本借りるだけでデートするとかマジですか?

 賑わう街の音が、俺の高鳴る胸をもっと駆け足に変えてくる。
 今日は賢吾と券を使わずにデートする日。
 早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんに選んでもらった服の上に、寒さを凌ぐためベージュのマウンテンパーカーを羽織ってきた。俺が持っている洋服で一番自信の湧いてくる服だ。
 着飾って分けた前髪が、目尻を何度もくすぐって、逃がすように首を左右に揺する。
 外気で冷えた手のひらに熱を与えている携帯を、慣れた手つきで起動した。

(集合の十五分前か......俺浮かれすぎ......)

 集合場所へ近づくに連れて、時間の進みの遅さに体当たりされる。ここまで浮かれてるとは思わなかった。
 恋人になって、正々堂々デートするということが、こんなにも俺にとって重要な事だったのか。
 今までの恋愛では、デートは実技みたいなもので。女の子をどれだけ理解して、どれだけおもてなししてあげられるかを、試されるものだという認識が、頭の片隅に鎮座していた。
 携帯を硬く握りしめる。

(......早く会いたいな)

「......っ朔也くん!」

 コートに埋めた頬を、外の世界に放り出す。冷気が皮膚をヒリヒリ痛めるのと同時に、頭の上で大きく手を振っている賢吾の姿が飛び込んできた。
 すぐに携帯をショルダーバッグに入れて、俺の元へ走ってくる。
 俺も俺で少しだけ、ほんの少しだけ体が前のめりになった。

「お前早くね......?」
「へへ、楽しみで早めに着いちゃった」
「ほっぺ真っ赤じゃん......冷たっ」
「朔也くんの手も冷たいね。ふふ、あっ、今日の服もオシャレだね」

 賢吾の頬に当てた手を握られ、戸惑っていたのも束の間、今日着てきた服が話題となった。
 分かりやすく目を逸らして、服を見つめる。あ、コートの前閉めてる! 寒くてコートを閉めていたが故に、せっかくの一張羅が全く見えていない。
 慌てて自由な方の手でチャックを下ろすと、ベージュで統一された洋服たちが顔を覗かせる。
 その瞬間、頭上から息を吸う音が聞こえてきた。

「ほ、本当に僕の好みだ......」
「......?」
「長浜さん達に、恋人に着て欲しい服教えてって聞かれて答えたんだけど......まさか朔也くんで見れるとは思わなかった」
「い、いつ聞いた?」
「えっと、確か、二週間くらい前かな」

 二週間前......。俺が早柚ちゃん達と服買いに行った日だ。あの自信の根拠あったんかい!!!
 ジロジロ視線を感じ、このままでは内心が表情に出てしまいそうで、勢いよく賢吾の手を引いた。

「もう行くぞ!!予約時間あるだろ!?」
「あ、そうだね!」


 ※


 徒歩で十分くらいの場所に目的地があり、思ったよりも時間を食わず、予約時間より十五分早い。そりゃそうだ。そもそも集合時間より早く集まってんだし。

「ここで合ってんの?」
「うんっ!楽しみだったんだ〜!朔也くんとお揃いのアクセサリー作るの」
「ずっとうるさかったもんな、賢吾。このために給料日後まで、デート伸ばしたし」
「お互いバイト詰め詰めにしたよね」

 今日の行先は、初デートの場所を二人で夜な夜な相談していた時に、賢吾がURLを送ってきたのが始まりだった。ペアアクセを作ってみたいと。だけど、こういう所はそれなりに値段がするので、お互いの給料日が終わった十二月上旬辺りでデートしようということになったのだ。
 それまでの大体二週間は、賢吾が会う度「楽しみだね!」「どんなの出来るかな?」と隣でうるさかった。本当にうるさかった。
 思い返してにやけそうになる俺の隣で、賢吾は店前の看板に大きく貼られたペアリングをチラリと見てから、ペアネックレスに視線を移した。

「こういうのいいよね」
「ネックレス?確かにな。指輪は何となくハードル高いしな」
「......そうだよね」

 声のボリュームがだんだん下がって、肩も丸まっていく賢吾はすげぇ分かりやすかった。ペアリングがいいって言えばいいのに。
 俺も賢吾の隣にヤンキー座りして、ペアリングを眺める。
 こんなの学校に付けて行ったら一瞬でからかわれんだろうなぁ。まぁ、それも悪くねぇか。
 今にも地面をいじいじしそうな賢吾の顔を覗き込み、頬が縮まっていくのを感じた。

「ペアリングするか?」
「へ!いいの?ハードル高いとか......」
「せっかく来たんだし、いいじゃん。初デートでペアリングは重いけどなぁ〜?」
「ご、ごめん......」
「んはは!まっ!クリスマス月だしな?」

 俺が賢吾の背中をバシッと叩く。それに痛がる素振りも見せず、ただ嬉しそうに笑っている。流石大男。
 ..........ペアリングか。俺は重いって言われたくなくて、渡せなかったな。
 恋人だし、右手の薬指にはめんのか?賢吾の方が大きそうだな。
 こんなこと口が裂けても言えないけど――

(夢だったんだよなぁ。ペアリングつけるの)