僕のクラスには正義のヒーローがいる。
名前はアキト。
1ヶ月前、車に轢かれそうだった女子生徒を助けたからだ。皆から持て囃され、一気に人気者になった。僕は「すごいなあ」と教室の隅で座りながら、今日もクラスメイトに囲まれているアキトをぼんやり見つめる。
「へえ、美味しそうなお菓子……1個貰ってもいい?」
「うん、もちろん!」
「ありがとう。……うん、美味しいよ!」
アキトが強請れば、誰もが嫌な顔せず分け与えた。「アキトくんは正義のヒーローだから」が皆の口癖だった。
正義のヒーローだから。
「ごめん……黒板消し、日直の俺の代わりに誰かやっといてくれない?」
「あ、わたしやっておくね!」
「ほんと? 助かる……ありがとう」
正義のヒーローだから。
「やべ……購買でパン買ってくるの忘れた……今から並ぶのダル……」
「アキト、買ってくるよ。焼きそばパンでいいよな?」
「マジ、ありがとー。いつも気が利くね」
正義のヒーローだから。
「……」
「はい。ノートに黒板の文字、全部書き写しておいたよ。僕が代わりにね」
窓際の一番後ろに座っている僕の右隣に、アキトが座っている。古典の先生が黒板に書いていく文字を目では追っているものの一向にシャープペンシルを持つ気配がないから、書き写すのが得意な僕がアキトのノートに全てを書き写した。
「わかりにくいところがあったら教えてね」
「……どーも」
クラスメイトに愛想が良いアキトは、僕の前だけだと無愛想になる。幼稚園の頃から家も隣同士の幼馴染……ということもあるのだろうけど。
僕の前では取り繕わなくていい、と約束したから。
「はぁ。マジ。……死にてー……」
授業中なので他の人には聞こえない。でも、ノートを手渡した僕にだけ聞こえるように呟いた。僕はギョッとして、隣を見つめる。
「正義のヒーローじゃん」
「うーん。みんなそう言ってくれるけどさ? ……正直、後悔してるんだよね」
女子高生を助けたこと。
アキトにとってはマイナスらしい。
「そんなことない」と否定しようとし……アキトを見て、僕は何も言えずに俯く。
「そんな顔するなよ」と笑うアキトは、多分。幼馴染の僕を慰めるために左手を伸ばした。しかし。
「あっ……」と気付いた時には遅く、バランスを崩してアキトは床に倒れ込んだ。
ダンッ!
「いててて……」
「アキト!?」
「アキトくん! 大丈夫!?」
クラスメイトは優しい。すぐに異変に気付いてアキトの体を起こしてくれる。
無愛想だったアキトの顔はたちまち『正義のヒーロー』になる。
「ごめ〜ん! ボーッとしてた!」
静かな教室に大きな音が立ち皆驚いていたが、アキトが笑顔で返せば「驚かせんなよ〜!」とクラスの空気が和らいだ。
「へへ、ごめん。……だからお前もそんな顔するなって。……な?」
「死にたい」と言っていたことはなかったかのように僕に柔らかい笑みを向けるアキト。分かっていても、僕は隣を見つめることが出来なかった。
車に轢かれそうだった女子生徒を助けたアキトは。
正義のヒーローになった代償というように利き手の右腕を失くした。
交通事故に遭って1ヶ月、アキトはずっと入院していた。
尚、死にたがっていた女子生徒からの謝罪は無いようだった。
名前はアキト。
1ヶ月前、車に轢かれそうだった女子生徒を助けたからだ。皆から持て囃され、一気に人気者になった。僕は「すごいなあ」と教室の隅で座りながら、今日もクラスメイトに囲まれているアキトをぼんやり見つめる。
「へえ、美味しそうなお菓子……1個貰ってもいい?」
「うん、もちろん!」
「ありがとう。……うん、美味しいよ!」
アキトが強請れば、誰もが嫌な顔せず分け与えた。「アキトくんは正義のヒーローだから」が皆の口癖だった。
正義のヒーローだから。
「ごめん……黒板消し、日直の俺の代わりに誰かやっといてくれない?」
「あ、わたしやっておくね!」
「ほんと? 助かる……ありがとう」
正義のヒーローだから。
「やべ……購買でパン買ってくるの忘れた……今から並ぶのダル……」
「アキト、買ってくるよ。焼きそばパンでいいよな?」
「マジ、ありがとー。いつも気が利くね」
正義のヒーローだから。
「……」
「はい。ノートに黒板の文字、全部書き写しておいたよ。僕が代わりにね」
窓際の一番後ろに座っている僕の右隣に、アキトが座っている。古典の先生が黒板に書いていく文字を目では追っているものの一向にシャープペンシルを持つ気配がないから、書き写すのが得意な僕がアキトのノートに全てを書き写した。
「わかりにくいところがあったら教えてね」
「……どーも」
クラスメイトに愛想が良いアキトは、僕の前だけだと無愛想になる。幼稚園の頃から家も隣同士の幼馴染……ということもあるのだろうけど。
僕の前では取り繕わなくていい、と約束したから。
「はぁ。マジ。……死にてー……」
授業中なので他の人には聞こえない。でも、ノートを手渡した僕にだけ聞こえるように呟いた。僕はギョッとして、隣を見つめる。
「正義のヒーローじゃん」
「うーん。みんなそう言ってくれるけどさ? ……正直、後悔してるんだよね」
女子高生を助けたこと。
アキトにとってはマイナスらしい。
「そんなことない」と否定しようとし……アキトを見て、僕は何も言えずに俯く。
「そんな顔するなよ」と笑うアキトは、多分。幼馴染の僕を慰めるために左手を伸ばした。しかし。
「あっ……」と気付いた時には遅く、バランスを崩してアキトは床に倒れ込んだ。
ダンッ!
「いててて……」
「アキト!?」
「アキトくん! 大丈夫!?」
クラスメイトは優しい。すぐに異変に気付いてアキトの体を起こしてくれる。
無愛想だったアキトの顔はたちまち『正義のヒーロー』になる。
「ごめ〜ん! ボーッとしてた!」
静かな教室に大きな音が立ち皆驚いていたが、アキトが笑顔で返せば「驚かせんなよ〜!」とクラスの空気が和らいだ。
「へへ、ごめん。……だからお前もそんな顔するなって。……な?」
「死にたい」と言っていたことはなかったかのように僕に柔らかい笑みを向けるアキト。分かっていても、僕は隣を見つめることが出来なかった。
車に轢かれそうだった女子生徒を助けたアキトは。
正義のヒーローになった代償というように利き手の右腕を失くした。
交通事故に遭って1ヶ月、アキトはずっと入院していた。
尚、死にたがっていた女子生徒からの謝罪は無いようだった。



