「絶対に死なないでね」と、君がそう言ってくれたから。〜未来へ進むため、僕と彼女の一歩目~

「――榊(さかき)っ」
「……七海(ななみ)、さん?」
 いつも通り校舎裏で昼食をとっていると、そこにやって来たのは、阿久津(あくつ)ではなく、七海(ななみ)だった。
 七海(ななみ)と俺に、接点は全くない。
「……衣彩(いさ)、最近、昼休み、よくここに来てるよね?」
「まあ、うん……」
 七海(ななみ)にはバレていたのか……。
 それとも、阿久津(あくつ)が話したか……。
 阿久津(あくつ)は、七海(ななみ)と一番仲が良いのだろう、と思う。
 阿久津(あくつ)の話には、七海(ななみ)がよく出てきた。
「今日は、来てない?」
「……来てない、ですけど」
「そっか……。ごめんね、榊(さかき)」
 足早に立ち去る七海(ななみ)は、少し焦っているようだった。

『――絶対に死なないでね』

 あの時、俺を救ってくれたのは、阿久津(あくつ)だった。
 いじめは収まっていないし、家での居場所もない。
 でも、今まで逃げるための場所だった校舎裏は、いつからか、楽しい場所になっていた。
 阿久津(あくつ)と話すのが、楽しかった。
 知らない景色が見れるような気がした。
 友達なんて、いらないと思っていた。
 でも、阿久津(あくつ)のことを、俺は徐々に友達だと思うようになっていたのかもしれない。
「――七海(ななみ)さんっ」
「榊(さかき)?どうしたの?」
「……阿久津(あくつ)さん、なにか、あったの?」
 必要以上に関わりたくなかった。
 大切な人をつくりたくなかった。
 でも、いつまでも、それじゃ、ダメだ。
「……ごめん、榊(さかき)。私からは、言えない」
「そっか……」
「でも、あの子には、心の奥で、きっと、ずっと……。後悔していることがあるんだと思う。だから、今苦しんでる」

『……ただの罪滅ぼし、かな』

 阿久津(あくつ)は、そう言っていた。
 罪滅ぼし……。
 阿久津(あくつ)には、ずっと後悔していたことがあった……?
「……もしかしたら、衣彩(いさ)を救えるのは、榊(さかき)だけかもしれない」
 え……?
 俺、だけ……?
「私じゃ、多分ダメ。衣彩(いさ)の、凍ってしまった心を溶かせるのは、榊(さかき)だけだと思うな」
 ……これは、俺に与えられた使命なのだろうか。
 俺は今、人生の岐路に立っていた。
 阿久津(あくつ)を救うか、救わないか。
 ……俺が、誰かの人生に干渉するか、しないか。
 直前で、迷ってしまう。
 まだ、園田(そのだ)からのいじめは終わっていないのだ。
 俺と阿久津(あくつ)が親しくしていたら、阿久津(あくつ)は、辛い思いをすることになるかもしれない。

『……ねえ、榊(さかき)くん。私の友達になってよ』

『……私は、もし榊(さかき)くんと仲良くしてることが、園田(そのだ)くんにバレても良いし』

「……はい、これ。衣彩(いさ)の連絡先。……それをどう使うかは、榊(さかき)次第だけど」
 七海(ななみ)はメアドの書かれた紙を握らせてきた。
 俺は、その紙をじっと見つめた。