どうしたら、俺と日向の仲が良く見えるのか?
食べ終わった頃、自動でお風呂の湯が用意された音楽がキッチンに流れた。
駅の発車メロディーみたいなそれに、母さんが「お風呂、一緒に入ったら?」と、日向込みで俺に風呂を勧めてきた。
温泉みたいな大きな風呂じゃないし、いい歳して一緒に風呂は兄弟でもないのに、赤の他人と一緒は無理だろと日向を見たら、「はい、ありがとうございます」と即答で裏切りやがった。
着替えを一式持って、俺と日向は脱衣場に入った。
こんな体、本当だったら絶対に見られたくないし、触れられたくない。
けど、相手はオネエで、俺は恋愛対象外だ。
スキンシップが異常だけど、襲われる心配はない。
俺は引き出しからタオルを二つ取りだして、一つを日向に渡した。洗濯機の上の備え付けの棚にあるプラスチックケースから、適当に洗濯ネットを取りだして、それも日向に渡す。
「着替えはここにおいて、母さんが日向のはすぐ洗うって言ったから、この洗濯ネットに洗うもの一式入れて、洗濯機の中に放り込んで」
「乾燥機つきなのね」
日向がドラム式乾燥機のボタンに触れた。
「でなきゃ、明日に間に合わないだろ。さっさと風呂入って勉強しようぜ」
提出が必要な宿題は出てないけど、教師にノートを覗かれやすい席だから、当たらなくてもやってないとバレてしまう。
俺はボタンを外してカッターシャツを脱ぐと、インナー用のシャツを脱いだ。ベルトごと脱いだスラックスは明日も履くから着替えの横に置く。
そこまで脱いで、俺はボタンを途中まで外したまま、手を止めている日向に気づいた。
考え事をしているのか、こっちを見て固まっている日向に「どうした?」と声をかければ、「えっ」と聞き返された。
「『えっ?』はこっちだよ。何ボーッとしてんだよ」
「それって……どうしたのかなって?」
「それって何?」
俺は小さな空間を見回した。
「いや、なんでもないわ」
日向が顔を横に振った。
「そっ?」
靴下を脱いで、パンツに手をかけた。
「あっ、そうだ。日向って男に肌見られて大丈夫なタイプ?」
「どういう意味?」
「オネエって色々タイプあるじゃん。同性に肌を見られると恥ずかしいとかさ」
「それはないわ」
「ならいいわ」
「あっ!」
突然の大声に、俺はビクッとした。
「なんだよ、いきなり」
「ユウの髪を梳くのを忘れてたわ?」
日向が心底残念そうに息を吐いて、両手で俺の髪をワシャワシャしてきた。
「なんだよ一体。髪なんて、起きた時梳けばいいじゃん」
「起きた時もだけど、風呂に入る前と後も大切なの。せっかく泊まれるんだから、手に入るアイテムは全部使ってユウを手入れしまくるつもりだったのに……。突然のお泊りだもの、浮かれてアクシデントの一つや二つ、起きて当たり前ね」
「お前がいること自体がアクシデントだけどな」
「あらヤダ。ドキドキは恋愛のスパイスよ」
「なんだよ、それ」
俺は笑ってパンツを脱ぐと、洗う物をまとめてプラスチックの籠に入れた。
「あらヤダ。ユウって靴下を丸めたまま洗い物にだす子なのね」
「人の観察する前に脱げよ。先言ってるから」
俺は自分のタオルを持って、風呂のドアを開けた。
家庭用サイズの風呂に男二人で浸かる場合、どういう体勢が正解なんだろうか。
俺が足を伸ばして浸かっていると、少し遅れて日向が現れて、風呂から桶で湯を組んで体にかけると、俺の前に入ってきた。
現在、俺は体育座りで、日向は俺の横に足を伸ばしている。
「ユウってば、お風呂の入り方がとっても可愛いのね。小動物らしいわ」
「お前こそ、俺が遠慮して場所を避けてやったら、こっちまで足を伸ばしやがって。態度がデカすぎだろ」
「じゃあ、ユウもこっちに足を伸ばせばいい」
「伸ばしたら体に足が当たるじゃん」
俺は自分の腿横に当たっている日向の足を叩いた。湯の中だから、全然痛くないだろうけど、やられっぱなしは癪に障る。
「どっちから体洗う?」
俺は日向の顔に向かって、ちょっとだけ湯をかけた。
「やることがお子様すぎでしょ」
日向が両手を使って俺に湯を飛ばしてきた。
もろに顔にかかった湯を、俺は両手で拭った。
「ちょっと待って! これはかけすぎだって。俺、ちょっとしかかけてないじゃん」
「やられたら三倍返しに決まってるでしょ」
「一〇倍の間違いだろ?」
「絶対に三倍よ。やった本人が言うんだから、間違いないわ。体は日向が先に洗いなさい。ワタシ、どれを使っていいかわからないから、日向のを見てからにするわ」
言われて、それもそうだなと納得した俺は、風呂から出ると、風呂椅子をシャワーの下に移動させ、それに湯をかけてから座った。
「ここのがシャンプーとかで、多分どれ使ってもいいと思う。俺はリンスインシャンプー一回で終わらせるけど、旭兄と母さんはこっちのシャンプーとコンディショナーで、時々パックとかいうこれも使ってる。ボディソープは泡タイプのと液体タイプがあって、洗顔はこれ」
一通り説明して、俺はリンスインシャンプーに手を伸ばした。
途端、立ち上がった日向に取り上げられた。
「どおりでボサボサなのがわかったわ。今日からリンスインシャンプーは卒業。こっちのジャンプ―とコンディショナーにしましょう。でも、今日はコンディショナーでなくヘアパックね。それと、洗顔はこっちにしましょうか。ボディソープをしっかり泡立てて使ってるなら液体タイプでもいいけど、それは様子見しましょうね」
日向が次々選んで、俺の前に並べていく。
「俺、洗顔使わないんだけど」
「今日から洗顔デビューしなさい! ここまでダメダメだったなんて……。今日は洗顔だけのつもりでいたけど、頭の洗い方まで気になってきたわ。とにかく、今日はなるべく口を挟まないから、試験だと思って洗いなさい」
「もう本当に無理。お前と風呂に入るってなんてから、こうなることは予想出来てたんだよ」
俺は背中を丸めて途方に暮れた。
オネエの口約束は裏切るためにある。
俺はそれを実感した。
もう煩いのなんのって。
初めての洗顔で、チューブの出す量や泡の立て方、泡を肌にのせる方法に流し方まで煩いのなんのって、洗顔だけで湯冷めしてきた。
次のシャンプーとも、指を立ててないとか、頭皮を洗えとか言われた。途中から日向が手を伸ばしてきて、見本だとちょっと痛いくらいに頭を揉まれた。
シャンプーの流しも煩く言われた後のヘアパック、シャンプーと同じようにやればいいと、適当に手に取って髪になじませてから、ガシガシと指で頭皮を揉んだら叱られた。
もはや、意味がわからない。
最後はボディソープだ。
これで苦行は終わる。
俺は洗った感が強い液体タイプのポンプの下に濡れたタオルを持ってくるとプッシュを始めた。
食べ終わった頃、自動でお風呂の湯が用意された音楽がキッチンに流れた。
駅の発車メロディーみたいなそれに、母さんが「お風呂、一緒に入ったら?」と、日向込みで俺に風呂を勧めてきた。
温泉みたいな大きな風呂じゃないし、いい歳して一緒に風呂は兄弟でもないのに、赤の他人と一緒は無理だろと日向を見たら、「はい、ありがとうございます」と即答で裏切りやがった。
着替えを一式持って、俺と日向は脱衣場に入った。
こんな体、本当だったら絶対に見られたくないし、触れられたくない。
けど、相手はオネエで、俺は恋愛対象外だ。
スキンシップが異常だけど、襲われる心配はない。
俺は引き出しからタオルを二つ取りだして、一つを日向に渡した。洗濯機の上の備え付けの棚にあるプラスチックケースから、適当に洗濯ネットを取りだして、それも日向に渡す。
「着替えはここにおいて、母さんが日向のはすぐ洗うって言ったから、この洗濯ネットに洗うもの一式入れて、洗濯機の中に放り込んで」
「乾燥機つきなのね」
日向がドラム式乾燥機のボタンに触れた。
「でなきゃ、明日に間に合わないだろ。さっさと風呂入って勉強しようぜ」
提出が必要な宿題は出てないけど、教師にノートを覗かれやすい席だから、当たらなくてもやってないとバレてしまう。
俺はボタンを外してカッターシャツを脱ぐと、インナー用のシャツを脱いだ。ベルトごと脱いだスラックスは明日も履くから着替えの横に置く。
そこまで脱いで、俺はボタンを途中まで外したまま、手を止めている日向に気づいた。
考え事をしているのか、こっちを見て固まっている日向に「どうした?」と声をかければ、「えっ」と聞き返された。
「『えっ?』はこっちだよ。何ボーッとしてんだよ」
「それって……どうしたのかなって?」
「それって何?」
俺は小さな空間を見回した。
「いや、なんでもないわ」
日向が顔を横に振った。
「そっ?」
靴下を脱いで、パンツに手をかけた。
「あっ、そうだ。日向って男に肌見られて大丈夫なタイプ?」
「どういう意味?」
「オネエって色々タイプあるじゃん。同性に肌を見られると恥ずかしいとかさ」
「それはないわ」
「ならいいわ」
「あっ!」
突然の大声に、俺はビクッとした。
「なんだよ、いきなり」
「ユウの髪を梳くのを忘れてたわ?」
日向が心底残念そうに息を吐いて、両手で俺の髪をワシャワシャしてきた。
「なんだよ一体。髪なんて、起きた時梳けばいいじゃん」
「起きた時もだけど、風呂に入る前と後も大切なの。せっかく泊まれるんだから、手に入るアイテムは全部使ってユウを手入れしまくるつもりだったのに……。突然のお泊りだもの、浮かれてアクシデントの一つや二つ、起きて当たり前ね」
「お前がいること自体がアクシデントだけどな」
「あらヤダ。ドキドキは恋愛のスパイスよ」
「なんだよ、それ」
俺は笑ってパンツを脱ぐと、洗う物をまとめてプラスチックの籠に入れた。
「あらヤダ。ユウって靴下を丸めたまま洗い物にだす子なのね」
「人の観察する前に脱げよ。先言ってるから」
俺は自分のタオルを持って、風呂のドアを開けた。
家庭用サイズの風呂に男二人で浸かる場合、どういう体勢が正解なんだろうか。
俺が足を伸ばして浸かっていると、少し遅れて日向が現れて、風呂から桶で湯を組んで体にかけると、俺の前に入ってきた。
現在、俺は体育座りで、日向は俺の横に足を伸ばしている。
「ユウってば、お風呂の入り方がとっても可愛いのね。小動物らしいわ」
「お前こそ、俺が遠慮して場所を避けてやったら、こっちまで足を伸ばしやがって。態度がデカすぎだろ」
「じゃあ、ユウもこっちに足を伸ばせばいい」
「伸ばしたら体に足が当たるじゃん」
俺は自分の腿横に当たっている日向の足を叩いた。湯の中だから、全然痛くないだろうけど、やられっぱなしは癪に障る。
「どっちから体洗う?」
俺は日向の顔に向かって、ちょっとだけ湯をかけた。
「やることがお子様すぎでしょ」
日向が両手を使って俺に湯を飛ばしてきた。
もろに顔にかかった湯を、俺は両手で拭った。
「ちょっと待って! これはかけすぎだって。俺、ちょっとしかかけてないじゃん」
「やられたら三倍返しに決まってるでしょ」
「一〇倍の間違いだろ?」
「絶対に三倍よ。やった本人が言うんだから、間違いないわ。体は日向が先に洗いなさい。ワタシ、どれを使っていいかわからないから、日向のを見てからにするわ」
言われて、それもそうだなと納得した俺は、風呂から出ると、風呂椅子をシャワーの下に移動させ、それに湯をかけてから座った。
「ここのがシャンプーとかで、多分どれ使ってもいいと思う。俺はリンスインシャンプー一回で終わらせるけど、旭兄と母さんはこっちのシャンプーとコンディショナーで、時々パックとかいうこれも使ってる。ボディソープは泡タイプのと液体タイプがあって、洗顔はこれ」
一通り説明して、俺はリンスインシャンプーに手を伸ばした。
途端、立ち上がった日向に取り上げられた。
「どおりでボサボサなのがわかったわ。今日からリンスインシャンプーは卒業。こっちのジャンプ―とコンディショナーにしましょう。でも、今日はコンディショナーでなくヘアパックね。それと、洗顔はこっちにしましょうか。ボディソープをしっかり泡立てて使ってるなら液体タイプでもいいけど、それは様子見しましょうね」
日向が次々選んで、俺の前に並べていく。
「俺、洗顔使わないんだけど」
「今日から洗顔デビューしなさい! ここまでダメダメだったなんて……。今日は洗顔だけのつもりでいたけど、頭の洗い方まで気になってきたわ。とにかく、今日はなるべく口を挟まないから、試験だと思って洗いなさい」
「もう本当に無理。お前と風呂に入るってなんてから、こうなることは予想出来てたんだよ」
俺は背中を丸めて途方に暮れた。
オネエの口約束は裏切るためにある。
俺はそれを実感した。
もう煩いのなんのって。
初めての洗顔で、チューブの出す量や泡の立て方、泡を肌にのせる方法に流し方まで煩いのなんのって、洗顔だけで湯冷めしてきた。
次のシャンプーとも、指を立ててないとか、頭皮を洗えとか言われた。途中から日向が手を伸ばしてきて、見本だとちょっと痛いくらいに頭を揉まれた。
シャンプーの流しも煩く言われた後のヘアパック、シャンプーと同じようにやればいいと、適当に手に取って髪になじませてから、ガシガシと指で頭皮を揉んだら叱られた。
もはや、意味がわからない。
最後はボディソープだ。
これで苦行は終わる。
俺は洗った感が強い液体タイプのポンプの下に濡れたタオルを持ってくるとプッシュを始めた。

