本借りるだけでデートするとかマジですか?

 受付にいる女子数名の奇声が、図書室にも関わらず響き渡る。周りの奴らは可愛い女子がキャッキャしている姿を拝みに来ているため、うるさくしても怒りはしない。
 早柚ちゃんが小走りで、後ろ髪を靡かせながら奥へと消えていく。
 隣に居る比嘉はというと、無表情を貫き通している。
 だろぉな。俺だって同じ気持ちだよ。

「はい!!チェキ担と一日デート券〜!!」
「......めっちゃ手が込んでる」
「そーだよ〜??図書委員頑張ってんだからありがたく使いなさい!」
「キラッキラじゃん」

 裏から出てきた早柚ちゃんは、ホログラムやラインストーンでゴテゴテに飾られた【デート券】とやらを手渡してきた。これを使ったやつはどれ程いるのか。若干冷めた目でキラキラの紙切れを見つめてみるけれど、テンションが全く上がらない。
 それを見兼ねた早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんが、俺に不平不満を投げてくる。

「何さ!嬉しくないの!?」
「私たち頑張って作ったのに!」
「いや、だって男二人で何すんだよ」
「そりゃ、水族館とかショッピングとか色々あるでしょーよ!ね?ひなちゃん!」
「そーだよ!!いいじゃん!!結婚したい男No.1の比嘉くんとだよ!?」
「は!?」

 驚きのあまり比嘉に勢いよく視線を送る。当の本人も目ん玉が飛び出そうな程驚いているので、恐らく今知ったのだろう。可哀想に......
 じゃなくて!!
 絶対【結婚したい男】の方がランク上じゃね!?俺、【付き合いたい】で止まってんだけど!?!?謎の敗北感と嫉妬心を胸に抱え、これ以上ここに居たくなく、チケットを早柚ちゃんに押し返す。

「俺はいらねぇ。本読みたいだけだし。他の女子にあげて」
「え、勿体なーい!!」

 盛り上がる受付に背を向けて歩き出す。何のための図書室だよ。どうせ賢朔とかいうやつが見たいだけだろ。
 そんな怒りは、いつしか指先にまで広がっていて、扉を閉める音が荒っぽくなってしまった。
 思わずため息を落とす。いつから図書室があんなことになったんだ。やるせない思いを抱えたまま、行き止まりを曲がろうとした。
 その時、聞き覚えのない大声が鼓膜をぶち抜いた。

「ぁ、あ!あのっ!この券......!一応本人しか使えないようになってて............」

 語尾に近づくに連れて覇気がなくなっていくそいつは、さっきチェキを撮った比嘉だった。大きな体全体で、苦しげに肩を上下させている。どれだけ急いだんだ。
 手元にはさっき俺が押し返したチケットが握られている。
 まさか追いかけられるなんて思っておらず、あからさまに声が詰まってしまった。

「えっ......と、じゃあ処分しといて」
「そ、それじゃあ、委員会のお、女の子達が可哀想です......が、頑張ってたんで」

 何故か食い下がってくる比嘉に、込み上げる苛立ちを飲み込む。持っていた本の表紙を一定のリズムで叩いて音を鳴らした。俺が日頃考え事をする時の癖らしい。早柚ちゃんが言っていたのをよく覚えている。

「なに?お前は俺とデートとか行きたいわけ?」
「ぃ、や......」
「な?やだろ?なら、今回は女子と行ってやって」

 ひらりと手を頭上にあげて、気だるげに左右へ動かした。
 これで会話終わり。入ってくんなと訴えるように。
 背を向けて一歩足を踏み込む。これで、面倒事は晴れて、ようやく中庭で本が読める。

「特典なんで行かなきゃ損ですよ」
「お、お前なんなの......?」

 声が低くて、背が高くて、無口で、なのに【結婚したい男No.1】のこいつが掴めない。
 俺はモテたいけど、付き合いたくはないし、デートもしたくない。ましてや男となんか。
 圧をかけるみたいに、早足でギリギリまで距離を詰め、睨みつける。身長差的に上目遣いみたいになるのが気に食わないけど。

「はぁ......これ、何回言っても引き下がらない感じ?」
「はい。権利なんで......」

 でも、義務じゃないだろ。首まででかかったけれど、何とか飲み込んだ。
 何を言っても伝わらない相手に、項垂れるように猫背になる。

「あ"ー!めんどくせぇ!わかった!一回だけな?次は行かねぇから」
「へ、あ、はいっ」

 大袈裟に嫌な態度をとったつもりで大声をあげたが、目の前の男には伝わっていなさそうだ。あからさまに泳ぐ瞳が、縮まっていく頬に対応できていない姿が、俺の心拍数を驚く速さで上昇させた。
 こいつ、喜んでんのか......?
 訳も分からず手を伸ばし、チケットを受け取った。いやほぼ奪い取ったも同然だ。
 奪い取り、その場から逃げたい一心で、歩幅を大きくしていく。
 教室に入るや否や、張り詰めた気持ちを解くみたいに、力なく自席で突っ伏す。あいつの、比嘉の無表情が崩れる瞬間を初めてこの目で見てしまった。

(んだよ......あんな弟みたいな顔しやがって)