その花言葉、そっくりそのままお返しします。

『エリンジウムっていう、この青いお花をメインにしてみました。その花言葉が〈光を求める〉、なんです。
お客様の雰囲気がすごく眩しくて、暖かかったから……。思わず手を伸ばしたくなるような、光みたいだな、と思って』

 少し照れながら一生懸命説明してくれた君。
 
 もう好きだった。

 俺の名前は、竹内朝陽(たけうち あさひ)。
 大学二年生。本日、二十歳になりました。
 
 見た目のせいか、「モテそう」「遊んでそう」と評されることが多いが、実際のところ恋人はおらず、派手に遊ぶでもなく、決まった数人の友達と過ごす、普通の大学生活を送っている。
 
 誕生日の今日も、二〜五限まで大学で真面目に過ごし、その後の予定は帰宅のみ。
 
 そんな俺が光?

 あまりの衝撃だった。
 感情のキャパを、あっけなく超えた。
 
 声も出せず、指先ひとつ動かせないまま、ただそこに立っていた。

 俺が固まったのを、不満だったと勘違いしたのか、彼が申し訳なさそうに眉を八の字にする。
 
 やばい。何か言わなきゃ。
 そう思うのに、パニックを起こした脳から絞り出せたのは、信じられないほど低い声の一言だけだった。
 
「……あ、いや。……大丈夫です。これで」

 違うじゃん、大丈夫とかじゃないじゃん。
 素敵です! 大満足です! 最高です! って言いたいのに!
 
 焦る俺はすがるように、エプロンに付けられた小さな名札へと視線を向けた。
 
 そこにあったのは、『花咲(はなさき)』という二文字。

 は、花咲……⁉︎
 花屋で働く美男子として完璧すぎる名字。

「あ、そうですか……? 良かった。……お誕生日、おめでとうございます」
 
 俺のそっけない返答にも嫌な顔ひとつせず、ふわっと柔らかく微笑む花咲さん。
 
 あ、笑顔が咲きました。あまりに眩しい。
 
 これ以上ここにいたら、俺、本当にどうにかなりそう。
 慌てて会計を済ませ、お釣りをひったくるように受け取った。
 
「ありがとうございました。またお越しくださいね」
 背後から届く鈴の鳴るような声を聞きながら、店を飛び出す。

 自分の不甲斐なさに頭を抱え、逃げるように路地へ向かおうとした——その時だった。
 
「あ、あの! お客様……っ!」
 パタパタと軽やかな足音が追いかけてきて、ハッと振り返る。
 
 息を少し弾ませながら、花咲さんがお店の外まで追いかけてきていた。
 
 夕日に照らされた黒髪と色白の肌。
 
 花咲さんは照れくさそうに微笑みながら、俺の手元のブーケを指さした。
 
「言い忘れてしまって……! そのエリンジウム、生花を楽しんだあと、風通しの良い場所に吊るしておくと、綺麗なドライフラワーになるんです。
だから……長く楽しんでいただけたら嬉しいなって」
「っ……あ……っ」
「……それでは! ありがとうございました!!」
 それだけ伝えると、花咲さんは店へ戻っていった。

 追いかけてきてまで、俺にそんなこと教えてくれるとか……
 なんかめっちゃ嬉しいな。
 
 長く楽しませていただきます。遺影の横に吊るします。

 今度こそ完全に処理能力の限界を迎え、俺は交番前の路上でエリンジウムを胸に抱きしめたまま固まった。
 
 おまわりさん、あそこの花屋に恋泥棒いました。