本借りるだけでデートするとかマジですか?

「え!さく何そのカーディガン!可愛い!!」
「そだろ〜」
「どこで買ったの〜?」
「内緒〜」
「あ〜高いんだ〜」

 高いけど、俺払ってねぇんだよなぁ......。強制デートと言うべきか、ただのファッション講座だと言うべきか。
 とりあえず、休日のお出かけが終わり早一週間。
 俺の周りでちょこまか騒いでる早柚ちゃんを、いつも通り交わす日常に安心感を取り戻してきたけれど――。やっぱり女の子はいい匂いだし可愛いねぇ。
 菩薩の心で、机に頬ずえをつく。目を限界まで細めて微笑んでいるけれど、俺が見ているのは早柚ちゃんじゃない。その後ろに若干映る大きな背中だ。
 あれは絶対本読んでんな。
 机横にかけているトートバッグから、読みかけの本を引っ張り出し、席を立った。早柚ちゃんが着いてこようとするのを、何となく交わし、目線の先へ進む。
 集中している賢吾の肩を軽く叩き、瞬時に背後へ隠れると、キョロキョロ辺りを見回して無表情なりに、困惑の色が滲み出ていた。

(こんなのに引っかかるのかよ)

 まっさらな心臓をブラシで擦られているみたいなくすぐったさに、名前が付きそうで付かない。俺はこの一週間、考えては逸らすなんて時間を過ごしていた。だってこの感情はきっと良くない。
 再び本を見てしまった賢吾の姿に、内心面白くないと思ってしまった。
 大袈裟に足音を立て、賢吾の前に回り込む。眉をあげた賢吾が、本にすぐさま栞を挟んだ。

「朔也くん。どうしたの?」
「昼飯どこで食うの」
「え、普通に教室だよ」
「先約は?」
「居ないよ」
「ついてこい」

 勝手にロッカーから賢吾がいつも使ってる保冷バッグを持ち出し、賢吾が読んでた本と一緒に抱えさせる。着いてくることを知っている俺は、後ろも向かずただ先陣を切った。
 誰も使うことがない第二校舎に繋がる渡り廊下を渡ったところで、二つ分の足音しか聞こえなくなった。俺の音よりも少しだけ少ない足音は、賢吾の脚の長さを彷彿とさせる。
 しばらく廊下を歩き、ひとつの空き部屋の前で足を止めた。誰も入ってないことを確認し、扉を横にスライドさせる。
 カーテンの隙間から漏れ出る日光の光に、ホコリがキラキラと当てられている。

「ここ入っていいの?」
「いいよ。俺ここで毎日食べてるし」
「毎日?ここで?」
「うん。なんか不思議?」
「だいぶ、不思議。朔也くん人気者だし」

 長い足を折り曲げた賢吾は、床になんの躊躇もなく座り込む。足の上で弁当箱を広げる姿が、なんだかこじんまりしていて面白い。
 俺も弁当を広げて、食べ始めようとしたが、さっきの言葉が頭の中に鎮座していて箸が止まった。
 人気者ね。

「賢吾はさ」
「ん?」
「俺のどんなところが人気者だと思う?」
「え、いつも人が周りにいて、女の子にも人気があって、スポーツが出来て体育でも活躍してて、図書室で小説の分からないところとかちゃんと調べてたり、悪口とか言わなかったり、いつも笑顔に嘘がないところとか、そういう人としてモテてる努力が出来てるところが人気者だと思う」
「具体的過ぎない??」
「だってずっと見てたから」

 空腹だったはずの胃が一気に小さくなったのを感じる。
 栄養を求める体は美味しそうな匂いを敏感に察知していたはずなのに。
 今日は、全部食べ切れるか分からないな。