左頬にひんやりと冷たいのもが当てられる。意識が浮上して重たい瞼を持ち上げると、ユイが氷水を僕の頬に押し当ててくれていた。「ありがとう」と声を振り絞れば大袈裟なくらいため息を吐かれジト目で見つめられる。
「あのさあ。無茶しすぎ。怖い人だったけど、事実さえ証明されたらちゃんと止まってくれる人で命拾いしたようなものなんだから」
「うん、ごめん。僕もこんな行動に出たのは初めてだよ……いててて」
仰向けに倒れていた上半身を起こせば体の節々が痛かった。ユイに支えられながら顔を上げる。
目の前では頭がのめり込んでしまうのではないかというくらい地面に額を押し当てて未だに土下座をしている青沼兄……と。「あの」「どうか顔を上げてください」とオロオロしているアキトがいた。
「青沼……のお兄さんは、ただ悪を成敗しようとしていただけじゃないですか……可愛い弟の口車に乗せられて」
「だとしてもだ! 碌に事実を確認しようとすることもなく別人を殴ってしまうことになったし、当の本人は片腕が無いだと……!? アイツはそんなこと一言も教えてくれなかったぞ!」
青沼兄の言うアイツ。他でもない青沼本人のことだ。
「……状況から察するに、アイツが憂さ晴らしのためにオレを利用したっていうことだろう? クソ、腹立ってきた……本当に成敗しないといけなかったのは同級生ではなくてオレの弟だったとは」
「信じてくれるんですか?」
アキトが不思議そうに尋ねれば、青沼兄は顔を上げ、さも当然そうに「おうよ」と返事をした。
「オレの高校でも話題になってンぜ。正義のヒーローって」
「他校までにも広まって……」
「一目見てわかったぜ。あ、ヒーローが仲裁しに来たんだって」
「……それは、右腕が無いことが目立つからですか」
アキトが目を伏せて、低い声で尋ねる。
正義のヒーローという噂が消え去ったあとも、右腕の無いアキトは今後も外を歩けば世間の目に晒され、同情や好奇の目で見られるに違いない。「んー、まァそれもあるけどよォ」と青沼兄は頭をポリポリ掻きながら暗い表情のアキトとは正反対のニカッとした笑みで言う。
「フツー、こんな見た目が怖い不良生徒が誰かを殴ってるのを見ても止めに入ることなんてしないぜ。あんたは元々ヒーロー気質だったのか、よっぽどのお人好しなのか」
「……俺はそんな……大それたことなんか……ただ、妹やコイツが死にそうになっていたから、飛び出しただけで……」
コイツ、と言ったアキトの目は一瞬僕に移る。
「それがフツーの人は持ち合わせていない勇気ってモンよ!」
立ち上がった青沼兄は「弟を懲らしめてくるわ」と呟いて歩き出す。最後に僕を振り返って。
「勘違いして殴って悪かった。後日改めて弟と謝罪しに向かう。……だがお前の勇気も相当なモンだぜ」
一応加害者であるはずの青沼兄は僕に親指を立ててから去っていく。
見た目が怖い不良生徒だったけど、ちゃんと筋を通してくれる人でよかった。こうなった原因は結局青沼本人が原因だった。
しかし兄にこってり絞られるだろう。これでようやく、ユイやアキトに対する嫌がらせはなくなるはずだ。
「帰ろっかあ」
ボロボロの体で何とか立ち上がれば、左側をユイが、右側をアキトがそっと支えてくれた。僕の優しい幼馴染たち。
痛む足を前に出しゆっくり、ゆっくりと3人並んで歩き出す。
「あのさあ。無茶しすぎ。怖い人だったけど、事実さえ証明されたらちゃんと止まってくれる人で命拾いしたようなものなんだから」
「うん、ごめん。僕もこんな行動に出たのは初めてだよ……いててて」
仰向けに倒れていた上半身を起こせば体の節々が痛かった。ユイに支えられながら顔を上げる。
目の前では頭がのめり込んでしまうのではないかというくらい地面に額を押し当てて未だに土下座をしている青沼兄……と。「あの」「どうか顔を上げてください」とオロオロしているアキトがいた。
「青沼……のお兄さんは、ただ悪を成敗しようとしていただけじゃないですか……可愛い弟の口車に乗せられて」
「だとしてもだ! 碌に事実を確認しようとすることもなく別人を殴ってしまうことになったし、当の本人は片腕が無いだと……!? アイツはそんなこと一言も教えてくれなかったぞ!」
青沼兄の言うアイツ。他でもない青沼本人のことだ。
「……状況から察するに、アイツが憂さ晴らしのためにオレを利用したっていうことだろう? クソ、腹立ってきた……本当に成敗しないといけなかったのは同級生ではなくてオレの弟だったとは」
「信じてくれるんですか?」
アキトが不思議そうに尋ねれば、青沼兄は顔を上げ、さも当然そうに「おうよ」と返事をした。
「オレの高校でも話題になってンぜ。正義のヒーローって」
「他校までにも広まって……」
「一目見てわかったぜ。あ、ヒーローが仲裁しに来たんだって」
「……それは、右腕が無いことが目立つからですか」
アキトが目を伏せて、低い声で尋ねる。
正義のヒーローという噂が消え去ったあとも、右腕の無いアキトは今後も外を歩けば世間の目に晒され、同情や好奇の目で見られるに違いない。「んー、まァそれもあるけどよォ」と青沼兄は頭をポリポリ掻きながら暗い表情のアキトとは正反対のニカッとした笑みで言う。
「フツー、こんな見た目が怖い不良生徒が誰かを殴ってるのを見ても止めに入ることなんてしないぜ。あんたは元々ヒーロー気質だったのか、よっぽどのお人好しなのか」
「……俺はそんな……大それたことなんか……ただ、妹やコイツが死にそうになっていたから、飛び出しただけで……」
コイツ、と言ったアキトの目は一瞬僕に移る。
「それがフツーの人は持ち合わせていない勇気ってモンよ!」
立ち上がった青沼兄は「弟を懲らしめてくるわ」と呟いて歩き出す。最後に僕を振り返って。
「勘違いして殴って悪かった。後日改めて弟と謝罪しに向かう。……だがお前の勇気も相当なモンだぜ」
一応加害者であるはずの青沼兄は僕に親指を立ててから去っていく。
見た目が怖い不良生徒だったけど、ちゃんと筋を通してくれる人でよかった。こうなった原因は結局青沼本人が原因だった。
しかし兄にこってり絞られるだろう。これでようやく、ユイやアキトに対する嫌がらせはなくなるはずだ。
「帰ろっかあ」
ボロボロの体で何とか立ち上がれば、左側をユイが、右側をアキトがそっと支えてくれた。僕の優しい幼馴染たち。
痛む足を前に出しゆっくり、ゆっくりと3人並んで歩き出す。



