本借りるだけでデートするとかマジですか?

 理解が追いつかないまま、弁当箱を見つめる。見てたから?ずっと見てたから?頭の中で復唱してみても、イマイチピンと来ない。
 こんなに考えている俺を他所に、賢吾は目の前で卵焼きを大きな一口で頬張っている。体がでかいと口もでかいみたいだ。
 頬袋を膨らませて咀嚼する賢吾は、俺を見るなり、恥ずかしそうに口を手で隠した。

「そのカーディガン。毎日着てくれてるね」
「買ってもらったからな」
「嬉しい。似合ってるよ」

 ほわほわという効果音が似合いそうなくらいには、嬉しそうに笑う賢吾は、なんだかもう今までの賢吾じゃない。もっと硬くて、壁があって、よく分からない男だったはずだ。

「そうだ。この間俺が受付にいなかった時何冊借りたの?」
「え......え......っと」

 回らない頭を必死に動かして、当時の俺を思い浮かべる。
 いつも受付には賢吾が座っているけれど、一度だけPOP作りに駆り出されて不在の時があった。その時は、シリーズものを借りたから......

「確か、三冊とかだったかな」

 辛うじて白米が一口入った口で、もごもご答えると、賢吾は残念そうに肩を落とした。

「......次の券までまだまだかかるな」

 かわっ......いくないッ!!!
 落ち着け俺。これは、賢吾だ。ふわふわの女の子じゃなくて、俺よりも背が高くてゴツゴツした男だ。それに俺はもう恋愛しないって決めただろ。
 でも、そんな顔をされたなら。

「賢吾。お前チェキ売る気あるか?」


※


「はぁ?早柚ちゃんも陽菜乃ちゃんもいない!?」
「はい。長浜先輩と睦海先輩、今日掲示板の更新に行ってます」

 俺はあからさまにため息を着いたあと、切り替えるように図書委員の一年に礼を告げて、図書室を後にした。
 手元にある賢吾とのチェキをあの券に交換出来ないかと交渉するため、早柚ちゃんたちに会いに行ったのに、掲示板の方にいたなんて。
 掲示板なら、このまま突き当たり右で、そのあと――。
 内巻きに巻かれたツヤツヤのボブヘアと、高い位置で結ばれたポニーテール。あの後ろ姿は。

「っ......早柚ちゃん!陽菜乃ちゃん!」

 上がる息の合間に出た声はあまりにも余裕がなく、掲示板を可愛くデコっている二人が振り返るなり、ケタケタ腹を抱えている。
 なんとか言ってやりたかったが、まずは自分の生存の方が先だ。ツキツキと痛む肺を労り、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。動きを止めるなり、吹き出してくる汗は形容しがたい不快感を連れてくる。
 俺の呼吸が落ち着くなり、涙を流しながら笑っている二人が、また俺を見て笑う。おい。いい加減黙らんかい。

「あははは!そんな必死そうなさく初めて見たぁ。ふっははは!」
「早柚ちゃんやめて......っはっははは!!なんか笑いとまんない」
「お前らなぁ」

 呆れる俺を見るなり、笑いを堪えようと可愛い顔が崩れていく早柚ちゃんと陽菜乃ちゃん。あぁ。ここに、この二人に強く幻想を抱く男達がいなくて良かった。こんな表情を見ようもんなら倒れてしまうに違いない。
 それでも何となく不安で、早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんを隠すために、囲うようにして掲示板と俺の間に挟み込んだ。傍から見たら、女二人を壁に押しやっている変な男として映るだろう。
 ツボっている早柚ちゃん達を他所に、目の前に掲示板を眺める。

【先週のデート券を使った人達♡】

 掲示板に書かれた文字を見てゾッとする。そこには、俺と賢吾の他に、三組の写真が貼られていたのだが――。
 プリクラを撮っていたのは俺たちだけだった。
 笑いが落ち着いた乙女二人が、暑い!と俺の胸板を叩き始めたことで、ようやく距離を取る。だけど、貼られたプリクラから目を離せないでいた。
 それに気がついた早柚ちゃんが、ジト目で俺に近寄ってくる。

「比嘉くんと付き合ってたりは......」
「しねぇよ」
「なぁんだ!!!今までデート券でプリ撮ってきた組いなかったから〜」

 素直に残念がる早柚ちゃんを見て、なんでか焦燥感に駆られる。
 なんだこれは。
 とりあえず、何か反論?いや、無実?なにかを証明しないと。そう体が騒ぎ立てている。瞬きが多くなってることを自覚し始め、落ち着かず首筋をさすった。

「その写真渡す時賢吾が理由喋ったんだろ?」
「ん?理由?プリ撮った?」
「そうだよ。それ以外何があんの」
「私たち比嘉くんには、何も言われてないよ?強いていえば――」

――『朔也くんとプリクラ撮ってきました』
『え!?プリ!?比嘉くんでかした!!ひなちゃん見て見て!!』
『ぶっ!朔也プリ似合わないね』
『あ、あの......もう一枚は俺にください』

「は?」
「それしか言われてないよ。片割れは比嘉くんが持ってる」

 頭が処理しきれず重くなっていく。
 視界に黒いモヤがかかりだして、クラッシュ寸前だと知るには十分すぎた。
 確かあの時、困ってる女子高生に気がついて助けたら、プリクラ撮りましょうって言われて、お互い二人組ってこともあり、二回撮ることになった。そこまでは良くて。めんどかったけど、いい。
 俺たちが持ち帰る方の機種で撮っていた時、選択画面でどの写真にするか悩んでいると、賢吾が制限時間ギリッギリで俺とのツーショットを選んだ。
 そのせいで、俺たちのツーショプリがこの世に誕生してしまった。
 この話をなんであいつは黙ってんだ?普通に話さないと、俺と賢吾がただプリクラ撮った奴になるぞ?
 賢吾が、何を考えているのか分からない。