「絶対に死なないでね」と、君がそう言ってくれたから。〜未来へ進むため、僕と彼女の一歩目~

 扉の前で、立ち止まる。
 ……入りたくない。
 だって、そこに広がるのは――。
「お、漣(れん)じゃん。今日、早かったな」
「……兄貴」
 俺の一つ上の兄・榊(さかき) 蒼眞(そうま)。
 文武両道で、なんでもできる。
 私立の進学校に通っている。
「……ん?なんかあった?」
「いや。別に……」
 兄貴のことは尊敬している。
 自慢の兄だとも思っている。
 でも、どうしても劣等感を抱いてしまう。
「あら、おかえり~、蒼眞(そうま)。……あ、漣(れん)も帰ってたの」
「ただいま、母さん」
「……うん、ただいま」
 ……父さんも母さんも、俺のことはどうでも良いと思っている。
 優秀な兄貴さえいれば、俺はいらないんだろう。
「今日ね、お父さん、早いんだって。久しぶりに四人で食べられるわね」
 家族との食事なんて、地獄でしかない。
 兄貴のことばっかり褒めて、それでその後、「漣(れん)も頑張れよ」って言う。
「そうだね……」
 兄貴のことしか見ていないから、俺の異変にも気づいていない。
 ……俺がいじめられていることに、気づいていない。
 ……俺がいつも独りぼっちなことに、気付いていない。
 …………俺が本当は死のうとしていることに、気付いていない。
 兄貴や母さんと同じ場所にいたくなくて、部屋に入る。
 ……俺だって、兄貴みたいに優秀な人間に生まれたかったよ。
 分かってる。
 兄貴が、ものすごく努力していることは。
 ずっと見てきたから。
 ……でも、俺にはできない。
 多分、同じくらい頑張っても、追いつけない。
 兄貴は、努力家な上に、要領も良い。
 俺とは違う。
 俺だって、高校は、公立の中ではトップクラスの学校を受験した。
 ……兄貴の通う学校の偏差値には、遠く及ばないけれど。
「俺だって、頑張ってるよ……」
 誰も認めてくれない。
 俺を見てくれない。

『榊(さかき)くんが、壊れそうだから』

 阿久津(あくつ)の言葉を思い出す。
 ……俺は、もうとっくに壊れていた。