早いことに、収益化配信から二週間が経った。
「ありがとうございました!」
満足気にお腹を擦りながらお店から出ていくお客様に笑顔で会釈する。
台拭きを持ってテーブルを片付けに行くと、珍しくおさげヘアーにした架純先輩が背後から私の肩を叩いた。
「お疲れ!美優ちゃんが最近沢山シフト入ってくれて助かるって店長が泣いてたよ!」
「お疲れ様です!!え?泣くほどですか?沢山って言っても二日増やしただけなんですけどね」
「二日でも大きいんじゃない?うちの店長人足りてないのに、新しい子増やすの嫌がるから」
「確かに......」
二人して手を動かしながら、怒られない程度に小さく笑った。
初めて投げ銭をしたあの日から、私はシフトを出来る限り入れて頑張っている。
今まで平日に三回入っていただけだったけど、少しだけお給料が高くなる土日にもシフトを入れた。
お給料が上がるに伴ってお客様の出入りは多い。
だからなのか、学生があまり入らないらしく、店長からは即シフトを入れて貰えた。
(今週は雑談枠が多めだし、投げ銭読んでもらえるかな〜)
先週も最高額ハピチャは一回だけだったのに、八回投げて、五回もその場で拾って貰えた。
認知とやらも、そのうちされるんじゃないかと傲慢な心が私を襲うけれど、その度に「力になれてるのが嬉しいんだろ!」と自分に平手打ちをしている。
だけど、アイコンを見てピク付かれるくらいには、印象に残ることを夢見てる私を完全に見捨てることは未だ出来ていない。
「すみません〜」
「あ、はい!」
架純先輩に軽く手を振り、目が合っているお客様の所へ小走りで向かう。
※
「だから!翔馬があそこで見捨てたのが悪くないか!?あははは!エンタメ的には満点だったけどな!」
豪快な笑い声がスマホを振動させて、課題をする手が止まった。
つい先程まで遊星の同期である・咲原翔馬とゲーム配信をしていた遊星だったが、終わって早々SNSに【みんなと話し足りないから急遽雑談っ!!!!】と呟かれた。
ゲーム配信が終わってようやく課題が出来ると思っていたのに。
配信を付けてしまうと、ついつい聴き逃したくなくて思考が遊星に飛んでいってしまう。
水を飲んでいるのかアバターが傾いた姿勢で止まってしまった。
気になってスマホを手に取ったことをきっかけに、軽めのハピチャを投げる。
【課題のお供に雑談枠聞いてます!!感謝ッ!!!!】
「んぉ!おもちもちさんありがとう!!!課題頑張れよぉう!!!......俺なんの話ししようとしてたっけ??」
私のコメントを拾ってから、配信へ戻るスピードが当たり前だけど一瞬だ。
なのに、私は胸を押えてノートに項垂れている。
この差さえも、好きで仕方がない。
何がいいのかは分からないが、なんかいい。
聞き逃したくないとか思っていたのに、今話してる雑談内容全く聞き取れないし。
「課題頑張れって言われたしやるかー!!!!」
無駄に大声を出して、シャーペンを握りしめた。
※
担任の気だるげな語尾を最後に、複数個の椅子がキー!と音をあげる。
校門前まで誰が一番に辿り着けるかを毎日争っている男子五人組が、一目散に帰宅した騒音だった。
(毎日うるさい......)
そう思いながら、思いの外早くグラウンドに出てくる五人の姿を何となく待ち望んでいる私は、無意識レベルで窓の外に目を向ける。
他のクラスは少し前にHRが終わっていたらしく、既に何人かは校門前で立ち話していたり、楽しそうに笑いながら門をくぐっている。
しばらく眺めていると、面白いくらいに全力疾走した先程の五人が見えて、思わず笑いを堪えた。
いつもは圧倒的勝者がいるのに、今日はほぼ同時だったらしく、全員で指を刺しながら威嚇しあっている。
無事に見届けたので、帰るとしよう。
ワイヤレスイヤホンを右耳だけに入れて、バッグを肩にかける。
今日はバイトの日だから、家には寄らずそのままバ先へ向かう予定だ。
(家に帰ってもお母さんうるさいし。配信見るために課題でもして時間潰そ)
高校二年生になり、周りもチラホラ塾の話だったり進路の話だったりをし始めている。
シフトを増やした私とは裏腹に、受験勉強に力を入れている同級生がバイトを辞めたなんてことも又聞きした。
そんな話をお母さんが聞いていないはずもなく、バイトを増やした私に毎晩と言っていいほど、小言を言ってくるようになった。
テストでもある程度は点取ってるし、進路だって三年生の段階で入れるところに決めればいい。
そう私は思っているんだけど。
スマホを操作し、右耳から遊星の歌声が私を包んだ。
どんなに現実が色褪せてたって、遊星が画面の先にいる限り、私は生きていける。
バレない程度にリズムに乗りながら教室を後にしようとしたその時――
「美優!!今日カラオケ行かない??」
「あ、みゆみゆじゃーん!!珍しい!!」
「他校のイ・ケ・メ・ン☆も来るよ」
瞬時に左耳にもイヤホンを付けてれば良かったと後悔した。
せっかく遊星の歌声に浸ってたのに。
だけど愛想悪くすることだけは、面倒事に繋がるから右耳からイヤホンを抜き取り、目尻を引き締めた。
真ん中に位置する茶髪の巻き髪で制服をオシャレに着崩した・柑奈ちゃんが、カーディガンのポケットに手を入れながら、期待の眼差しを私に向けている。
せいぜい人数合わせに私を呼びたいんだろう。
「ごめんね!誘ってくれたところ申し訳ないんだけど、今日バイトあって」
「え〜!!!久しぶりに美優のこと掴まえられたと思ったのに!!!バイトなんて一回くらい体調悪いって言っちゃえば?」
一回休んだら、三回分、いや五回分のハピチャが飛ぶ。
外されたイヤホンには、もう既に遊星の歌声は流れていないだろうと思いながらも、口角を必死に固定した。
「店長が全然人雇わないから、休むと店回らないんだよね〜!ほんと行きたかった!!!」
「ざんねーん、じゃあ今度絶対行こうね!!」
「うん!また誘って!」
軽く手を振ると、三人も手を振りながら階段を降りていった。
出そうになったため息を飲み込む。
陽キャに絡まれてる時間ほど、息が詰まるものはない。
住む世界が違いすぎる。
再びイヤホンを付けて、曲を流した。
※
「ただいま〜」
「あら、おかえり。夜ご飯は食べたのよね?」
「うん。賄い食べてきた」
「そう。お風呂は?もう入る?」
「ん〜、少しあとに入ろうかな。お母さん先にいいよ」
何か言いたげな空気をひしひしと感じながらも、触れると長いし、部屋に向かおうと歩みを進めた。
「あ、美優」
今日はよく引き止めに合うな。
内心ヒリついたけれど、無愛想にするとあとが面倒だから、笑う。笑う......
笑顔を作って振り向くと、お母さんは困り眉で笑っていた。
「最近お友達と遊んでるの?」
「ううん。バイトが忙しいから」
「......そんなにバイトを詰め込んで、、ほら、今しか出来ない青春ってものがあるのよ?お友達と遊んだり、勉強したり、彼氏とデートしたり」
「そうだね。でも、今はバイトが楽しいかな」
その一言でお母さんの瞳の奥底が一気に抜け落ちた気がした。
居心地が悪くなり、目線をそらすと、少しだけ低くなったお母さんの声が私の鼓膜を突き刺す。
「変なイラストに課金ばっかしてないで、自分の生活を過ごしなさい」
あーあ。
グサグサに刺さった矢が真っ赤に染まっていく。
越えられたくない一線を越えられてしまった。
変なイラスト?私の生活?
どうして自分で働いたお金の範囲内で楽しんでるのに、そんなこと言われないといけないの?
赤点取った覚えもない。提出物だって期限守ってる。
頬の筋肉が働かないことを理解して、咄嗟に背を向けた。
「やることやるから口出さないで」
お母さんの引き止める声を無視して自室の扉を閉めた。
デスクに置かれた手帳を手に取る。
これは、私の日記感覚で聞いている遊星の配信記録だ。
配信のスケジュールと、配信の感想と、コメントを読まれた時の心境を書き留めている。
今日の日付は......
「はは、こんな日に限って配信ないの......」
暗い気持ちを紛らわせるように、遊星のアーカイブへと手を伸ばした。
「ありがとうございました!」
満足気にお腹を擦りながらお店から出ていくお客様に笑顔で会釈する。
台拭きを持ってテーブルを片付けに行くと、珍しくおさげヘアーにした架純先輩が背後から私の肩を叩いた。
「お疲れ!美優ちゃんが最近沢山シフト入ってくれて助かるって店長が泣いてたよ!」
「お疲れ様です!!え?泣くほどですか?沢山って言っても二日増やしただけなんですけどね」
「二日でも大きいんじゃない?うちの店長人足りてないのに、新しい子増やすの嫌がるから」
「確かに......」
二人して手を動かしながら、怒られない程度に小さく笑った。
初めて投げ銭をしたあの日から、私はシフトを出来る限り入れて頑張っている。
今まで平日に三回入っていただけだったけど、少しだけお給料が高くなる土日にもシフトを入れた。
お給料が上がるに伴ってお客様の出入りは多い。
だからなのか、学生があまり入らないらしく、店長からは即シフトを入れて貰えた。
(今週は雑談枠が多めだし、投げ銭読んでもらえるかな〜)
先週も最高額ハピチャは一回だけだったのに、八回投げて、五回もその場で拾って貰えた。
認知とやらも、そのうちされるんじゃないかと傲慢な心が私を襲うけれど、その度に「力になれてるのが嬉しいんだろ!」と自分に平手打ちをしている。
だけど、アイコンを見てピク付かれるくらいには、印象に残ることを夢見てる私を完全に見捨てることは未だ出来ていない。
「すみません〜」
「あ、はい!」
架純先輩に軽く手を振り、目が合っているお客様の所へ小走りで向かう。
※
「だから!翔馬があそこで見捨てたのが悪くないか!?あははは!エンタメ的には満点だったけどな!」
豪快な笑い声がスマホを振動させて、課題をする手が止まった。
つい先程まで遊星の同期である・咲原翔馬とゲーム配信をしていた遊星だったが、終わって早々SNSに【みんなと話し足りないから急遽雑談っ!!!!】と呟かれた。
ゲーム配信が終わってようやく課題が出来ると思っていたのに。
配信を付けてしまうと、ついつい聴き逃したくなくて思考が遊星に飛んでいってしまう。
水を飲んでいるのかアバターが傾いた姿勢で止まってしまった。
気になってスマホを手に取ったことをきっかけに、軽めのハピチャを投げる。
【課題のお供に雑談枠聞いてます!!感謝ッ!!!!】
「んぉ!おもちもちさんありがとう!!!課題頑張れよぉう!!!......俺なんの話ししようとしてたっけ??」
私のコメントを拾ってから、配信へ戻るスピードが当たり前だけど一瞬だ。
なのに、私は胸を押えてノートに項垂れている。
この差さえも、好きで仕方がない。
何がいいのかは分からないが、なんかいい。
聞き逃したくないとか思っていたのに、今話してる雑談内容全く聞き取れないし。
「課題頑張れって言われたしやるかー!!!!」
無駄に大声を出して、シャーペンを握りしめた。
※
担任の気だるげな語尾を最後に、複数個の椅子がキー!と音をあげる。
校門前まで誰が一番に辿り着けるかを毎日争っている男子五人組が、一目散に帰宅した騒音だった。
(毎日うるさい......)
そう思いながら、思いの外早くグラウンドに出てくる五人の姿を何となく待ち望んでいる私は、無意識レベルで窓の外に目を向ける。
他のクラスは少し前にHRが終わっていたらしく、既に何人かは校門前で立ち話していたり、楽しそうに笑いながら門をくぐっている。
しばらく眺めていると、面白いくらいに全力疾走した先程の五人が見えて、思わず笑いを堪えた。
いつもは圧倒的勝者がいるのに、今日はほぼ同時だったらしく、全員で指を刺しながら威嚇しあっている。
無事に見届けたので、帰るとしよう。
ワイヤレスイヤホンを右耳だけに入れて、バッグを肩にかける。
今日はバイトの日だから、家には寄らずそのままバ先へ向かう予定だ。
(家に帰ってもお母さんうるさいし。配信見るために課題でもして時間潰そ)
高校二年生になり、周りもチラホラ塾の話だったり進路の話だったりをし始めている。
シフトを増やした私とは裏腹に、受験勉強に力を入れている同級生がバイトを辞めたなんてことも又聞きした。
そんな話をお母さんが聞いていないはずもなく、バイトを増やした私に毎晩と言っていいほど、小言を言ってくるようになった。
テストでもある程度は点取ってるし、進路だって三年生の段階で入れるところに決めればいい。
そう私は思っているんだけど。
スマホを操作し、右耳から遊星の歌声が私を包んだ。
どんなに現実が色褪せてたって、遊星が画面の先にいる限り、私は生きていける。
バレない程度にリズムに乗りながら教室を後にしようとしたその時――
「美優!!今日カラオケ行かない??」
「あ、みゆみゆじゃーん!!珍しい!!」
「他校のイ・ケ・メ・ン☆も来るよ」
瞬時に左耳にもイヤホンを付けてれば良かったと後悔した。
せっかく遊星の歌声に浸ってたのに。
だけど愛想悪くすることだけは、面倒事に繋がるから右耳からイヤホンを抜き取り、目尻を引き締めた。
真ん中に位置する茶髪の巻き髪で制服をオシャレに着崩した・柑奈ちゃんが、カーディガンのポケットに手を入れながら、期待の眼差しを私に向けている。
せいぜい人数合わせに私を呼びたいんだろう。
「ごめんね!誘ってくれたところ申し訳ないんだけど、今日バイトあって」
「え〜!!!久しぶりに美優のこと掴まえられたと思ったのに!!!バイトなんて一回くらい体調悪いって言っちゃえば?」
一回休んだら、三回分、いや五回分のハピチャが飛ぶ。
外されたイヤホンには、もう既に遊星の歌声は流れていないだろうと思いながらも、口角を必死に固定した。
「店長が全然人雇わないから、休むと店回らないんだよね〜!ほんと行きたかった!!!」
「ざんねーん、じゃあ今度絶対行こうね!!」
「うん!また誘って!」
軽く手を振ると、三人も手を振りながら階段を降りていった。
出そうになったため息を飲み込む。
陽キャに絡まれてる時間ほど、息が詰まるものはない。
住む世界が違いすぎる。
再びイヤホンを付けて、曲を流した。
※
「ただいま〜」
「あら、おかえり。夜ご飯は食べたのよね?」
「うん。賄い食べてきた」
「そう。お風呂は?もう入る?」
「ん〜、少しあとに入ろうかな。お母さん先にいいよ」
何か言いたげな空気をひしひしと感じながらも、触れると長いし、部屋に向かおうと歩みを進めた。
「あ、美優」
今日はよく引き止めに合うな。
内心ヒリついたけれど、無愛想にするとあとが面倒だから、笑う。笑う......
笑顔を作って振り向くと、お母さんは困り眉で笑っていた。
「最近お友達と遊んでるの?」
「ううん。バイトが忙しいから」
「......そんなにバイトを詰め込んで、、ほら、今しか出来ない青春ってものがあるのよ?お友達と遊んだり、勉強したり、彼氏とデートしたり」
「そうだね。でも、今はバイトが楽しいかな」
その一言でお母さんの瞳の奥底が一気に抜け落ちた気がした。
居心地が悪くなり、目線をそらすと、少しだけ低くなったお母さんの声が私の鼓膜を突き刺す。
「変なイラストに課金ばっかしてないで、自分の生活を過ごしなさい」
あーあ。
グサグサに刺さった矢が真っ赤に染まっていく。
越えられたくない一線を越えられてしまった。
変なイラスト?私の生活?
どうして自分で働いたお金の範囲内で楽しんでるのに、そんなこと言われないといけないの?
赤点取った覚えもない。提出物だって期限守ってる。
頬の筋肉が働かないことを理解して、咄嗟に背を向けた。
「やることやるから口出さないで」
お母さんの引き止める声を無視して自室の扉を閉めた。
デスクに置かれた手帳を手に取る。
これは、私の日記感覚で聞いている遊星の配信記録だ。
配信のスケジュールと、配信の感想と、コメントを読まれた時の心境を書き留めている。
今日の日付は......
「はは、こんな日に限って配信ないの......」
暗い気持ちを紛らわせるように、遊星のアーカイブへと手を伸ばした。

