私の全ては推しに捧げる

「みんな今日も来てくれてありがとな〜!明日は待ちに待った収益化配信!!20時から待ってるよ!!」

全リスナーの耳を潤す聞き馴染みがいいのに、印象に残るサラサラした声。
その声がテンションの上がった時に少しだけ裏返るのが大好き。
ピアノ基調のこだわり抜かれたエンドロールが部屋に響いて、思わず体の力を抜きベッドに沈んだ。

「はぁあああ......カッコよすぎる。......今日はこれで終わりか」

毎日、もっと声を聞いていたい気持ちと、これ以上は心臓が持たない!という限界が行き来している。
本当に――彼(推し)に出会ってから、過去最上級に人生が楽しい。


※


「美優(みゆ)ちゃーん!ヘルプガチありがとうね〜!助かりました......!!」
「架純(かすみ)先輩!全然!!お金じゃんじゃん稼ぎたいので助かります!」

少しグリーンの香るブラウンヘアーを、ローポーニーにしているこの先輩は、私が働き始めた時から教育担当として常に隣にいてくれた人だ。
人生初バイトだった私と出会った時は、丸みショートが印象的な親しみやすい姿だったが、髪が伸びた今は洗礼された大人っぽい雰囲気へとランクアップしている。
一つ年上なだけなんだけど、圧倒的美形な姿に、一年後の私はこの完成度にはなれないだろうなと毎度のことながら思う。
いつも通り気さくに話しかけてくれた架純先輩に、笑顔で返したつもりだったが、珍しく三日月型じゃなく満月みたいに丸くした目で見つめられ、ドッと心拍数が上がった。

「やっぱり最近元気モリモリになったよね......!」

無邪気な笑顔で核心を付かれ、思わず目線を外してしまう。
感じ悪くする事だけは避けたくて、すぐに口角を全力で引き上げる。

「そうかもしれないです!最近推しが出来たからかな?」
「推し!?それは一気に人生潤うね」

目を瞑り深く頷いてくれた架純先輩も、身の回りのものは推しのグッズで固めているガチ勢の一人だ。
バイトも三つ掛け持ちしてるらしい。
裏から店長が私の名前を呼び、退勤時間になったことに気がつく。

「では、お先に失礼します!」
「はーい!お疲れ様!」

スタッフルームに入り、誰もいないことを確認してから、大きすぎるため息を吐いた。
人付き合い苦手過ぎる。
ある程度のマナーとして笑顔で話してるけど、正直話しかけられずに帰りたい。
制服から私服に着替え、ロッカーの扉に付けている鏡を見ると、そこには酷く口角が下がった可愛げのない私が写っていた。

(はぁ......早く帰ろ)

肩にバッグを掛け、タイムカードを切る。
お母さんに借りている電動自転車に跨り、今日こなさなければならない用事が片付いたことに、内心安堵した。
いつの間にか、夜風が肌寒い季節へと移り変っている。


※


家に帰るなり、自室に直行し、着替えることなくベッドにダイブした。
今日の配信の枠立てがされていて、それだけで約束事があるみたいで胸がぽわぽわする。

ZTuberという存在は遊星で初めて知った。
淡々と学校に行って、淡々とバイトに行くだけだった私の日常に、突然おすすめ欄に流れてきたのがきっかけだった。
ZTuberとは、2Dアバターを用いて配信を行っている人達の事で、主に雑談や歌枠、ゲーム配信などをしている。
一定数は3Dアバターを手に入れている活動者もいて、より存在していることを実感出来るらしい。
ちなみに、遊星は一か月前にデビューした新人ライバーで、まだ3D化はしていないみたいだった。

その日は、何気ない気持ちで切り抜きを覗いてみただけだった。
それだけだったのに、"The・陽キャ"な見た目をしているのに、褒めたコメント欄にガチ照れしている姿に、無事(?)恋に落ちていた。

【リスナーの未来を輝かせられるような一等星になりたい!】

そう声を張り上げたデビュー配信のアーカイブは、感動とリアタイ(※リアルタイム視聴)したかった悔しさで、気づけば大号泣していた。
ここまで心臓を掴まれた存在に、今日!ようやく貢げるようになるのだ!!!!
思い出した途端、胸の高鳴りが限界突破して、すぐそこにあったクッションに顔を埋めた。
しばらくして部屋にアラーム音が鳴り響く。
ガバッと勢いよく身を起こして、スマホを手に取ると、時刻は遊星の配信一分前だった。

「うわぁ......!緊張する......!」

喉から溢れ出た言葉は、驚くほど浮き足立っていて、自分でも少し恥ずかしくなった。
サムネイルで埋め尽くされていた画面が、オープニング映像に切り替わったことをきっかけに、チャット欄が騒ぎ始めた。

【きちゃ!】
【楽しみすぎる】
【遊星〜!!収益化おめでとう!!】

すでに祝福のコメントや、歓喜のコメントで溢れた配信は、遊星の登場でさらにチャットが速くなった。
すごい。読めない。
コメントを目で追うことに必死になっていると、投げ銭枠で彩られたコメントが数件飛んでいく。

「こんばんは〜!!みんな来てくれてありがとう!!って!!もう投げ銭来てない!?!?」

驚きつつも、嬉しそうにコロコロと笑った遊星の姿がどうしようもなく愛おしい。
スマホを握りしめる。
私も遊星に喜んで欲しい。
迷いなく赤色の最高額投げ銭を選択し、コメントを書き込んだ。

【収益化おめでとうございます!これからもずっと大好きです!!】

コメントの波が速く、早々に画面外へと追いやられてしまった私の投げ銭。
少し残念に思ったけれど、遊星に貢げたという事実が私の胸を彩った。
嬉しすぎる。
いつも与えられてばかりだから、少しばかりだけれど、遊星の力になれてるかもしれないと思えるツールが嬉しくて仕方がない。
アバターを左右に揺らし愛嬌を振りまく遊星を、何枚も何枚もスクショする。

「あ、おもちもちさんハッピーチャットありがとう!!大好き!?俺もファンのみんなが大好きだよぉぉ〜〜」

え......?
おもちもちって、私のアカウント名......?
耳に飛び込んできた大好きな声に包まれた自分の存在で視界が真っ白になった。
読まれた。コメントが読まれた。
名前のつかない感情が、せり上がってくる。
鼻先が染みるのと同時に、目頭が熱くなった。
ポップなBGMに、元気過ぎる大好きな人の声を聞きながら、私は大号泣した。
推しにコメントを読まれるってこんな気持ちになるんだ。
嬉しそうに弾んだ声が、頭から消えない。
もっと喜ばせたい。もっと力になりたい。
鼻を啜りながら配信をバックグラウンド再生にして、予定表アプリをタップする。

(シフトどのくらいなら増やせるかなぁ?)