「絶対に死なないでね」と、君がそう言ってくれたから。〜未来へ進むため、僕と彼女の一歩目~

「……死ね!」
 倒れこんでいる俺を、容赦なく蹴り続ける。
 もう、慣れてしまっていた。
 なるべく、感情を表に出さないようになっていた。
 そうしなければ、もっと酷い目に遭うことが分かっていたから。
「消えろ」
 そう言って、俺を蹴っていた男――園田(そのだ)は去っていく。
 園田(そのだ)は、クラスで目立つ男子。
 一年の頃から同じクラス。
 理由は分からないけれど、嫌われている。
 誰も助けてはくれないし、話しかけてくれない。
 それが普通だ。
 誰も、自分がターゲットにはなりたくないから。
 俺でもそうすると思う。
 中学時代、俺はいじめを見て見ぬふりした。
 ……俺を庇った親友がいじめられていたのに。
 今のいじめは、そんな最低な俺への、罰なんだと思う。
「……教室、戻らないと」
 立ち上がって、扉を開ける。
 廊下を進んで、教室に向かう。
 次の授業は……、数学か。
 そういえば、もうすぐ小テストだな。
 なんてことを考えながら、教室に入る。
 誰も、俺と目を合わせない。
 透明人間みたいだ、と思う。
 そこにいるはずなのに、いない。
 それで良かった。
 高校を卒業するまでの辛抱だ。
 そう思って、耐えていた。
 ……そんな日常を、彼女は壊した。

「ねえ、榊(さかき)くんもどう?」

 一瞬、誰に話しかけているのか、分からなかった。。
 榊(さかき)、というのは、うちのクラスに俺しかいない。
 でも、俺に話しかける人がいるわけがない
「え、っと、……俺?」
「うん、そうだけど。……あれ?名前違ったかな?榊(さかき) 漣(れん)くん、だよね?」
「まあ、そうだけど……」
 俺に話しかけていたのは、クラスの人気者・阿久津(あくつ) 衣彩(いさ)だった。
 人気者で、優しくて、文武両道で、先生からも頼りにされている。
 そんな阿久津(あくつ)が、俺に話しかけるなんて、驚きだった。
「な、なんの話?」
「明日の放課後、ファミレス行かない?って話。全然メンバー集まらないからさ。……もちろん、嫌なら断ってくれても、全然オッケーなんだけど」
 なんだ。
 そういうことか。
 別に、俺と行きたいとかじゃないんだ。
「……ちょっと、衣彩(いさ)!……大丈夫なの?榊(さかき)に話しかけても」
「え?なにが?……あー。大丈夫だよ」
 阿久津(あくつ)の友人が言っていることは、ご尤もだ。
 俺に話しかけるなんて、勇者だ。
「でも、榊(さかき)、別に誰かと群れるの好きじゃないんじゃない?……ねえ?」
「え、あ……。うん、そうだね。やめとくよ」
 近くにいた七海(ななみ) 稜乃(いつの)が助け船を出してくれた。
 ほっとする。
 教室を見渡すと、園田(そのだ)の姿はなかった。
 ――良かった……。
 もし、園田(そのだ)に今の光景を見られていたら、もしかしたら、阿久津(あくつ)さんが……。
「そっかぁー。ごめんね?」
「あ、いや、全然……」
 阿久津(あくつ)さんは、俺の元を去っていく。
 もう、関わらないだろう、と、この時は思っていた。