「絶対に死なないでね」と、君がそう言ってくれたから。〜未来へ進むため、僕と彼女の一歩目~

「……ねえ、榊(さかき)くん」
「阿久津(あくつ)さん……」
「昼休み、死ぬつもりだったでしょ?」
 放課後。
 屋上から飛び降りよるため、フェンスに足をかけようとしていたところを、呼び止められる。
 ……やっぱり、気づいてたんだ。
「だから、君を教室で見た時、安心したんだよ。『良かった、死んでない』って。……でも、また屋上に向かってたから、思わずついて来ちゃった。私のその判断は、間違ってなかったね」
 ちゃんと後ろを確認しておけば良かった。
 どうせ、俺のことなんて誰も見ていないだろうと思って、油断していた。
「……死ぬの?」
「……そのつもりだけど」
「ダメだよ」
 真っ直ぐに俺を見つめてくる。
 思わず目を逸らす。
「……なんで、そんなに俺に構うの?」
「言ったでしょ?榊(さかき)くんが壊れそうだったから」
 なんとなく、それだけではない気がした。
 俺が壊れそうだったとしても、そこまで干渉してくるものなのだろうか。
「……死ぬのはダメだよ」
 そりゃ、普通の人はそうだろうな。
 しかも、相手はクラスの人気者で、頭が良くて、全部完璧。
 生まれた時から、勝ち組な人。
 そんな人に、俺の気持ちなんて分かるはずがない。
「……ねえ、榊(さかき)くん。私の友達になってよ」
「友達……?」
「そう。榊(さかき)くん、どうせ、今友達いないでしょ?」
 阿久津(あくつ)と友達になるなんて、許されない。
 園田(そのだ)からのいじめが、彼女にまで及んだら、もう耐えられない。
「……私は、もし榊(さかき)くんと仲良くしてることが、園田(そのだ)くんにバレても良いし」
「簡単に言うなよ……」
「……そういう運命、ってことでしょ?受け入れるよ」
 なにも言っても、伝わらないと思った。
 きっと、人生で一度もいじめられたことがないんだろう。
 だから、簡単に、バレても良いなんて言える。
「……毎日が、地獄だよ」
「それくらい分かってるよ!……分かってるよ。私だって……」
 苦しそうに顔をゆがめる阿久津(あくつ)。
 でも、すぐに笑顔になる。
「……私は、榊(さかき)くんと仲良くなりたいの」
「俺と仲良くなっても、別になにもないと思うけど。勉強も運動もできないし。七海(ななみ)さんとかと話してるほうが楽しいんじゃない?」
「それは、そうかもしれないけど……。でも、私が榊(さかき)くんと仲良くなりたいのは、楽しくおしゃべりしたいとかじゃなくて、ただ……」
 それ以来、阿久津(あくつ)は無言になってしまう。
 楽しくおしゃべりしたいわけじゃないって……。
 それ、友達になる気あるのかよ……。
「……俺が壊れそうだから?」
「………………それだけじゃ、ないんだけど……」
「じゃあ、なに?」
「……なんでもない」
 阿久津(あくつ)が、なにかを隠しているのは、明らかだったけど、それを追求したいとは思わなかった。
 知っても、意味なんてないだろうから。
「……昼休み、校舎裏のベンチで昼食一緒にとるくらいなら、まあ……」
「ほんと⁉ありがと、榊(さかき)くん」
 ――それは、ひまわりのような笑顔だった。