僕の家にしばらく引きこもっていたアキトは、そのままユイと隣の家に無事戻ることになった。胸を撫で下ろしていれば母に「あんたその腫れた顔どうしたの!?」なんて驚かれ、経緯を説明すれば「色々言いたいことはあるけれど……あんたも多少は図太くなったのね」と言いながら新しい氷水を僕の頬に押し当ててくれた。
後日、青沼兄弟は本当に家まで謝りに来た。青沼よりも、兄の方が誠意に謝罪していた。殴られてはいるけど僕自身はそこまで腹が立っていない。寧ろ、兄がこんなに謝っているのに未だに不貞腐れた顔のままの青沼の方に……腹が立ってくる。
これは……ターゲットを変えてまた誰かに嫌味を言いにいくだろうな。
「お兄さん。コイツ、また再犯しますよ」
「な、何ィッ!?」
「反省してなさそうですもん。あーあ、僕弟くんと一緒のクラスなの嫌だな〜」
目の前で青沼が兄にこってり絞られていく。
僕を敵に回すと厄介だと気づいたらいい。
だからもし次アキトやユイに変に絡もうとしたら……わかるよね?
遊びに来ていた2人が奥の部屋で僕たちのやり取りを見ていたらしく「お前って、案外ネチネチしてんだな」とアキトに言われてしまった。
「心外だな。青沼が2人に絡まないようにしているだけだよ」
僕は喧嘩とかは強くないから。
僕なりのやり方でね。
*
翌週から、アキトはまた学校に登校した。
今度は僕と、アキトと、ユイ。3人揃って。
朝起きるのが苦手な僕は、2人に玄関のインターホンを鳴らされて欠伸をしながら外に出る。
ボサボサの伸びっぱなしだったユイの黒髪は、また以前のようにサラサラで綺麗になっていた。これは青沼以外にも大勢の男子に好かれてしまいそうだ。いや、まともな男子なら腹いせに好きな子をいじめるなんてしないか。ユイが変なことに巻き込まれないように僕もしっかり目を光らせておかないと……。
と思っていたが、校舎が近づくと「わたし先に行くね。彼氏が待っているんだ」と手を振って駆けていってしまった。
呆然と立ち竦む男子高校生2人。
「……」
「……」
「アキト、知っていた? 僕は今知った」
「俺も今知った……お兄ちゃん聞いてない! 聞いてないよ!」
2人で謎にショックを受けながら教室に向かえば。
「あ、アキトくん! よかった、また学校来てくれて!」
「正義のヒーローの復活だ!」
そんな声かけと共に皆が駆け寄る。こういう時真っ先に青沼が来て嫌味を言っていたが、兄に懲らしめられたのがよっぽど効いたのか遠巻きに見ているだけだった。
皆に囲まれた正義のヒーロー……アキトは挨拶を交わしながら「みんなに聞いてほしい」と言う。
「俺、正義のヒーロー卒業する」
「な……なんで!? 実際に女子生徒を助けてヒーローになったのに!」
クラスメイトからの言葉にアキトは苦笑すると首を振った。
「俺は正義のヒーローなんかじゃない。ただ妹を助けたお兄ちゃんなんだ」
クラスメイトにはピンと来ていないようだった。『正義のヒーローでもよくない?』という表情。そんな彼らに、アキトは明るい声で言う。
「俺、お前らだったらぜってぇー助けない自信ある!」
数秒の間。それからドッと笑いが起きて「なんだよそれー」「ひど〜い」とクラス中が湧く。
「だから今度からは『可愛い妹を助けたお兄ちゃん』と呼んでくれよな!」
正義のヒーローは消滅した。
その代わり、今までのようにクラスの人気者であるアキトは学生生活を楽しそうに過ごしていく。
幼馴染の僕は教室の隅の席に座って「すごいなあ」と思いながら、ぼんやりと眺めるのだった。
【正義のヒーローはどこへ征く】完
後日、青沼兄弟は本当に家まで謝りに来た。青沼よりも、兄の方が誠意に謝罪していた。殴られてはいるけど僕自身はそこまで腹が立っていない。寧ろ、兄がこんなに謝っているのに未だに不貞腐れた顔のままの青沼の方に……腹が立ってくる。
これは……ターゲットを変えてまた誰かに嫌味を言いにいくだろうな。
「お兄さん。コイツ、また再犯しますよ」
「な、何ィッ!?」
「反省してなさそうですもん。あーあ、僕弟くんと一緒のクラスなの嫌だな〜」
目の前で青沼が兄にこってり絞られていく。
僕を敵に回すと厄介だと気づいたらいい。
だからもし次アキトやユイに変に絡もうとしたら……わかるよね?
遊びに来ていた2人が奥の部屋で僕たちのやり取りを見ていたらしく「お前って、案外ネチネチしてんだな」とアキトに言われてしまった。
「心外だな。青沼が2人に絡まないようにしているだけだよ」
僕は喧嘩とかは強くないから。
僕なりのやり方でね。
*
翌週から、アキトはまた学校に登校した。
今度は僕と、アキトと、ユイ。3人揃って。
朝起きるのが苦手な僕は、2人に玄関のインターホンを鳴らされて欠伸をしながら外に出る。
ボサボサの伸びっぱなしだったユイの黒髪は、また以前のようにサラサラで綺麗になっていた。これは青沼以外にも大勢の男子に好かれてしまいそうだ。いや、まともな男子なら腹いせに好きな子をいじめるなんてしないか。ユイが変なことに巻き込まれないように僕もしっかり目を光らせておかないと……。
と思っていたが、校舎が近づくと「わたし先に行くね。彼氏が待っているんだ」と手を振って駆けていってしまった。
呆然と立ち竦む男子高校生2人。
「……」
「……」
「アキト、知っていた? 僕は今知った」
「俺も今知った……お兄ちゃん聞いてない! 聞いてないよ!」
2人で謎にショックを受けながら教室に向かえば。
「あ、アキトくん! よかった、また学校来てくれて!」
「正義のヒーローの復活だ!」
そんな声かけと共に皆が駆け寄る。こういう時真っ先に青沼が来て嫌味を言っていたが、兄に懲らしめられたのがよっぽど効いたのか遠巻きに見ているだけだった。
皆に囲まれた正義のヒーロー……アキトは挨拶を交わしながら「みんなに聞いてほしい」と言う。
「俺、正義のヒーロー卒業する」
「な……なんで!? 実際に女子生徒を助けてヒーローになったのに!」
クラスメイトからの言葉にアキトは苦笑すると首を振った。
「俺は正義のヒーローなんかじゃない。ただ妹を助けたお兄ちゃんなんだ」
クラスメイトにはピンと来ていないようだった。『正義のヒーローでもよくない?』という表情。そんな彼らに、アキトは明るい声で言う。
「俺、お前らだったらぜってぇー助けない自信ある!」
数秒の間。それからドッと笑いが起きて「なんだよそれー」「ひど〜い」とクラス中が湧く。
「だから今度からは『可愛い妹を助けたお兄ちゃん』と呼んでくれよな!」
正義のヒーローは消滅した。
その代わり、今までのようにクラスの人気者であるアキトは学生生活を楽しそうに過ごしていく。
幼馴染の僕は教室の隅の席に座って「すごいなあ」と思いながら、ぼんやりと眺めるのだった。
【正義のヒーローはどこへ征く】完



