「あの......ご予約されてるお客様でしょうか?」
「あ、はい!」
「ありがとうございます。では、少しお時間早いんですが、ご案内可能なのでどうぞ〜」
店の前で男二人、看板を眺めているだけという不審行動を見られていたらしく、今回のアクセ作り体験を担当してくれる定員さんが声をかけてくれた。
定員さんの後をついて行き、丸太デザインの可愛らしい椅子に案内され、内装を目で追いながら座る。
室内には金属が触れ合う甲高い音が鳴り響いていて、みんな小さな金槌を繊細に動かしていた。
こういうちまちまする作業は、俺に出来るか分からないけれど、自分のだし多少失敗しても大丈夫。
「朔也くん。これ、お互いの作って交換とかどう??」
すぐに言葉が出なかった。
今自己完結したばっかりなんですけどね!?!? フリスビー持ってきた犬みたいに得意げな顔してるけど、手先器用なの賢吾だけだからな!?!?
止まっていた呼吸を無理やり動かし、俺は菩薩の笑顔を浮かべる。
「そーだな。俺は、手先が器用じゃねぇから、多分歪になるし各々自分の分作らないか?せっかく作るんだし、賢吾だって完成度高い方がいいだろ?」
「僕は、朔也くんが作ってくれたものならなんだっていいよ。歪なのもオシャレだよ」
――【ですよね】
こいつならそういうと思ったわ。
一応理性を使って、賢吾に背を向け軽く息を吐く。
いや、どれほどの出来になるかわかんないし。今月のバイト代全飛びの可能性だってあるし。
ぐるぐる余計な考えが頭を過ぎるけれど、賢吾を見るとその考え達が撲滅されていく。
もー知らん!!
「損しても知らないぞ!?知らないからな!?言ったからな!?」
「ッ!うん!うん!聞いた!言われた!」
「はぁー......」
どんなものができるんだ。特級呪物みたいにならない事を願おう。
「はーい。お待たせ致しました!それでは早速始めさせて頂きますね!」
分厚いファイルを持って、おっとりした笑顔で先程の定員さんが小走りでこちらへ来た。
目の前にファイルを広げられると、デザイン表が分かりやすく並んでいる。思っていた以上に種類があって、賢吾と顔を合わせ思わず吹き出してしまった。
「まずはこちらの中からデザインをお選び頂きます。その後にこちらのリングゲージを使って指のサイズを正確に測っていきます」
「分かりました。賢吾どれにする?」
「僕はシルバーがいいなぁ。槌目っての可愛い」
「あーわかる。槌目可愛いな。俺ゴールドにしよっかな〜」
俺達はあーだこーだファイルを見たり、実物サンプルを触ってみたりして、何とか決め切ることが出来た。
俺はゴールドのカーブデザインにし、賢吾はシルバーの槌目デザインにすることにした。お揃いのデザインも考えたけれど、指輪の内側に刻印が出来ると聞いて、デザインは私服との兼ね合いで決めることになった。
それと、思っていた通りしっかり良いお値段で、二人して鳥肌を作ったのはここだけの話だ。
「素敵なリングになりそうですね!では、続いて指のサイズを測っていきます!」
様々なサイズのシンバーリングが連なったリングゲージを受け取り、家にあるサイズを記憶の中から掘り起こす。確かこのくらい......だった気がする。
十四号を掴み、それ以外を振り下ろし右手の薬指にはめると、一発ジャストフィット。
「普段からピッタリめがお好みですか?」
「そ......うですね。動かないくらいが好きです」
「かしこまりました。そうしましたら、こちらの十四号で進めていきましょう」
「お願いします。はい。次賢吾」
「ありがとう〜」
賢吾に手渡すと、リングゲージを凝視して、一つ一つはめていっている。
俺にピッタリだった十四号は、最初の段階で第二関節を通らず、流れていった。
俺より大きいとは思ってたけど、賢吾には俺の指輪入らないのか。そんなことを思い浮かべるが、体格差を身長以外で感じてしまい、よりリアルで頭を抱える。
なんか、なんでか暑い。ここエアコン効いてる??効いてるわけない。今は十二月だ。
むしろ暖房が付いて――暖房だ。暖房が暑いんだ。
白のスエット姿になるまで上着を脱いでいるにも関わらず、体がじんわり汗ばんでいる。
「十八号ですね。かしこまりました」
「十八!?」
「僕、関節太くって」
目尻を垂れさげて、後頭部を撫でている賢吾は、俺のサイズを見て再び笑いかけてくる。
何故か身構えて、肘の位置を離してしまった。
「細くて綺麗な手だよね。朔也くん」
「か弱いって言いたいのかよ」
「まさか!羨ましいんだよ。でも......か弱いのも嬉しい。僕が守れるから、ふへへ」
「〜〜!」
言うだけ言って、リングゲージに手を添えて丁寧に定員さんへ返す賢吾を、悔しいから睨んでやった。ちょっとキュンとしたわ。男が男に守ってもらうこと想像してきゅんってなったわ。
定員さんもまさかの惚気を見せられて、顔赤くしてんじゃん。
有難いことに会釈だけしてファイルを仕舞いに走った定員さんを見届けてから、力の限り賢吾の腕をぶっ叩いてやる。
「いはは、朔也くん。なぁに」
「なぁにじゃねぇよ!!人前でやめろ恥ずかしい!」
「え〜この時期のこういうお店は慣れてるよ。......多分」
「そういう問題じゃない!!」
※
色んな工程があったけれど、どれもよくわからず、言われるがまま形にしていった。
賢吾はやっぱり物覚えがよく、ほぼ感覚でやっている時もあったくらいだ。
俺は定員さんの補助付きで、道を踏み外しそうになると手直しを加えてくれて何とか形になっていた。これなら賢吾も着けられるな。
丸太の椅子に戻ると、指輪を乗せるための小さなクッションと、その横にヤスリと研磨剤が置かれていた。
大事に各々握り締めていた指輪を、クッションに置く。
「そうしましたらラストの工程です。リングの表面をピカピカに磨いた後、刻印をこちらで入れさせていただきます」
「「はい」」
平らだった金属が、一時間やそこらでいつも見る指輪へと変わっていった。その感慨深さからか、愛着が湧いてきてこれを賢吾が着けている姿を想像するだけで嬉しくなる。
ヤスリを通すと一層輝きが増した指輪は、どこから見ても美しい。
隣の賢吾を見やると、大きな背中を丸めて、優しく愛でるみたいにヤスリを通していた。賢吾の見た目の割りに繊細な姿が、何より好きだったりする。
※
「お待たせ致しました!ペアリング仕上がりましたので、着けてみてください」
俺達のその日の定位置であった丸太の椅子に座って待っていると、小さくてオシャレなトレイに乗せられて指輪が運ばれてきた。
ゴールドの指輪そのものが波のようになっている俺の指輪と、シルバーの少し太めで表面がポコポコしている賢吾の指輪。
お互いが初めて手にした自分の指輪に目を輝かせ、顔を合わせる。
「朔也くん上手だね!!」
「俺は定員さんが手伝ってくれたからな。賢吾は、すごいな。一人でこんな難しいデザイン」
「すっごい楽しかった!」
「あはは!楽しそうだったな。集中しすぎて舌出てたぞ」
「え!?うそ!?」
恥ずかしそうに頬を染めた賢吾が、俺を見て幸せそうに笑った。賢吾は俺を見て幸せそうに笑うことが多々ある。もしかしたら俺もそんなふうに笑ってるのかな。
指輪を回して見ていると内側に数字が書かれていた。今日の日付だ。
満を持して指に通すと、右手の薬指にパズルのピースみたくがっちりとハマった。ウェーブした指輪が、指を長く見せてくれ、とても気に入ったデザインだ。
賢吾に見せようと腕を上げると、賢吾は賢吾で指輪に感動していた。指輪じゃなくて、朔也くんが作った指輪、に感動してるとかありそうだが。
指の上で輝く指輪を息を飲んで眺める賢吾に変わって、俺が定員さんと話すことにした。感想会は出てからしよう。
「最高です。ありがとうございました」
「いえいえ!お二人ともお上手でしたよ!」
笑顔でそう返してくれた定員さんが、電卓と【お釣り】と書かれたキャッシュボックスを取り出した。
「本日は、ゴールドのお客様が三万二千円。シンバーのお客様が二万五千円になります」
「はい」
財布を取り出すと、賢吾が現実に帰ってきて、俺の前に立った。
「は!?ちょ、賢吾邪魔」
「出させてよ。僕の希望で指輪にしてくれたお礼」
「にしたって俺の方が難しい柄とかゴールドにしたし!」
「この日のためにバイト増やしたし、貯金少し持ってきたから大丈夫!」
「そういう問題じゃねぇの!」
「万札ですみません......」
「賢吾......!」
俺のグズりなんて聞き流されて軽々六枚の万札が、定員さんの手元に行き渡った。
なんのために給料日後にしたんだよ。
申し訳なさを含みながらも、定員さんからお釣りを受け取った賢吾に着いていく。
軽く会釈をして店の外に出ると、寒さが容赦なく皮膚を突っついた。
未だ財布を握りしめる俺の手を優しく包み込んだ賢吾が、目線を合わせて腰を折ってくる。
「僕からのお礼だと思ってよ。今日楽しかったから」
「お礼って何?もうあの券使って来てるわけじゃねぇんだよ。平等に嘘なしで恋人として来てんの」
払わせてしまったんだから、もう感謝を伝えればいいのに、俺の口からは可愛げのない言葉ばかりが出ていってしまう。なのに、賢吾はめげることなく相変わらず幸せそうな瞳で俺を見てくる。
「分かってるよ。だけど、嬉しいんだ。僕にとっては奇跡みたいなものなんだよ。こうしてカップルが多くいるような場所に朔也くんと来れてることが」
噛み締めるように、俺の手を握る賢吾の手に力が加わった。
こんなにも愛されてしまってていいんだろうか。俺には返せる術はどこにもない。賢吾に愛されて初めて気づいた。愛する事より、愛される事の方が何倍も怖くて、何倍も嬉しい。俺はこの先も、その事実に永遠に怯えて生きていくのかな。
屈んだ賢吾の隙をついて、俺から抱きしめる。こんな機会中々ない。
だって首に巻き付くようなハグは、賢吾が屈んでくれないと出来ないから。俺から提案とか無理すぎるし。
「朔也くんっ......!」
「ありがとう。俺を好きになってくれて」
「そ、それは僕のセリフだよ」
「いいや!俺にもう一回、恋をさせてくれてありがとう」
「っ......うん。朔也くん大好きだよ」
「お、俺も。..........――大好き」
驚いた振動が俺にまで伝わってくる。賢吾は、俺の言葉に一喜一憂し過ぎだ。そんな姿が可愛くて、愛おしくて。
「それと、指輪ありがとう......」
「ぁ、うん!オシャレにできたね」
「そだな。いつかこれ見て「初デートでペアリング作りは伝説」とか振り返る日来んのかな〜」
「え、!そんなに長く隣にいてくれるの?」
「は、?逆に居ないの?」
「いる!います!絶対離さない」
「ははは、それで良い」
賢吾が、チェキ制度なんてものを作ってくれてよかった。
「あ、はい!」
「ありがとうございます。では、少しお時間早いんですが、ご案内可能なのでどうぞ〜」
店の前で男二人、看板を眺めているだけという不審行動を見られていたらしく、今回のアクセ作り体験を担当してくれる定員さんが声をかけてくれた。
定員さんの後をついて行き、丸太デザインの可愛らしい椅子に案内され、内装を目で追いながら座る。
室内には金属が触れ合う甲高い音が鳴り響いていて、みんな小さな金槌を繊細に動かしていた。
こういうちまちまする作業は、俺に出来るか分からないけれど、自分のだし多少失敗しても大丈夫。
「朔也くん。これ、お互いの作って交換とかどう??」
すぐに言葉が出なかった。
今自己完結したばっかりなんですけどね!?!? フリスビー持ってきた犬みたいに得意げな顔してるけど、手先器用なの賢吾だけだからな!?!?
止まっていた呼吸を無理やり動かし、俺は菩薩の笑顔を浮かべる。
「そーだな。俺は、手先が器用じゃねぇから、多分歪になるし各々自分の分作らないか?せっかく作るんだし、賢吾だって完成度高い方がいいだろ?」
「僕は、朔也くんが作ってくれたものならなんだっていいよ。歪なのもオシャレだよ」
――【ですよね】
こいつならそういうと思ったわ。
一応理性を使って、賢吾に背を向け軽く息を吐く。
いや、どれほどの出来になるかわかんないし。今月のバイト代全飛びの可能性だってあるし。
ぐるぐる余計な考えが頭を過ぎるけれど、賢吾を見るとその考え達が撲滅されていく。
もー知らん!!
「損しても知らないぞ!?知らないからな!?言ったからな!?」
「ッ!うん!うん!聞いた!言われた!」
「はぁー......」
どんなものができるんだ。特級呪物みたいにならない事を願おう。
「はーい。お待たせ致しました!それでは早速始めさせて頂きますね!」
分厚いファイルを持って、おっとりした笑顔で先程の定員さんが小走りでこちらへ来た。
目の前にファイルを広げられると、デザイン表が分かりやすく並んでいる。思っていた以上に種類があって、賢吾と顔を合わせ思わず吹き出してしまった。
「まずはこちらの中からデザインをお選び頂きます。その後にこちらのリングゲージを使って指のサイズを正確に測っていきます」
「分かりました。賢吾どれにする?」
「僕はシルバーがいいなぁ。槌目っての可愛い」
「あーわかる。槌目可愛いな。俺ゴールドにしよっかな〜」
俺達はあーだこーだファイルを見たり、実物サンプルを触ってみたりして、何とか決め切ることが出来た。
俺はゴールドのカーブデザインにし、賢吾はシルバーの槌目デザインにすることにした。お揃いのデザインも考えたけれど、指輪の内側に刻印が出来ると聞いて、デザインは私服との兼ね合いで決めることになった。
それと、思っていた通りしっかり良いお値段で、二人して鳥肌を作ったのはここだけの話だ。
「素敵なリングになりそうですね!では、続いて指のサイズを測っていきます!」
様々なサイズのシンバーリングが連なったリングゲージを受け取り、家にあるサイズを記憶の中から掘り起こす。確かこのくらい......だった気がする。
十四号を掴み、それ以外を振り下ろし右手の薬指にはめると、一発ジャストフィット。
「普段からピッタリめがお好みですか?」
「そ......うですね。動かないくらいが好きです」
「かしこまりました。そうしましたら、こちらの十四号で進めていきましょう」
「お願いします。はい。次賢吾」
「ありがとう〜」
賢吾に手渡すと、リングゲージを凝視して、一つ一つはめていっている。
俺にピッタリだった十四号は、最初の段階で第二関節を通らず、流れていった。
俺より大きいとは思ってたけど、賢吾には俺の指輪入らないのか。そんなことを思い浮かべるが、体格差を身長以外で感じてしまい、よりリアルで頭を抱える。
なんか、なんでか暑い。ここエアコン効いてる??効いてるわけない。今は十二月だ。
むしろ暖房が付いて――暖房だ。暖房が暑いんだ。
白のスエット姿になるまで上着を脱いでいるにも関わらず、体がじんわり汗ばんでいる。
「十八号ですね。かしこまりました」
「十八!?」
「僕、関節太くって」
目尻を垂れさげて、後頭部を撫でている賢吾は、俺のサイズを見て再び笑いかけてくる。
何故か身構えて、肘の位置を離してしまった。
「細くて綺麗な手だよね。朔也くん」
「か弱いって言いたいのかよ」
「まさか!羨ましいんだよ。でも......か弱いのも嬉しい。僕が守れるから、ふへへ」
「〜〜!」
言うだけ言って、リングゲージに手を添えて丁寧に定員さんへ返す賢吾を、悔しいから睨んでやった。ちょっとキュンとしたわ。男が男に守ってもらうこと想像してきゅんってなったわ。
定員さんもまさかの惚気を見せられて、顔赤くしてんじゃん。
有難いことに会釈だけしてファイルを仕舞いに走った定員さんを見届けてから、力の限り賢吾の腕をぶっ叩いてやる。
「いはは、朔也くん。なぁに」
「なぁにじゃねぇよ!!人前でやめろ恥ずかしい!」
「え〜この時期のこういうお店は慣れてるよ。......多分」
「そういう問題じゃない!!」
※
色んな工程があったけれど、どれもよくわからず、言われるがまま形にしていった。
賢吾はやっぱり物覚えがよく、ほぼ感覚でやっている時もあったくらいだ。
俺は定員さんの補助付きで、道を踏み外しそうになると手直しを加えてくれて何とか形になっていた。これなら賢吾も着けられるな。
丸太の椅子に戻ると、指輪を乗せるための小さなクッションと、その横にヤスリと研磨剤が置かれていた。
大事に各々握り締めていた指輪を、クッションに置く。
「そうしましたらラストの工程です。リングの表面をピカピカに磨いた後、刻印をこちらで入れさせていただきます」
「「はい」」
平らだった金属が、一時間やそこらでいつも見る指輪へと変わっていった。その感慨深さからか、愛着が湧いてきてこれを賢吾が着けている姿を想像するだけで嬉しくなる。
ヤスリを通すと一層輝きが増した指輪は、どこから見ても美しい。
隣の賢吾を見やると、大きな背中を丸めて、優しく愛でるみたいにヤスリを通していた。賢吾の見た目の割りに繊細な姿が、何より好きだったりする。
※
「お待たせ致しました!ペアリング仕上がりましたので、着けてみてください」
俺達のその日の定位置であった丸太の椅子に座って待っていると、小さくてオシャレなトレイに乗せられて指輪が運ばれてきた。
ゴールドの指輪そのものが波のようになっている俺の指輪と、シルバーの少し太めで表面がポコポコしている賢吾の指輪。
お互いが初めて手にした自分の指輪に目を輝かせ、顔を合わせる。
「朔也くん上手だね!!」
「俺は定員さんが手伝ってくれたからな。賢吾は、すごいな。一人でこんな難しいデザイン」
「すっごい楽しかった!」
「あはは!楽しそうだったな。集中しすぎて舌出てたぞ」
「え!?うそ!?」
恥ずかしそうに頬を染めた賢吾が、俺を見て幸せそうに笑った。賢吾は俺を見て幸せそうに笑うことが多々ある。もしかしたら俺もそんなふうに笑ってるのかな。
指輪を回して見ていると内側に数字が書かれていた。今日の日付だ。
満を持して指に通すと、右手の薬指にパズルのピースみたくがっちりとハマった。ウェーブした指輪が、指を長く見せてくれ、とても気に入ったデザインだ。
賢吾に見せようと腕を上げると、賢吾は賢吾で指輪に感動していた。指輪じゃなくて、朔也くんが作った指輪、に感動してるとかありそうだが。
指の上で輝く指輪を息を飲んで眺める賢吾に変わって、俺が定員さんと話すことにした。感想会は出てからしよう。
「最高です。ありがとうございました」
「いえいえ!お二人ともお上手でしたよ!」
笑顔でそう返してくれた定員さんが、電卓と【お釣り】と書かれたキャッシュボックスを取り出した。
「本日は、ゴールドのお客様が三万二千円。シンバーのお客様が二万五千円になります」
「はい」
財布を取り出すと、賢吾が現実に帰ってきて、俺の前に立った。
「は!?ちょ、賢吾邪魔」
「出させてよ。僕の希望で指輪にしてくれたお礼」
「にしたって俺の方が難しい柄とかゴールドにしたし!」
「この日のためにバイト増やしたし、貯金少し持ってきたから大丈夫!」
「そういう問題じゃねぇの!」
「万札ですみません......」
「賢吾......!」
俺のグズりなんて聞き流されて軽々六枚の万札が、定員さんの手元に行き渡った。
なんのために給料日後にしたんだよ。
申し訳なさを含みながらも、定員さんからお釣りを受け取った賢吾に着いていく。
軽く会釈をして店の外に出ると、寒さが容赦なく皮膚を突っついた。
未だ財布を握りしめる俺の手を優しく包み込んだ賢吾が、目線を合わせて腰を折ってくる。
「僕からのお礼だと思ってよ。今日楽しかったから」
「お礼って何?もうあの券使って来てるわけじゃねぇんだよ。平等に嘘なしで恋人として来てんの」
払わせてしまったんだから、もう感謝を伝えればいいのに、俺の口からは可愛げのない言葉ばかりが出ていってしまう。なのに、賢吾はめげることなく相変わらず幸せそうな瞳で俺を見てくる。
「分かってるよ。だけど、嬉しいんだ。僕にとっては奇跡みたいなものなんだよ。こうしてカップルが多くいるような場所に朔也くんと来れてることが」
噛み締めるように、俺の手を握る賢吾の手に力が加わった。
こんなにも愛されてしまってていいんだろうか。俺には返せる術はどこにもない。賢吾に愛されて初めて気づいた。愛する事より、愛される事の方が何倍も怖くて、何倍も嬉しい。俺はこの先も、その事実に永遠に怯えて生きていくのかな。
屈んだ賢吾の隙をついて、俺から抱きしめる。こんな機会中々ない。
だって首に巻き付くようなハグは、賢吾が屈んでくれないと出来ないから。俺から提案とか無理すぎるし。
「朔也くんっ......!」
「ありがとう。俺を好きになってくれて」
「そ、それは僕のセリフだよ」
「いいや!俺にもう一回、恋をさせてくれてありがとう」
「っ......うん。朔也くん大好きだよ」
「お、俺も。..........――大好き」
驚いた振動が俺にまで伝わってくる。賢吾は、俺の言葉に一喜一憂し過ぎだ。そんな姿が可愛くて、愛おしくて。
「それと、指輪ありがとう......」
「ぁ、うん!オシャレにできたね」
「そだな。いつかこれ見て「初デートでペアリング作りは伝説」とか振り返る日来んのかな〜」
「え、!そんなに長く隣にいてくれるの?」
「は、?逆に居ないの?」
「いる!います!絶対離さない」
「ははは、それで良い」
賢吾が、チェキ制度なんてものを作ってくれてよかった。
