「ち、ちょっと……何してるのよ。早く誤解を解いてお兄ちゃんに――」
「ユイ。先に家へ帰っていて」
「え? で、でも――」
腕に抱えていたアキトの体操着をユイに預け、背中を押して先に帰らせる。
「優しいなあ、先に彼女を帰らせて」
「そういう関係ではないので。僕に用があるんですよね。早く言ってください」
「フン、弟が言っていたように生意気なのはガチなんだな……これは懲らしめ甲斐があるぜ」
青沼は兄にアキトをとにかく悪く吹き込んで制裁を与えようとしているらしい。姑息で腹が立つ奴だ。当の青沼本人はこの場にはいない。兄からの報告を楽しみに待っているのだろう。
僕をアキトと勘違いしているならそのままでいい。
指をポキポキ鳴らし腕を回し始めている青沼兄は殴る気満々だ。
僕でいい。殴られるのは僕でいい。
アキトは十分頑張っている。これ以上不必要に傷ついてほしくない。
だから、僕も逃げない。
僕が、代わりに。
「歯ぁ食い縛れや!」
右腕を大きく振り上げて突進してくる巨体を……僕はただ見据えるだけ。
ガンッ!
視界が大きくブレると共に、左頬に猛烈な痛みが走った。呆気なくその場でぶっ倒れ、顎が割れそうな程にじんじん痺れ出す中胸ぐらを掴まれ再び立ち上がらされる。
「弟は恥ずかしくて学校に行くことが辛いんだってなあ!」
何だそれ。笑わせるな。アイツは平気な顔で毎日登校しているし、右腕の無いアキトに心無いことばかり言うのに。
呆れて笑ってしまえば、青沼兄は苛立ったのか米神に青筋を立ててさらにもう一発、殴ってきた。
ガチッ!
反撃を一切しない僕は地面に体を伏せる。その背中や腹に容赦なく蹴りが入ってくる。口の中で生温かい鉄の味がした。
何度も何度も殴る蹴るを繰り返され、だんだん意識が遠のく。ぐったりするだけになった僕の胸ぐらを掴み体を起こそうとしている青沼兄だが、僕はもう限界だった。
元々引っ込み思案だし。殴り合いの喧嘩などしたことなかったし。
もう一発殴られたら今度こそ気絶するかも――頭の片隅でよそ事のように呑気に思っていれば。「やめてください」と青沼兄が振り上げる腕を必死に引き留める左手。
「あ? 今いいところなんだから止めるなよ……っ」
止める人物を振り返った青沼兄は、片腕が無い少年の姿に目を見開き動きを止める。
「……アキトです」
目が合う。顔がくしゃくしゃに歪んでいて『なんで、こんなことに』と思っているような顔だった。それから、目線を青沼兄に戻し……毅然とした態度で発言する。
「アキトは、俺です」
無言の10秒。
僕とアキトを何度も交互に見、事態を理解したような青沼兄は……その場で勢いよく土下座した。
「……申し訳ありません! 弟の言葉を鵜呑みにしていました……!」
……見た目が怖いし、物理で制裁してくる不良生徒には変わりないけど。
すぐに間違いを認めてくれる人でよかった。
そう思いながら、僕は重くなった瞼を閉じる――。
「ユイ。先に家へ帰っていて」
「え? で、でも――」
腕に抱えていたアキトの体操着をユイに預け、背中を押して先に帰らせる。
「優しいなあ、先に彼女を帰らせて」
「そういう関係ではないので。僕に用があるんですよね。早く言ってください」
「フン、弟が言っていたように生意気なのはガチなんだな……これは懲らしめ甲斐があるぜ」
青沼は兄にアキトをとにかく悪く吹き込んで制裁を与えようとしているらしい。姑息で腹が立つ奴だ。当の青沼本人はこの場にはいない。兄からの報告を楽しみに待っているのだろう。
僕をアキトと勘違いしているならそのままでいい。
指をポキポキ鳴らし腕を回し始めている青沼兄は殴る気満々だ。
僕でいい。殴られるのは僕でいい。
アキトは十分頑張っている。これ以上不必要に傷ついてほしくない。
だから、僕も逃げない。
僕が、代わりに。
「歯ぁ食い縛れや!」
右腕を大きく振り上げて突進してくる巨体を……僕はただ見据えるだけ。
ガンッ!
視界が大きくブレると共に、左頬に猛烈な痛みが走った。呆気なくその場でぶっ倒れ、顎が割れそうな程にじんじん痺れ出す中胸ぐらを掴まれ再び立ち上がらされる。
「弟は恥ずかしくて学校に行くことが辛いんだってなあ!」
何だそれ。笑わせるな。アイツは平気な顔で毎日登校しているし、右腕の無いアキトに心無いことばかり言うのに。
呆れて笑ってしまえば、青沼兄は苛立ったのか米神に青筋を立ててさらにもう一発、殴ってきた。
ガチッ!
反撃を一切しない僕は地面に体を伏せる。その背中や腹に容赦なく蹴りが入ってくる。口の中で生温かい鉄の味がした。
何度も何度も殴る蹴るを繰り返され、だんだん意識が遠のく。ぐったりするだけになった僕の胸ぐらを掴み体を起こそうとしている青沼兄だが、僕はもう限界だった。
元々引っ込み思案だし。殴り合いの喧嘩などしたことなかったし。
もう一発殴られたら今度こそ気絶するかも――頭の片隅でよそ事のように呑気に思っていれば。「やめてください」と青沼兄が振り上げる腕を必死に引き留める左手。
「あ? 今いいところなんだから止めるなよ……っ」
止める人物を振り返った青沼兄は、片腕が無い少年の姿に目を見開き動きを止める。
「……アキトです」
目が合う。顔がくしゃくしゃに歪んでいて『なんで、こんなことに』と思っているような顔だった。それから、目線を青沼兄に戻し……毅然とした態度で発言する。
「アキトは、俺です」
無言の10秒。
僕とアキトを何度も交互に見、事態を理解したような青沼兄は……その場で勢いよく土下座した。
「……申し訳ありません! 弟の言葉を鵜呑みにしていました……!」
……見た目が怖いし、物理で制裁してくる不良生徒には変わりないけど。
すぐに間違いを認めてくれる人でよかった。
そう思いながら、僕は重くなった瞼を閉じる――。



