本借りるだけでデートするとかマジですか?

「父さんにもう一度だけ会ってあげてくれないかな......?嫌だとは思うんだけど」
「そ......れは、俺が会ってもいいのか?」

 ペアリング作りが無事に終わったものの、今日は予定が他になく、このままゆったりブラブラデートでもしようかという話になった。俺が覗きたい靴屋さんに行って一足手に入れ、賢吾が見たかった服屋さんにも偶然遭遇し、散々揉めた結果俺が会計を通すことに成功した。賢吾はその場で着てきたコートを脱いで、すぐに俺が買ったダッフルコートを嬉しそうに身にまとっては、数歩スキップしていた。
 こんな調子でブラブラ楽しむ間も、賢吾は俺の手を片時も離すことはなく、こんなに外は寒いのに俺たちの手のひらは驚くほど熱かった。
 時間も忘れてショッピングをしていたら、賢吾の腹の虫が鳴いたことで、時刻を確認することになった。
 十四時を回った頃で、遅めの昼食でもとるかなんて話し合い、今のカフェに入った訳だが――

「もちろん。父さんが朔也くんにこの間のこと謝りたいって言ってて......」

 まさかの賢吾のお父さんが俺に会いたがっているらしい。何を怒られるんだと身構えたが、この間の謝罪の方だったか。
 俺が悩んで何となくカウンターに目をやると、賢吾は何も悪くないのに申し訳なさそうな声を上げた。

「本当に自分勝手でごめんね。この事を残したままだと色々ダメな気がして、父さんと話し合う機会を作ったんだ」
「謝らなくていいよ。......うん」
「ありがとう......その話し合いで、朔也くんは本当に関係ないって話と、将来はファッションデザイナーの道に進もうと思ってるって父さんに伝えたんだ。それと同時に、次の進路も専門には進みたくないってことも、ハッキリ伝えてきた」
「へ?」

 この間の雰囲気を見た上で俺に謝りたいって話になっていたなら、次は専門なのかなって思ったのに。
 当たりをキョロキョロ見渡した賢吾は、まだ注文した品が来ないことを悟ったのか、少し姿勢を整えた。

「朔也くんは進学どうするか決まってるの?」
「俺は、大学行くってことくらいしか決まってないな」
「そっか......あのさ、僕もう一回朔也くんの事追っていいかな.............?」

 自信のない声色とは裏腹に、俺だけを見つめた意志の強さを感じる瞳のアンバランスさに酷く撃ち抜かれてしまった。
 賢吾が言うこの言葉は、絶対に軽くないし、冗談でもない。そんな瞳から目を背けることなんて俺には出来ない。

「ダメって言っても追っかけてくるだろ。賢吾は」
「ふはっ、そうだね。本気で拒絶されたら別だけど」

 強かった賢吾の目尻が、優しく垂れ下がり、首を傾げながら微笑んでいる。そのまま軽く俯いた賢吾は、落ち着いた声で話し始めた。

「ファッションデザイナーを目指すにあたって、持っておくと有利な資格は大学の期間内に全部取るって約束してきた。その後は、アパレル販売員とかアシスタントで下積みして、父さんが認めてくれたら雇ってくれるって」
「そうだったのか、......応援してる」
「え、ありがとう。だけどそれを条件として、朔也くんと同じ大学行くこと許してをもらったんだ」
「...............賢吾は、どれだけ俺に振り回されれば気が済むんだ?」
「いっぱい」
「はは、変なやつ」

 中学生から始まった賢吾の追っかけは、少なくとも大学までは続くのか。想像だけでどこか舞い上がっている自分がいる。重症だな。こんなストーカーみたいなことに、納得して喜んでるとか。
 俺も背を伸ばして、重心をテーブルに預けた。

「賢吾のお父さんに「大学でもよろしくお願いします」って言ったら殴られるかな?」
「も、もう大丈夫なんじゃないかな......?」
「「ふ、ふははは」」

 二人分の笑い声が、周囲に溶け込んで消えていく。
 顔をくしゃくしゃして笑う賢吾が愛おしい。愛おしいところが増えていく度に、賢吾の中でも増えていることを願ってしまう。
 これからは、賢吾だけが抱えていた分を、一緒に抱えて、悩んで、泣いて、笑って、怒ってしていきたい。

「ハンバーグランチBのお客様〜」
「はい!」
「うわ!賢吾のも美味そう!」
「ふふ、シェアする?」
「ん!する!俺の来たらしようぜ〜」

 また目が合って、同じ事で笑いを転がす。
 こういう何気ない日々をこれからも賢吾と過ごしていけたなら。
 口元を押さえる賢吾の右手と、そんな賢吾を指さして笑う俺の右手が、同じ輝きを放っていた。




 完結。