「絶対に死なないでね」と、君がそう言ってくれたから。〜未来へ進むため、僕と彼女の一歩目~

 それから、阿久津(あくつ)は、よく校舎裏に来るようになった。
 毎日は来ない。
 女子の友達と食べたい時もあるんだろう。
 それか、仕事を頼まれたか。
 阿久津(あくつ)は、頼まれた仕事はあまり断らない。
 それについて聞いたら、
「頼んできた子に申し訳ないじゃん?……私のこと、信頼してくれているわけだし」
 という答えが返ってきた。
「もちろん、どうしても無理なものは断るけどね」
 阿久津(あくつ)は、生徒だけでなく、先生からの信頼も厚い。
 頼んだら、早く、的確に仕事をこなしてくれるからだろう。
 すごいと思う。
 でも、きっと裏では、ものすごく努力しているんだろうな、とも思う。
 ……兄貴みたいに。
「――へえ。じゃあ、榊(さかき)くんって、絵描くのが趣味なんだ」
「うん、まあね。……美術部には、入ってないけど」
 絵を描くのは好きだけど、なんとなく、部活は違うと思った。
 兄貴はテニス部で、大会で優勝したりもしている。
「良いじゃん。趣味があるのって」
「……阿久津(あくつ)さんは?趣味とか、ないの?」
「うーん……。趣味、ね……。今は、ないかな。昔は、裁縫とか好きだったんだけど」
「……そう、なんだ」
 阿久津(あくつ)は、時々暗い顔をする。
 理由は知らないし、知ろうとも思わない。
 面倒になるだけだ。
 ……俺はまだ、阿久津(あくつ)のことを信用しているわけではないから。
 もし、今後、自殺を選ぼうと思った時、“友達”がいたら、悲しませてしまうだろう。
 だから、なるべく友達はつくりたくない。
 ……でも、阿久津(あくつ)と話すのは、楽しかった。
「ごちそうさまでしたー。……じゃあね、榊(さかき)くん。私、稜乃(いつの)と図書室行くから。またね」
「うん、また……」
 去っていく阿久津(あくつ)の背中を見つめる。
 そういえば、最近、俺へのいじめがマシになってきている気がする。
 なにかあったのだろうか。
「……あ、そうだ」
 ふと、なにか思い出したかのように立ち止まる。
 そして、振り返って俺を見る。
「……前にさ、なんで榊(さかき)くんに構うのか、聞いてきたことあったでしょ?」
「あー、うん」
「それで、私、榊(さかき)くんが壊れそうだったから、って答えたじゃん?」
 あの屋上での出来事だろうか。
「……それもあるけど……。ほんとは、もっと違うことが理由なんだ」
 少し遠い目をしている阿久津(あくつ)。
 俺は、そんな阿久津(あくつ)をじっと見つめる。
「自分のため、だから」
「……阿久津(あくつ)さんのため?」
 俺に構うのが、阿久津(あくつ)のためになる?
 理解できなかった。
「……ただの罪滅ぼし、かな」
 罪滅ぼし……?
「……ごめん。忘れて良いよ。またね」
 その後の昼休み、校舎裏のベンチで一人、その言葉の意味を考えていた。
 でも、答えは浮かばなかった。