごしている。
その様子を眺める私はというと、憂鬱な気持ちが体の九割を占めていて、気持ちがいいとは真逆のところにいる。
理由は、部屋に逃げてから、まだ一度もお母さんに会っていないから。
気まずいな......
今までの努力なんて水の泡で、昨日は泣くわ、怒鳴るわ、最悪だった。
目が覚めてすぐにSNSを開いたけれど、リスナーはみんなグッズを買った報告で溢れ返っていた。
「グッズ欲しいけど......説得のしようがない」
ブチ切れたあとだし。
理性を保とうとしたけどダメだった。
私にとっては人生をかけたい存在だけど、お母さんにはそれが伝わらない。
解決策が湧かない悩みが頭の中にぐるぐると渦巻き、唸っているとお腹が鳴った。
あー、リビングに行かなきゃいけない。
逃げ続けられるなんて思ってないけど、出来るなら今はお母さんに会いたくない。
重い足取りでベッドから抜け出し、リビングに続く廊下を進む。
「あら、おはよう」
私よりも先に声を上げたお母さんが、顔を逸らしながらキッチンへと消えていった。
私もキッチンに行きたいんだけど......
肩を少し狭くしながらキッチンに踏み入れ、冷蔵庫を開ける。
「おはよう」
「朝ごはん食べるの?」
「うん」
「サンドイッチ作ったんだけど、食べる?」
「あ、ありがとう」
私の大好物である卵とハムのサンドイッチが、ラップに包まれて置かれていた。
ダイニングテーブルに座りサンドイッチを口に入れると、お母さんが前の席に腰を下ろした。
マグカップを握りしめながら、何か言いたげに口をモゴモゴさせている。
推し活に対する事だろうか。
何を言われてもいいように、心の中で決意を固めた。
怒らない。傷つかない。
お母さんが話し始めるまで大人しくサンドイッチを食した。
「昨日のことだけど......」
「っ、うん」
「お母さんが間違ってたわ。無駄使いなんて言って傷つけたわね。ごめんね」
思っていた言葉じゃなくて、思わずお母さんを見つめる。
きっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているだろう。
呆気にとられ言葉が出なかったが、何か言わないとと焦り、気がついた時にはサンドイッチをテーブルに置いていた。
「う、ううん。私も大きな声出してごめんなさい」
「いいのよ......だけど、本当にそんな大金を費やして後悔はないのね?」
「ない。私は遊星に凄く楽しませてもらってるから、喜んで欲しい」
「そう......」
お母さんはスマホを私に手渡した。
受け取ってから顔を見ると、穏やかに眉を垂れさせて私を見つめている。
「買うものカートに入れたら持ってきて」
そう言いソファに移動したお母さんは、朝のテレビ番組を視聴し始めた。
え、グッズ買ってもいいってこと......?
ぽっかり空いた穴が埋まっていく感覚に幸福感が高まっているはずなのに、鼻先がじんわり熱くなっていく。
眉間にどんどんシワがよっていく感覚を掴み取ると、目から涙が溢れ出した。
昨日の苦しかった涙じゃない。
嬉しい。
肯定されたみたいで、好きでいていいって言われたみたいで、抱えきれない嬉しさが溢れ出てる。
贅沢な涙だ。
鼻声になることも恐れず、お母さんの後ろ姿を見つける。
「架純先輩とグッズの交換しようねって約束してて、また呼んでもいい......?」
お母さんは振り向こうとはせず、少しだけ俯いたあと、軽く息を吐いた。
「お菓子用意しないとね」
私の目からはもっともっと涙が溢れた。
※
「「せーのっ!!!!」」
「あ!!!遊星!!!!」
「あ、翔馬シークレットです!!!!」
「へ、え?!?!?!?」
ハロウィングッズが届いた一月下旬。
そう。年を跨いだ。
何がハロウィングッズだと言いたくなったリスナーは何万人といただろうけど、みんな大人しくグッズが届くことを心待ちにしていた。
その間に届いたグッズは三弾分くらいあり、改めて受注生産は発送に時間がかかるなぁと思ったりもする。
届くまでの数ヶ月の間も、架純先輩とランダムグッズの交換はしていて、二人して潤ってWinWinの関係を築いている。
今は、念願のハロウィングッズを開封中だ。
トレカが全二十種類ということもあり、お互い百枚買った。
「架純先輩どうぞ〜」
「ありがたやーありがたやー。よっしゃ!待ってろよ!!遊星のシークレット〜!」
気合いを入れた架純先輩が、目を閉じて遊星のシークレットが入っているであろう未開封のトレカを選んでいる。
その姿を真似て、私も自分の未開封トレカを選ぶ。
――コンコン
「美優〜、お菓子持ってきたわよ」
「ありがとう!え、ケーキ!?」
「そう〜お母さんが食べたかったのよ」
優しく微笑みながらリビングへ戻っていくお母さんの背を見届け、部屋に入る。
トレカ開封が再び始まったけれど、垂れ流しされた遊星と翔馬のコラボ雑談配信が終わりに差し掛かっていた。
「そろそろ終わりますかっ!」
「そだな〜。あ、遊星さ、あの告知しなくていいの?」
「お〜???しちゃいます〜???」
私と架純先輩が手を止めて配信に釘付けになった。
「実は〜〜〜!!!!!俺たちのガチャガチャが全国に登場しまーす!!!!」
コメント欄がざわつくとの同じで、私たちの叫び声も響き渡った。
架純先輩は、もうシフトの確認をしている。
私もファイルを取り出してまたコツコツ貯めた貯金額を確認する。
【六万円】
思う存分ガチャガチャ出来るな。
「美優ちゃん一緒にガチャしに行こうね!!!」
「もちろんです!!!!」
やっぱり――彼に出会ってから、過去最大級に人生が楽しい!!!
完


