本借りるだけでデートするとかマジですか?

「本当に私たちいる〜??」
「早柚ちゃん、陽菜乃ちゃんごめん。事情聴取にお付き合い下さい。......って陽菜乃ちゃんは何してるんだ?」
「ひなちゃん?あぁ、賢朔爆誕したかを観察してんだって」
「「は"!?/ぇ!?」」
「「わぁ......」」

 ズル休みをした翌日。大人しく学校に足を運んだ俺たちは、しっかりと授業を受け、お昼休憩に各々ご飯を持って図書室に集まった。メンバーは、俺、賢吾、早柚ちゃん、陽菜乃ちゃん。
 俺が嫌悪していたチェキ制度を、何故か賢吾が生み出していたと聞き、俺としてはあの日色々ありすぎた。賢吾のお父さんのこともそうだけど、本当に情報量が処理しきれなかった。
 なので、早柚ちゃん、陽菜乃ちゃんを交えてチェキ制度の事だけでも先に整理出来たらと思ったんだけど――。

 【賢朔爆誕】話になってしまった。

「なに!?本当に!?早柚ちゃんヤバくない!?」
「ひなちゃん......私たちは感慨深いよな......母性が芽生える。普通に危ない」
「ま、まだうんともすんとも言ってないだろ!?!?なぁ!?賢吾!!」
「ぇ......あ、」
「「いや、確定っしょ」」
「賢吾ぉおおおおおお!!!!」

 バレると色々めんどくさいだろ。なんで乗り切る嘘つかないんだよ。
 机に肘を付いて、また重くなった頭を崩れてしまわないよう全力で支える。少しでも軽くしようと息を多めに吐くけれど、何も変わりはしなかった。
 まぁ、賢吾は嘘つけるタイプでもないしな。そう自分の中で割り切ると、賢吾に愛おしさを感じて、世のバカップルってこんななんだな。なんて客観視してる自分と対立することとなった。

「確かに......もういいか。付き合ったけど、そこまで騒ぐほどのことでもないだろ」

 恥ずかしさがエベレスト級に登りつめたが故に、少しぶっきらぼうに落ちていった言葉。
 その言葉を聞いた女子二人が、血相変えて乗り出してくる。ちょ、怖い。

「何言ってんの!?比嘉くんがどんなに頑張って接点作ろうとしてたか分かって言ってんの!?」
「さく......さくが思ってるより比嘉くん頑張ってたよ」
「え、それは分かって......」
「分かってない!!あの一切喋ってくれなかった比嘉くんが、私たちに『思いついた事があって......』って自分から話しかけに来てくれたんだよ!?」

 図書室とは思えないほどの声量に圧倒され、思わず席を立ち上がった。
 俺に対する熱意は、賢吾から相当感じていたけれど、もしやそれは一欠片に過ぎなかったのかもしれない。

「さくは気づいてなかったかもしれないけど、私とひなちゃん、比嘉くんがさくのこと好きだって一年の頃から聞いてたの」

 驚いて隣を見ると、陽菜乃ちゃんが赤べこみたく首を振り回して同意していた。
 賢吾にアイコンタクトを取った早柚ちゃんが、いつもの可愛さを封じて、真剣な眼差しで会話を切り出した。

「比嘉くんが初めて話しかけてくれた時、私たちびっくりして声も出せなかったんだけど、手に持ってた企画書みたいなやつはオシャレで分かりやすくて、すぐに私たちは委員会で先生と先輩に話していることにしたの。それが――チェキ制度だった。一応表立っては【脱・スマホ】とかなんとか謳ってるけど、私たち三人にはそんなものどうでも良くて、ただただ(さく、さえ釣られてくれればそれで良い)って思ってたんだ」

 高く可愛い声の面影は少ししかなくて、落ち着いた繊細に鼓膜を揺する低めの声が、また一つと賢吾の新しい顔を教えてくれる。俺は唾を飲み込む音さえもうるさく感じる程、早柚ちゃんの話すことを取りこぼしたくなかった。

「結果、さくはまんまと釣られてくれて、どんどんスタンプは溜まっていく、よしよし......なんて思ってたんだけど......ここで私たち当たり前なのに、頭が回ってなかったことに気づいたの。それがぁ......さくが比嘉くんを指名するかどうか。もーね。私たち冷や汗ダラダラで!もし他の子選んだら......でも当然有り得るし、そっちの方が比率高いし、なんでここ考えなかったの!?って三人で悩みまくったけど――」

――『あー、んじゃ、あんたで』

「まさか、比嘉くんを選ぶと思わなくて、さくが図書室を出てから三人で大はしゃぎして!まぁ、そのあと?なんで比嘉くんなの〜って私がベタベタしに行ったら――」

――『早柚ちゃんが指名してほしそうだったから。嘘嘘。痛って痛ッ!!じょーだんだってば!!選ぶのめんどいから受付のやつでいいかって思っただけです!!!』

「こいつキモっ!って思ったけど、いい情報聞いちゃった☆と思ったよね〜。私がベタベタしてたらさくは天邪鬼だから自然と別の方向見るし、今後も受付の子選ぶのかな〜って。そこからは徹底的に比嘉くんを受付にしたの」

 所々、耳が痛い言葉が飛んでくる。確かに今思うと俺きめぇな。
 目の前の早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんが楽しそうに、お互いの顔を見て笑っている。
 それを眺める俺に隣から視線を感じて、振り向くと、賢吾は目が合った途端微笑み、絡んだ視線をちぎった。俺の眉がどんどん二重幅に近づいてくるのがわかる。見てきたくせにあからさまに逸らすなよ。
 振り向かせようとして肩目掛けて手を伸ばしたと同時に、早柚ちゃんが再びこちらに体を向けた。

「そしたらさ!どんどんどんどん面白いくらいにスタンプとチェキが溜まっていって、八枚目のスタンプカード辺りで何となく私たち察し始めてさ。(あ、これ作戦成功するな)って。毎日本を借りては、スタンプカードを見て不細工な顔するさくは面白かったし、そのさくを何度も見るうちに表情が明るくなっていく比嘉くんを見るのも嬉しかった。......さくが比嘉くんおすすめのPOP見て本を持ってくる回数が増える度に、もう私たち心臓バクバクだったよ」

 カタンと床を鳴らし立ち上がった早柚ちゃんが、香水の残り香を背に歩き出す。図書委員おすすめ棚の前に立ち止まり、そっと指先を触れてから、勢いよく振り向いた。高めの位置で結ばれたポニーテールが、アイドルみたいに揺れ動く。

「さくさぁ、比嘉くんおすすめの本、コンプリートしたの気づいてる?」

 可愛らしく目元が縮められた事で、光の当たり方が変わりラメがキラキラと輝く。その目が見ていた先に目をやると、賢吾おすすめゾーンの本は、ところどころ借り出され虫食い状態だ。だけど、並んでいる本の背表紙にはどれも身に覚えがあって、内容までも容易く頭に浮かんでいる。
 俺は、賢吾のおすすめ本を全て読んだのか。考えると徐々に体の芯が暑くなって、髪の先までも暑く感じた。

「ふはは、やっぱり無意識だ。......そういう進展を感じながらもチェキが十枚溜まった日、初めて比嘉くんが自ら動いて私たち驚いたの。これまであまり自分の意見は出さなかったのに、さくが離れていく姿には一目散に動いてた。私とひなちゃんは、もう息子の恋応援してるみたいだったよ〜」

 コロコロ声を上げて笑った早柚ちゃんは、再び陽菜乃ちゃんの隣に腰掛けた。机に置かれた巾着袋の紐を自然な流れで指に絡め、俺と賢吾を交互に見てくる。
 俺も不思議と賢吾へと目線が動き、緊張からか運動後みたいに汗を流す姿に、思わず吹き出してしまった。慌てた様子で制服のポケットからハンカチを取り出し、汗を拭う賢吾は妙に色気を含んでいて、感染するみたいに俺も汗が滲んでくる。
 勝手に気まずい空気を生み出した俺を見て、高くキャハキャハした笑い声が二つ分耳に届いた。

「比嘉くん!作戦は成功した??」
「......はい」
「じゃあ、その作戦名言っちゃっていい?」
「......ッ、はい」

 大きなはずの賢吾が、華奢な早柚ちゃんの言葉に、体を小さくさせている。
 体目一杯、息を吸い込んだ早柚ちゃんが、得意げに身を乗り出した。

――『嘘でもいいから、一度限りのデートがしたい』

 早柚ちゃんの作ったアイドル声から発されると、なにかのタイトルかと思ってしまいそうな一言だった。
 陽菜乃ちゃんと目を合わせて、二人でWピースをズイっと顔の前に持ってこられる。

「これが、比嘉くんがチェキ制度作った理由だよ!」

 早柚ちゃんに続いて陽菜乃ちゃんも嬉しそうな声をあげる。

「デートだけで帰ってくるかなって思ってたら、大きな収穫祭りで、結果お付き合い出来て、作戦大大成功だね!!比嘉くん、おめでとう!!」
「あ、ありがとう」

 照れくさそうに小さく息を漏らして笑う賢吾は、酷く満足そうな顔をしている。俺以外の前でそんな顔すんな、なんて今は言えるはずない。
 口を開こうとすると、早柚ちゃんが俺の隣まで来て、勢いよく手を差し出してきた。

「はい!」
「え?なに?」
「なに?じゃないよ!!芙美ちゃんから貰った券返して」
「ん?なんで??」

 俺の返答に、大きすぎる、大袈裟すぎるため息を吐いた早柚ちゃんは、びっくりするほど俺を鋭い眼光で射抜いてくる。
 肩を思いっきり捕まれ硬直すると、恐ろしく完璧な笑顔で真っ直ぐ見つめられた。

「まだわかんない??券使わずデートしてこいって言ってんの!!」
「そーだ!そーだ!」
「陽菜乃ちゃんまで!?ちょ、痛い!」
「付き合ってんでしょ???デートして、キスでもして来い!!!キスした!?!?どーせ二人のことだから出来てな――」

 キス――この単語に、道端で触れ合った熱を思い出してしまう。昨日の今日では、感覚や記憶は鮮明で、考えすぎないようにしてたのに。
 早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんから定まらない焦点のまま目を逸らす。
 その直後、俺に集中していた気配が、賢吾に向いたことを感じた瞬間に、「へぁ......!」とかいう力無い声が聞こえてきた。
 何かを察したであろう女子たちは、そっと巾着袋を手にし上品に会釈をしてきた。

「ここからはお二人でお昼どうぞぉ。私たちは失礼します」
「早柚ちゃんの言う通り、失礼します」
「あ、さく。券勝手に抜き取っとくから!!」
「じゃね〜!!」

 そそくさ走って図書室を後にした二人の残像を目で追う。
 なんだかどっと疲れた。でも、知りたかった事は、多分賢吾から聞くよりも知れた気がする。
 取り残された気まずさを紛らわす為、足を擦り合わせる。
 そんなことをしても心臓の痒さは収まるはずもなく、目の前の巾着袋に手を伸ばした。
 なるべく明るいいつも通りの声を出す。

「飯食おーぜ!」
「う、うん!」
「うんっ、色々知れて嬉しかった!まさか賢吾があんな理由で生み出したもんだったとは、あはは」
「う、嘘でもいいって......もう思わない」
「ん?」
「次のデート、嘘じゃなくて本当がいい。......券無しでデートしたい」