オネエの同級生にスキンケアを叩き込まれています


   《SIDE 久礼日向》


「よく抜けられたわね」
 よほど家が近いのだろう。
 三木さんと冨塚さんがソファに座っていた。
「疲れてるみたいなんで、寝るように勧めてきました」
「久礼くん、本当によくやったよ。送ってくれた動画、かなり有力な証拠になると思う。何よりも、私の可愛い勇ちゃんを守ってくれて、本当にありがとう。ここまで体を張ってくれるなら、アナタのこと信じられそう」
 三木さんに両手を掴まれて、ブンブンと激しく上下に振られた。
「こちらこそ、すぐに要注意人物の画像を送ってくださってありがとうございます」
「それはあっちに言ってやって」
 冨塚さんが横を指した。
 カップを片手に現れた旭さんが、ソファに座った。三木さんを真ん中に三人が座る恰好になる。
「いいよいいよ。理由も書かずに、要注意人物リストだけ送りつけて悪かった。全部勇との補習前に確認してくれたんだろ? 座ったら」
 勧められるまま、一人掛けソファに座った。
「ありがとうございます。今のうちにスマホを充電したいんですけど、いいですか?」
「テレビ台のとこにあるから、空いてるコードを適当に使って」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 俺はポケットに移動したスマホを取りだすと、コードを差してコンセントのオフをオンにした。充電中なのを確認して、ソファに戻る。
「始さんは?」
「お前に貸す新品の下着がないから、適当なのを買ってくるって出掛けたよ。一ヵ月ほど勇の元気がなかったんだけど、この一週間見違えるように回復してさ。そんな時にお前が現れただろう。始兄さんも母さんも、お前のお陰だって、恩返ししたいんだよ。よかったな。今日、父さんが出張で。いたら、どうなってたか」
「お気遣いありがとうございます」
「そういえば、さっきから話し方が変じゃない? 全然オネエじゃないんだけど」
 三木さんが、冨塚さんと旭さんを見遣った。
「つまり、どちらかが偽りなんだろ? ってことは、真剣な話をする今が素なんじゃないの」
 さすがは冨塚さんだ。
 俺がユウに一目惚れしたのに気づき、けん制をかけてきただけある。
 あの時、冨塚さんは俺がリストにある人物かも確認していた。
「今が素です。オネエと思われた方が生活しやすいんで、外ではオネエ言葉をなんです。あと、ユウは俺をオネエと誤解してます。だから、気が楽なんでしょうね。一番俺に反発してきますから」
「反発する勇ちゃん、可愛いよね。わかるわ~」
 三木さんが前のめりになって、何度も頷いた。
「日向くんにはお願いがあるんだ」
 旭さんがニコリと微笑んだ。
 完全に作り物の笑顔だ。
 それに、髪や肌の手入れも行き届いていて、身だしなみも整えている。素人にはバレない程度のナチュラルメイクも上手い。自己プロデュースが完璧だ。
 美人な自分の使い方をちゃんと理解している。
「ヤツらの言葉を聞いて、大体勇に起きたことは把握出来てるよね」
「大枠だけですけど。旭さんたちはどこで知ったんですか?」
「タレコミ」
「嘘をつくなよ。様子がおかしいからって、一番口割りそうなヤツがたまたま勇と昔親しくて、電話番号を知ってたから脅したんだろが」
 冨塚さんの訂正がすべてなんだろう。
「それはさておき、母さんや父さんに聞かれたら、学校に殴り込みレベルの話だからね」
「始さんは知ってるんですか?」
「感づいてはいると思う。親より先にちゃんと話して、親の暴走を止める側になってほしいんだけど、あまり早く話してしまうと始兄さんが暴走しそうなんだよね。末っ子って、なんだかんだって一番可愛いし、甘やかしてきたからね」
「それで?」
 俺はキッチンから聞こえる何かを炒める音に、耳を澄ませた。
 匂いからして、これがメインだと思うんだよな。
 だとしたら、こうして四人で話せる時間は残り僅か。
「俺たちはリストにあるヤツらを社会的に抹殺したい。とはいえ、学生に出来ることなんて、自主退学せざる状況に追い込むことなんだけど、そのためには勇の証言が必要なんだ。悪いけど、勇のクラスのグループメッセージは勝手に見させてもらって、コピーも取ってある。画像や動画、全部な」
 ああ、やっと旭さんたちの言いたいことがわかった。
 俺は姿勢を正したまま、三人の顔を窺った。
 三木さんは好戦的、ここにいるってことは冨塚さんも賛成派か。
「アイツら馬鹿だから、もうデータを流失してるんだよ。勇を襲い損ねたのと、勇が逃げ込んだ先で、襲われることを知ってて、勇が未遂で逃げたのを残念だと笑ったヤツの二つがな。この事件は未遂だ。だから、被害者の勇の口から公表してほしいんだ。どっちにしろ、受けた心の傷は消えないんだし、ずっと背負っていくことになる。だったら、少しでも怯えずに生きてほしいだろ。日向くんはどう思う?」
「……俺は……考えさせてもらっていいですか?」
 喉がカラカラに渇く。
 脳裏にチラつくのは、アイツらに会ってから、服の上から体を掻くユウだった。
 多分、無意識なんだろう。
 首筋や鎖骨当たり、肩や両腕を、ずっと掻いていた。
「うん。簡単に答えがでる話じゃないからね。でも、キミは勇のことが好きなんろう?」
「……一目惚れです」
「どっちを選んでも、勇を一生支える気がないなら、とっとと勇を諦めてほしいな」
「うわっ! 怖~っ」
 おどけた冨塚さんが立ちあがった。
「じゃあ、俺たちも帰るか」
「そうね。これ以上ここにいたら、また『七見さんちの子になりなさい』ってキレられるわ」
 三木さんも立ち上がる。
 炒め物の音が聞こえなくなっていた。
 ただ一つ、ハッキリと旭さんたちに言えるのは、訊かれる前からユウを離す気がないってことだけだ。